番外編 在りし日の憧憬②
明けましておめでとうございますm(_ _)m
今年も宜しくお願い致します‼
因みにてすが、この章で書きたかったのは、前半のほのぼの?部分なので、話も十話前後と長めになる予定です。
「相変わらず、仲が良いですね」
クスクスと耳心地のいい女性の声が聞こえて振り返ると、そこにはよく見知った女性が立っていた。
燃えるような赤い髪を持つ女性は、腕に大きな籠を持って此方へと歩いてきた。
「どうしたの、アーシャ?」
スレイヤは女性、アーシャへと手を出すとその手を引いてエスコートをした。
「とてもいい天気でしたので、スレイとジークとお昼をご一緒しようと思いまして」
そう言って微笑むと、アーシャは籠を持ち上げて見せた。
アーシャやスレイヤとは長い付き合いだ。
2人とは実家の身分に差はあれど、昔から対等な友人として付き合っていた。
「アーシャ……君1人の身体ではないのだから……1人で出歩くものではない」
私はアーシャの持つ大きな籠を取って小言を溢した。
アーシャもスレイと同じで、自由が過ぎる。
こんな森に、1人で入ってくるなんて……。
「あら? 私の剣の腕をお忘れかしら? その辺のごろつきや魔物に遅れはとりません!」
「そうだぞ、ジーク。アーシャは男だったら、是非うちの部隊に欲しい程の逸材なんだから!」
アーシャは不満顔で、スレイヤそう言っては笑うだけ。
本当に似た者同士だ……悪い意味でもだが。
「そこは、ジークがいるから丁度いいんだよ」
私の考えを読んだのか、スレイヤがそんな事を自信満々に言った。
「……私は、お前達の保護者ではないのだが」
寧ろ2人には、もうすぐ自分達が親になるのだから、少しは大人になって欲しいものだ。
「ふふ、いいじゃないですか。私達は兄弟のようなものですし……そうだ、スレイ、あの話はもうしましたか?」
「あぁ、さっきジークに頼んだよ」
アーシャがスレイヤに目配せすると、スレイヤはニコリと笑みを浮かべて頷いた。
「…お前達……大事なものなのだから、自分達で考えろ」
先程の話は、アーシャも同意の上であったらしい。
「仕方ないだろう。2人で意見が割れたんだ。俺はアシュレイがいいと想ったんだけど」
「私は絶対、レイアスがいいと思うんです!」
「……珍しく意見が割れちゃってね。それなら、ジークに決めて貰おうって事になったんだ」
どうやら、俺が決めるしか道はないようだ。
それに、それだけ信頼されていると思えば、それはそれで嬉しいものだ。
「……そうだな……レイアスがいいんじゃないか?」
名前の様に、剣のように鋭く賢い子になればいい。
スレイヤのように強く、アーシャのように優しい子に。
「流石、ジーク! 分かってますねっ!」
「えー、アシュレイの方がよくないか?」
私がアーシャの意見を支持すると、アーシャは当然とばかりに。
スレイヤは不満そうな顔を浮かべた。
「アシュレイは、2番目子に付ければいいだろう。……と言っても、次が男の子とは限らないが」
でもこの2人なら、子沢山になりそうだ。
大勢の子供に囲まれている未来が、容易に想像出来る。
「……そうだな、次の子はアシュレイにしよう!」
「まだ、この子も産まれていないのに、気が早いですよ」
3人で笑いながら、森の中を歩いていった。
2人が思いつきで突っ走るのを私が止める。
または、決断の遅い私を、2人が手を引いてくれる。
2人が結婚しようと、3人の関係は変わらない。
私はその事にひどく安堵した。
「ここで、いいんじゃないか?」
「そうですね、此処にしましょう」
アーシャは開けた場所に敷き布をしくと、そこに腰を下ろし籠の中身を並べていく。
中身は肉や野菜が大量に挟まれた、食べごたえのあるサンドウィッチであった。
「子供と言えば、ジークも早く結婚しないとな。ジークの子と俺の子を、結婚させる予定なんだから。2人目に間に合わない。ジークは好きな人とか居ないのか?」
「何だその予定は……私は聞いてないぞ」
スレイヤの突飛な発言はいつもの事だが、この話題には渋い顔しか出来ない。
私は自身の目へと、そっと手を這わせた。
