番外編 在りし日の憧憬①
やっと、ここまで来ました\(^-^)/
番外編は他視点、ジークフリード将軍による過去編?みたいな感じです。
ある一人の人間の栄光と破滅、前半ほのぼの?後半ドロドロのバッドエンドで終わります。
また、注意ワードなどもありますので、その辺になったら前書きに載せますので駄目だったら飛ばして頂く形でお願いしますm(_ _)m
あくまで他視点ですので、大きな問題はないです。
その内、本編でさらっと触れる事になります。
この番外編は、上げて落とす仕様です。
「お久し振りですね、スタッガルド将軍」
壮年の男が、私を出迎えた。
私達が学生の時に、教鞭を取っていた教師だ。
「そうだな…………もう何年も此処には来ていなかったからか……とても懐かしく感じる」
何年も訪れなかった学園に足を運ぶ気になったのは、気持ちに区切りがついたからかもしれない。
この場所は私達もかつては共に過ごした場所だ。
アイツとの、スレイヤとの記憶も此処には色濃く残っている。
私達にとって、何よりも大切でかけがえのない思い出が。
「アシュレイは……うまくやっているか?」
アーシャはあれから、以前の姿が嘘のように明るく笑うようになった。
いや、昔はそうであったのだ。
その事が正しい事なのかは、私にはまだ分からない。
けれど、未来を見据えて行かなければ。
シュトロベルンの所業を赦すことは決して無いが、アシュレイ達にまで遺恨を持ち込むべきではない。
アーシャやキリリィク、そして私も前へ進まなければならない。
私達は大人で、あの子達を守る義務があるのだから。
「えぇ、初めは周囲と壁を作っていたようですが……今はほら、彼等とよく一緒に居ますよ」
私はこの眼でその光景を見たくなって、普段魔眼を隠している眼帯を少しずらした。
教師が指差す先、そこには数人の少年達とアシュレイがいた。
そして、その側にはあの魔眼持ちの少年と──スレイヤの血を引く少年も。
「……楽しそうだな」
アシュレイはスタッガルドに居た時は、剣や強さだけをひたすらに追い求めるだけだった。
無意識なのか、アーシャを守る為だけに努力をしていた。
その世界が広がったのだ。
それだけでも、アシュレイがこの学園に来たのは正解だったのだろう。
「えぇ、まるであの頃の貴方達を見ているようです。特にレイアス君やアシュレイ君は、貴方達の面影を強く受け継いでますから」
「……そうだな」
私は3人を見詰めているうちに、過去の憧憬へと思いを馳せた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「──スレイ、此処に居たのか」
この幼なじみで私の副官でもある青年は、よく突然居なくなる。
此方が書類に追われている中でも、自分は外に出て昼寝にふけるとは良いご身分だ。
「んー? 何だ、ジークか。何の用? 俺は身体を動かす仕事とかなら、楽しそうで大歓迎なんだけど」
欠伸をしながら、眠たげな目を此方に向けるのは整った容姿の美しい青年。
怜悧な美貌を持っているのに、ざっくばらんな性格のせいか、冷たい印象はなく親しみやすい雰囲気だ。
そのせいか、顔目当てで多くの女性が群がってくるが、イメージと違うと落胆する女性が大多数だ。
こんな男についていけるのは、それこそアーシャ位だろう。
「お前な……会議をすっぽかして言うセリフではないだろう」
俺はいつも通りとは言え、嘆息と呆れた目を向けずにはいられない。
こうしてスレイヤがサボる度に私が連れ戻すのが、既に習慣と化している。
「いいじゃないか、ジークは働き過ぎなんだよ。息抜きにちょうど良いだろう?」
身体を起こし、長い漆黒の髪を後ろで結び直した。
「お前が逃げるせいで、皺寄せが私にまで来ているのだがな……」
「ははっ、まぁそう硬い事言うなよ。俺は身体を使う労働の方が、あってるんだよ」
スレイヤはそう言って、木に立て掛けていた剣を腰にさした。
中央に青く美しい魔石をはめ込んだその剣は、スレイヤの家に代々受け継がれているもので、彼の唯一無二の相棒だ。
スレイヤの魔力とも合っていて、戦場では脅威的な戦闘力を発揮する。
「身体ってな……スレイ、お前もうすぐ父親になるんだろうが。少しは落ち着け。只でさえ、婚姻前の妊娠で周りが煩いのだから」
スレイヤはもうすぐ父親になる。
まだ正式に婚姻を交わしていないのに、アーシャに手を出していたのだ。
隣国との小競り合いのせいで、何度も式が延期になっている事を考えると気持ちは分からなくはないが、本当に自由奔放過ぎる男だ。
勿論、貴族間の婚姻ではあまり誉められた事ではない。
「大丈夫、大丈夫。俺の家もアーシャの家も、貧乏貴族だし。社交界にも出ないから、周りでこそこそ言われようが関係ないし」
「関係ないって、お前な……」
スレイヤが全く気にした様子を見せずに笑みを浮かべるから、気にしている自分の方が馬鹿馬鹿しく思える。
周囲の眼を気にしてばかりの自分には、出来ない発想だ。
まぁ……実際、スレイは貴族の社交界には向いてないからな。
適当な男だが、アーシャに対しては誠実で一途だ。
こんな辺境でさえ多くの女性に囲まれるのだから、王都の社交界なんかに出たものならそれこそ婚約者が居ても群がられるだろう。
群がってくる貴族の令嬢にキレて、暴言を吐く姿が目に浮かぶ。
「そうだ、ジーク。アーシャと子供の名前は、レイアスかアシュレイにまで絞ったんだけど……どっちがいいと思う?」
「何故、男の子の名前だけなんだ? 女の子かもしれないだろうに……それに、何故そんな重要な事を私に聞くのだ?」
真剣な表情で尋ねてきたが、それは夫婦間で決める事だろう。
「俺とアーシャの子なんだ。最初の子は、強い男の子に決まっている! それにジークは、家族みたいなもんだから、お前に決めて欲しいんだよ」
スレイヤは胸を張ってそう主張すると、太陽のような笑みを浮かべた。
本当にスレイは顔と中身が一致しないな……。
スレイは誰からも好かれていた。
人を惹き付ける、魅力を持っている。
俺自身も、自分にないものを持っているスレイに憧れていた。
スレイとアーシャは幸せになるのだと、誰もがこの時そう信じていた。