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37話 憤怒の祈り

ね、寝落ちしてしまいました……(ToT)

す、すみません二、三時間とか言ってたのに……

更新が遅れた関係で、本日二話目です。

ちょい、ホラー注意。

後半視点が変わるせいか、若干怖い感じになってますm(_ _)m


   

あの後、一触即発かと思われたが、人目があるせいかアーシャ・スタッガルドはただ睨むだけで、アシュレイと共にスタッガルド領へと帰っていた。

俺達もまた少しギスギスしてしまった空気の中、帰路につき、父様やお祖父様達にこってり絞られたその夜⎯⎯⎯⎯




「……早速、無茶する事になってごめんなさい、母様。でも、必ずこの場所に帰って来ますから……いってきます。“テレポート”」


月が高く登り屋敷の皆が寝静まった頃、俺は1人支度を済ませ転移の魔法を使用した。

向かう先は、勿論スタッガルド領だ。


「スタッガルドの屋敷は……彼方か」


俺は目的地の数キロ離れた場所へと転移すると、事前に調べていたスタッガルド屋敷を歩いて目指した。

これは将軍に、悟られない為だ。

屋敷の敷地内で、大きな魔法を発動しては高確率で気付かれる。

その為、近くまで転移して徒歩で屋敷まで移動した。


「ここが……」


俺は屋敷に辿り着くと、魔導具で結界や罠等の抜け道を眼鏡で探知して敷地内へと入り込んだ。


それにしても……やっぱり、この魔導具中々ヤバイものだよな。

家の屋敷は調べて穴がないようにしてるけど、普通穴なんて探しても見つからないもんだし。


兄様から貰ったはいいものの、これが一般に流通したら大変な事になる。


「よっと……アーシャ・スタッガルドは……」


抜け道を通って出たのは、敷地内の端も端であった。

だが、その分人気も少なく、見られる心配もない。


ぐるりと敷地内を見回すと、本邸と思われる場所に普段見慣れている魔力の色が見える。

髪と同じく、燃えるような炎の赤。

アシュレイの魔力だ。

その少し離れた所に、強い魔力が見える。

これは将軍のものだろう。

色はアシュレイと比べれば少し暗かったが、それでも黒く染まっていたり混じっているという事はなかった。

本邸内をくまなく観察するが、目的の人物の魔力は見られない。

本邸から出ているのだろう、こんな夜更け(・・・)に。


外にいるのか?

まずいな、早く見つけないと……。


彼女は既に危険な状態だ。

何をするのか分からない。

屋敷の外へ出たのかと、視線をさ迷わせるとあの時見た黒が視界の端にちらついた。


居た……。

間違いない。

アーシャ・スタッガルドの魔力だ。

昼間に見た通り、禍々しい黒を帯びている。


「……教会?」


発見した魔力の場所に近付くと、木々に囲まれた小さな教会がそこにはあった。

雲が多く何時もより暗い夜のせいか、薄気味の悪い場所であった。


「……やっぱり、今日来て正解だったな」


ここに辿り着くまでに、アーシャ・スタッガルドの魔力はどんどん黒く染まっている。


手遅れになる前に間に合ってよかった。

きっとアレは、ずっとアーシャ・スタッガルドの中にあったのだろう。

それが今日、兄様を見た事で溢れ出しただけに過ぎない。

そして、ここ(・・)が兄様達の運命(シナリオ)の分岐点だ。


俺は教会の扉を、ゆっくりと押し開いた。

中に入る直前、ぽつりと空から雨の雫が頬を伝った。













◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆












「何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で───────……………」


女はずっと、同じ事を何度も何度も1人呟いていた。

最近の女は心穏やかであった。

1人息子に友人が出来たらしく、女もまたそれを心から喜んでいた。

母親として、ちゃんと喜んであげられた。

全てを忘れた訳ではない。

けれど、母親として残された息子に目を向けなければと、ずっと自分を抑えていた。

神へと祈りを捧げる事で、穏やかに。

罪人には、神がいつか罰を下すと。

それなのに⎯⎯⎯⎯


「クリスティーナ、シュトロベルンッッ!!!」


その名は、口に出すのもおぞましい。

けれど、避けてなかった事にするなんて出来ない。

女にとって、クリスティーナ・シュトロベルンは──



殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて─────殺したくて。

ただ全てを奪って奪って奪って奪って、根こそぎ奪って──何もかも壊してやりたい。


その栄光が消え去り、地にふして地獄を見たとしてもなお、赦す事は決して出来ない相手であった。


「何で何で何で……何で、あの女はまだ生きてるの……? あの女は、私からあの人を奪ったのに。あの子(・・・)まで奪ったのに、何もかもを奪ったのに……何で何で、あの女は全てを持っているの? これだけ、祈っているのに、わたし、私、私は……」


とうとう我慢が出来なかったのか、女は祈る手をほどき床に手を叩き付けた。

何度も、何度も。

その手から次々に血が滴っても、女は止める事が出来なかった。

憎悪を、殺意を抑える事はもう女には出来なかったのだ。


それは長年、積り積もった物であったけれど、引き金はその日の昼の出来事にあった。

女は息子が学園の実習で行方不明になったと聞き、いてもたっても居られなかった。

自らダンジョンへと乗り込もうと、周囲に止められた程だ。

歪んではいたかもしれないが、女は確かに息子の事を愛していた。

だから、無事に発見したとの報を聞き、周囲の制止を振り切って息子を迎えに行ったのだ。

9年前、あの時から公の場所に姿を現す事はなかった女が、大勢の騎士達が集まる場所へと足を踏み入れた。

息子の無事な姿を見つけた瞬間、女は心から安堵し神に感謝もした。

けれど、その場にはアレ(・・)も居た。

シュトロベルンの忌々しい、穢らわしい血を引くアレ(・・)が。

アレ(・・)は貴族達の噂によく上っていた、それこそ普段閉じ籠っている女にも聞こえる程に。

アレ(・・)は、優秀なのだという。

あの人と、瓜二つだと言う。

……アシュレイは、女の面影をよく継いでいた。


アレ(・・)を見た瞬間、もう駄目だった。

今まで、抑えていたものがせきをきったように溢れ出す。


アレ(・・)は、本当にあの人によく似ていた。

黒い艶やかなかみに、美しいアイスブルーの瞳。

眼鏡をかけているせいか、雰囲気は少し違うが顔の造形はあの人の若い頃を見ているようだった。


「あの女の血を引いてるのに、あの穢らわしい血をっ! 私からあの人とあの子(・・・)を奪ったのにっ!!」


女は誰からも祝福されて、幸せになれる筈だった。

愛する人と、可愛い子供達。

手の届く場所に、その幸せはある筈だった。

けれど、たった1人の人間の欲望で全てを失った。

だから────


「……私はもう、祈らない。あの女を例え刺し違えてでも、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」


祈らない、そう決めた瞬間から、女は自らの内に力が沸き上がるのを感じた。


それはあの時から、ずっと女の中にあったもの。

女の中で、消える事なく燃え上がり続けたもの。


力の発露に、女は口角を引き上げる。

これで復讐を遂げられると、女は喜んだ。

女にとってそれがどのような力でも、例え身を滅ぼすようなものであったとしてもどうでもよかったのだ。


女は嗤った。

その時には、もう如何に苦しめて殺す事しか頭の中には無かった。



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