「結婚は別にしても、年が近い方が一緒に遊べていいじゃないですか。きっと、楽しいと思います」
しかし、そんな私の気持ちを知らずにアーシャはそれは良いと言って微笑んだ。
「……こんな眼を持つ私に、嫁ぎたいと言う物好きはいないだろう」
私の家は、代々軍属の家系だ。
固有魔法も宿した魔眼持ちも、かなりの数輩出している。
父は受け継がなかったが、私はその血を色濃く受け継ぎ固有魔法を発現させている。
“アイギス”
見たものを石化させる固有魔法。
範囲は狭いが、他の家の固有魔法とは違い短い詠唱で済むのが利点だ。
また、威力は落ちるが、詠唱破棄で見ただけでも発動出来る。
固有魔法に加えて剣術にも優れている事から、対人戦においては敵無しと他国から恐れられていた。
だが、この魔法は同じ国に住まう筈の者達にとってもまた脅威であった。
2人の前だから外したままだが、他人と接する時は顔の上半分を覆う眼帯を着けていないと、私はあからさまに怖がられる。
そんな人間と、どうやって結婚生活をおくれと言うのか。
私相手に進んで結婚を望むものはおらず、結婚するなら政略の絡んだものしかないだろう。
「あら、絶対に居ますよ。ジークはとても素敵な男性ですから」
「そうそう、もし出会えなくとも、その時は俺達の娘を嫁がせるから大船に乗ったつもりでいろよ。幼妻っていうのも、男心をくすぐるロマンだろ?」
2人は、いつもこうして大した問題ではないかのように言う。
だから、私は2人の前ではこの眼帯を外す事が出来るのだ。
2人の存在に、私はいつも救われている。
「まぁ、スレイは若い娘の方がいいって言うのかしら?」
スレイヤの物言いが気に入らなかったのか、アーシャが貼り付けような笑みを浮かべながら、スレイヤの足を思いっきりつねっていた。
「いた、た。ちょっと、アーシャ。そんなの物の喩えだよ。俺はアーシャ一筋だから!」
「ははっ……お前達は昔から、ずっと変わらないな。2人ともありがとう……そうだな、もし独り身のまま残ってしまったら、お前達の娘を貰い受けるとしよう。最も、私の場合は政略結婚を先にしそうだがな……」
もし、本当に結婚せずにこのまま10年、20年が過ぎたのなら、それも面白いだろう。
スレイヤを父上と呼んで、からかうのも楽しそうだ。
それに2人の子なら、どちらに似ても綺麗な子になるだろう。
いや……2人に似てしまったら、私が振り回される事になりそうだ。
「は? 政略? 誰とだ? 俺は聞いてないぞ!」
スレイヤは政略結婚の方に気がいったのか、私を質問責めにした。
まぁ、まだ言っていないのだから、知らなくて当然だ。
「……父上からは、シュトロベルン公爵の娘を薦められている」
「は!? シュトロベルン? あの、シュトロベルンかっ!?」
私の話にスレイヤ先程までの笑みを一転させて、驚いた顔をした。
そんなに意外であろうか?
あの家は魔眼狂いであるのだし、我が家に眼をつけてもおかしくないと思うのだが。
「あぁ、あの魔眼狂いのシュトロベルン公爵だ」
シュトロベルンは、代々魔眼持ちを輩出している名門中の名門だ。
身分を考えれば、相手としてこれ以上の相手はいないだろう。
「俺、聞いてないんだけどっ!? というか、絶対駄目だ! 反対、反対!! シュトロベルンの娘って言ったら、クリスティーナ・シュトロベルンだろ? こんな田舎にも聞こえてくる位の毒婦じゃねぇか。そんなアバズレに、ジークをやれるかよ!」
「私も……ご本人に会った事もないのに言うのは、アレですけど……派手な噂しか聞かない方なので……」
私は政略結婚は当たり前だと考えているので特に思うところはなかったが、2人にとっては違ったらしい。
予想以上の反対を受けた。
「まぁ、今はまだそう言う話が上がってるだけだし……公爵はともかく娘のクリスティーナ嬢は、見目がいい男を好むと聞く。私のような者を選ばないだろう」
寧ろ、彼女の好みからすると──
目の前のひどく整った容姿の男を見る。
この男の方が、余程好まれそうだ。
「……何がなんでも俺は反対だから」
「……分かったよ」
私がそう約束すると、スレイヤは安心したのか手に持ったサンドウィッチへとかじりついた。
SSは後で上げます。