14話 決着
一瞬の間に何度も剣が打ち交わされ、修錬場をピリッとした空気が室内を包む。
少しでも目を離せば勝負がついてしまいそうな程の緊張感に、皆瞬きも忘れて魅入っていた。
「……っ、はぁはぁ、粘りますね」
俺の狙いすました攻撃をギリギリで回避するアシュレイのせいで、俺の体力も限界を迎えてきている。
そろそろ、勝負をつけないと、此方が不利になるだろう。
体力勝負では、圧倒的に向こうが有利だ。
……技術は此方が上だけど、肉体的な強さは向こうに分があるからな。
……魔法が使えれば、俺が圧倒的に有利なのだけれど。
「はぁ、は、お前もな? その小さい体の何処にそんな体力があるんだ、よっ!」
アシュレイは楽しそうに笑いながらも、剣を振り下ろしてくる。
アシュレイも息を乱しているが、まだまだその動きに疲れは見えない。
何でそんなに元気なんだよ……?
余裕は無い筈なのに、笑ってるし……。
「……楽しそう、ですね?」
気がつけば、俺はアシュレイにそう聞いていた。
「当たり前だろ? 相手が強ければ強いほど、俺も強くなれる!」
アシュレイは答えながらも、俺の剣をすり抜けて懐に入った。
「う、……こっの、脳筋!」
俺は体を捻って攻撃を交わして、逆に剣を突きいれる。
だが、その太刀はアシュレイを掠っただけで、明確な1本には値しない。
俺は息を整えながら、残り時間を確認する。
何時の間に時間が過ぎていたのか、残された時間はあと僅かだった。
次で最後だな……
俺は地面を強く蹴って、アシュレイの元へと飛び込んだ。
「悪い、ですけど、今日は僕が勝たせてもらいます!」
「抜かせ!」
俺はアシュレイの重い斬撃を受けながら、間を縫うように攻めていく。
アシュレイも、時間が無いことが分かっているのだろう。
スタミナを考えない全力の力で、向ってきた。
「貰った!」
だが、全力だからこそ防御が甘くなった。
そこを見逃す程、俺は甘くない。
「ぅ、ウウオォお゛!!!」
絶対に避けられない態勢への攻撃、俺の勝ちだと思っていた。
しかしアシュレイは、その態勢から俺に攻撃を仕掛けてきた。
──防御を完全に捨てて。
「っく!!?」
「グア゛ッ!!」
俺は咄嗟に左手で防いだが、素手でアシュレイの太刀を受け止め切れず手の甲の骨が折れた。
そして、防御を捨てたアシュレイは俺の木剣による突きが急所に入り、そのままその場に踞った。
「リュート君!?」
離れてみていたユリアが俺の名前を叫んで、駆け寄ってきた。
後ろに続いたリオナ達も、一様に心配そうな顔をしている。
「大丈夫、ちょっと折れただけです。“ヒール”……ほら、治りましたし……僕より彼の方が重症ですね」
俺は自身に魔法を掛けて折れた骨を治癒させると、チラリとアシュレイに目を向けた。
アシュレイは未だ踞ったまま、呻き声をあげている。
完全に入ったからな……
「おい、誰か校医を――」
「教官、僕は治癒魔法を使えますので、治療にあたります」
教官がアシュレイの具合を見て校医を呼ぼうとしたのを止めて、俺は自ら申し出た。
校医は1人しかおらず、部屋を空けたら困る生徒もいるだろう。
俺が対応出来るのに、態々来てもらうのも忍びないだろう。
「そうか、なら頼む」
「はい」
俺は踞るアシュレイに近付き、膝をついて手をかざした。
「治癒魔法、かけますね?」
「……いい、必要ない。……治癒魔法を使える者は、決して多くない。大ケガを負ったまま戦うなんざ、ザラにある。……この程度、その内治る」
「……“ヒール”」
俺はアシュレイの断りを無視して、治癒魔法をアシュレイにかけた。
「……要らないと言っただろう」
「強がりはいいですけど、今は戦時中ではないですよ。そして、ここには優秀な治癒魔法を使える魔術師が1人──つまり、グダグダ言わずに治させろ、です」
俺はニコリと笑って、アシュレイの傷を完治させた。
「……お前、何かキャラ違くないか?」
「そうですか? 僕はこんなもんですよ?」
俺はアシュレイに手を貸して、起き上がらせた。
「……負けた」
「……でも、また挑んで来るんでしょう?」
悔しそうに顔を歪めるアシュレイに、俺はそう問うた。
「当たり前だ。負けたままは、性に合わねぇ」
うん、言うと思った。
脳筋入ってるからね。
……来週もまたアシュレイと組むことになるかな?
「ふふ、なら先に兄様と決着を着けてきて下さいね? ──次は兄様が勝ちますから」
兄様のあの様子なら、次は正面から向き合ってくれるだろう。
そうして少しずつでも、2人の仲が改善されていけばいい。
「ふっ、俺も簡単に負けるつもりはない!」
「あっ、怪我したら僕に言ってくださいね。治療してあげますから」
アシュレイも強くなったけど、兄様が負ける姿は想像つかない。
「俺が負ける前提で話すな!」
「はいはい、そうですね。それでは、僕は次の授業の準備があるので」
アシュレイが叫ぶが、まず兄様が勝つだろう。
兄様との手合わせは、俺が本気を出さないように兄様も全力では戦わない。
正確には分からないが、兄様は強い。
多分、剣の腕のみなら俺より兄様の方が上な感じがするんだよな……。
まぁ、俺と兄様が本気で戦ったら、それこそ洒落にならなそうだしね。
「おい、人の話を──」
本当にムカツクのだが、ユリアの言った通りになった。
修復不可能だと思っていたアシュレイとの険悪な関係も、どうにかなりそうだ。
本当に、先日の件は絶対に許さないけど、少しくらいは感謝してもいい位だ。
ほんの、ほんの少しだけれど────
この話で章の前半が終ります。