36話 種は芽吹く
ま、間に合わなかった(-ω-;)
申し訳ない……今日の部分は、二、三時間以内に……
すみません(-_-;)
騎士達に保護された俺達は、彼等に連れられ地上へと出た。
「リュー君っ!! レイ君っ!!」
聞き慣れた声が、俺と兄様の名前を呼んだ。
声色からは、心配と安堵が感じられる。
また母様には、余計な心配をかけてしまった。
「母様……あの、えっとこれは⎯⎯」
「無事でよかった!!」
俺がしどろもどろしようとした言い訳を遮り、母様は俺と兄様をその腕に抱き込んだ。
「もう、もう、本当に、無茶ばかりして……男の子はヤンチャだって言うけど、リュー君達はちょっと無茶し過ぎだよ。無事でよかった……本当によかった。この2日間、生きた心地がしなかった。リュー君たやレイ君に何かあったらって、……私もヴィンセント様も、お義父様達も皆、皆凄い心配したんだからねっ!」
「ごめんなさい母様……」
ポツリ、ポツリと流れる目の下には、濃い隈がハッキリ出ていた。
俺達が消えたという2日間、全く眠っていないのだろう。
当然だ。
逆の立場なら、俺もいてもたってもいられなかっただろう。
それに────
「約束も……守れなくて、ごめんなさい」
あの時に約束したのに守れなかった。
意図した訳では決してないが、俺はダンジョン内で特に危機感を持っていなかった。
ユリアに大きな要因があるのは確かだが、俺ももう少し気を配るべきであったのだ。
俺達は皆、一般の人より遥かに大きな力を持つ。
だから、ユリアの暴走を本気で止める事はなかった。
その慢心が、今回の事へと繋がったのだ。
「リューは悪くないですよ、カミラさん。僕達が上級生としてしっかりしていないといけなかったのに、どこかで傲っていました……心配をおかけして申し訳ございません」
兄様も俺と同じような事を考えていたのか、俺を庇うように母様に謝罪した。
先程のユリアのフォローも、本当は責任を感じていたからかも知れない。
「どっちが悪いとか、悪くないとかはどうでもいいの! 私はただ……貴方達が無事に帰ってきてくれるなら、それで……」
母様の腕の力が強くなる。
少し痛い位だ。
「ウェルザック公爵夫人……私が言うのは何だが、あまり2人を責めないでやってくれないか。不測の事態が起きて、このような騒動になってしまったが……リュートは、ユーリアの騎士としてよくやってくれた。リュートがいなかったら、ユーリアは危険にさらされていただろう」
「オズワルド殿下……」
そんな俺達を見かねたのか、オズ様が王族としての顔で俺達に助け船を出してくれた。
「もう、無茶ばかりしないでね……。絶対に私達の元へと帰ってきて、絶対よ?」
母様もオズ様の言葉に落ち着きを取り戻したのか、涙を拭うと俺に小指を立てて差し出した。
「はい……僕の帰る家は、母様達の居る場所ですから」
俺は母様の細い指より、一回りも二回りも小さい小指を差し出された小指へと絡めた。
俺の立場上、無理をするなと言っても守れないのは母様も分かっているのだろう。
だから、別の約束にした。
2度目の約束だ。
次こそ違えないようにしないと。
「……レイ君も」
俺と約束を交わすと、次は兄様へと小指を差し出した。
「…………えぇ」
兄様もほんの一瞬戸惑った後、俺と同じように差し出された小指に自分の指を絡めた。
「じゃあ、皆も心配してるしお家に帰ろうか?」
いつものように微笑んで、母様が俺達に手を差し出した。
その手を取ろうとして。
「────アシュレイっ!!!!」
緩んだ空気の中で、一際大きい女の声が響いた。
少しくたびれてはいるが、少し中性的な美しさを持つ女性だった。
そして、アシュレイと同じ燃えるような赤い髪で。
この人って、もしかして……。
「母上……」
アシュレイが駆け寄ってきた女を抱き止める。
容姿から想像はしていたが、やはりアシュレイの母親であるアーシャ・スタッガルドその人であった。
アーシャ・スタッガルドにも疲労と憔悴が見られた。
恐らく、母様と同じようにアシュレイの事を心配してろくに眠れなかったのだろう。
少し……意外と言えば、意外か。
ユリアの話からでは、ゲーム内のアーシャはあまり子供の事を見ていないように思えた。
けれど、それは俺の勘違いであったらしい。
アシュレイを抱き締める姿は、子供を心配する母親にしか見えない。
何の愛情もない存在を、こうして抱き締める事はないのだから。
「心配、しましたよ」
「すみません、母上……」
母親の自分を抱き締める腕に、ぶっきらぼうながらもアシュレイは抱き締め返した。
この時、俺にはアーシャ・スタッガルドは普通の母親にしか見えていなかった。
「あ、あのアシュレイ君のお母様ですよね? 私はカミラ・ウェルザックと申します。何時もリュー君やレイ君がお世話になってます」
アシュレイやロゼアンナの話は、母様にもした事があった。
だから、母様もこの機会に1度挨拶をしたのだろう。
母様に悪意や他意があった訳ではない。
「ウェルザック……?」
母様が名乗った姓に、アーシャ・スタッガルドがピクリと反応し此方を振り向く。
すると先程までの穏やかだった表情が、俺達を視界に入れた瞬間に一変した。
「……シュトロベルンっ!」
俺達を、正確には兄様を見て、アーシャ・スタッガルドは憎悪に満ちた眼で睨んだ。
そして、それは表情だけではない。
俺には魔導具を通して見えていた。
アーシャ・スタッガルドの魔力が黒く染まる瞬間を。




