08話 お仕事は保護者同伴で
アシュレイとの再戦の前に、少し挟みます。
3、4話くらいかな?
精霊の方を頑張ると言ってましたが、こっちを更新……恋愛ものって難しいですね、自分で書いてて砂糖吐きそうです(。>д<)
評価&ブクマありがとうございますm(__)m
アシュレイと剣を交わした翌日、俺は王女の護衛をスール達に任せて、北の国境沿いに王様の勅命で来ていた。
────保護者同伴で。
「……そう言えば、その眼鏡どうしたんですか? 兄様は視力悪くないですよね?」
同伴についてはとっくに諦めている俺は、兄様の見慣れない眼鏡姿について尋ねた。
眼鏡って……ゲーム通りだけど、兄様はつける必要はないと思うんだけど……?
兄様の視力は良かった筈だ。
仮に悪くても、ユーリの魔法でどうにか出来る。
ユーリの固有魔法は欠損すら治す奇跡の魔法だ。
現につい最近まで、兄様はかけていなかった。
「あぁ……これかい? これはジョディーに作らせた特注の魔導具だよ」
兄様は眼鏡の縁に手をかけながら、俺に教えてくれた。
フレームレスのすっきりとした眼鏡は、兄様の知的な(外見だけは)雰囲気を引き立てていてよく似合っている。
「魔導具?」
俺は首を傾げた。
何の効果があるんだろう?
眼鏡っていうことは、常駐の魔法なのかな?
「これを通すと、魔力が見えるんだよ。人それぞれで色もつくから、個人の識別にも使えるかもね」
「へー、面白いですね」
腐王女とか、魔力か腐って見えそうだ。
兄様はアイスブルーで、オズ様はグリーンのイメージかな?
応用もききそうだ。
「うん、魔力の流れとかも分かるからね。戦闘にも使えるし、中々便利だよ。気に入ったのなら、今度リューにも作らせようか?」
「是非、お願いします」
魔力が見えれば、不意打ちを食らうことも無さそうだし便利だ。
俺は兄様の申し出に、直ぐ様首をうんうんと縦に振った。
「細工を凝ったものにするから、期待しててね?」
そして、含みのある笑みを浮かべて続けた。
「……なるべくシンプルなものでお願いします」
普通のがいい、普通のが。
きちんと言っておかないと、派手なものになりそうだ。
俺は引き気味に苦笑いを浮かべると、眼前に広がる緑に目を移した。
そろそろお喋りはお仕舞いだろう。
護衛の騎士達も準備が整い、いよいよ森へ足を踏み入れる事になりそうだ。
眼前の森を抜ければ、ユグドラシアを抜けて隣国マベリアンタにたどり着く。
森には魔物が多く生息しており、人が踏みいることは殆んどない。
そして現在この森には、近頃悪名高い盗賊共の棲みかがあるとの情報がある。
元々はマベリアンタから流れてきたようだが、ユグドラシア国内にも被害が及んで来ているようだ。
その盗賊共を掃討するのが、今回の王様からの勅命。
俺達はその為に、学園を休んでこの僻地を訪れていた。
まぁ、空間魔法で一瞬で飛べるから、大した手間はかからないんだけどね。
「……今回のコレで少しは大人しくなってくれればいいんですけど」
俺は少しうんざりしたように、森の先にあるマベリアンタを思い浮かべた。
もういい加減諦めればいいものを。
「……懲りないだろうね。もう何年も小さいいざこざが続いてる」
兄様も俺の意図してる事が分かるのか、苦笑いを浮かべた。
そう、今回俺に与えられた役目は、たかだか盗賊を掃討する為ではない。
盗賊の討伐は、俺以外にも適任者はいるだろう。
俺のような魔眼持ちなど、過剰戦力に他ならない。
態々魔眼持ちを動かした意味、それはマベリアンタへ圧力をかける為だ。
近頃、マベリアンタによる挑発行為が露骨になってきており、それを牽制する目的で俺に命が下った。
──これは見せしめだ。
圧倒的な戦力を隣国に見せつけ、戦意を喪失させる為の。
「……それにこの地はスタッガルド将軍が目を光らせているので、安心だと思うんですけどね……僕が態々でばる必要性を感じません」
しかし、そんな理屈は頭では分かっていても、急な召集に俺は不満の色を隠せなかった。
確かに他の地域の国境沿いならば、まだ分かる。
だが、この北の国境沿いはスタッガルト領だ。
この国最強の剣士とも謳われているジークフリード・スタッガルド将軍の治める地域に、態々俺を使うことが理解できない。
「しょうがないよ。スタッガルドの固有魔法は強力ではあるけれど、どちらかと言えば対人向けで効果範囲も狭いからね」
兄様は森に視線を向けたまま、俺にそう教えてくれた。
「対人向け?……確かにそれなら、納得は出来ますね」
ウェルザックに伝わる固有魔法は、広域に攻撃を与えることが出来る。
俺は半年程前に、ユリアの代わりに出た戦場で魔眼を覚醒させた。
アストラル・ファイアが退魔の魔法なら、ウェルザックの魔法は大規模殲滅魔法であった。
文献を読む限りユリアの持つアーク・ライトの威力には及ばないが、加減や範囲が調整出来る分使い勝手は悪くない。
スタッガルトの固有魔法は、範囲が狭いのか……てっきり、広範囲に及ぶ魔法だと思っていた。
でも、将軍は対人戦のエキスパートと聞く。
加えて、対人向けの固有魔法……中々、凶悪な組み合わせだな。
書物や人伝にスタッガルドの固有魔法を調べたが、詳しい事は分からなかった。
固有魔法は国家機密のような面があるので、噂や武勇伝は多く伝わっているが、弱点や詳細などはあまり公にされていない。
「確か……スタッガルドの固有魔法は、その目で見たものを石化させる魔法だと聞いていましたが……その為に、将軍は普段は両の目を眼帯で隠していると……」
その話を聞いた時は、まるで前世の物語に出てくるメデューサのようだと思ったのを覚えている。
それに魔法のONOFFが効かないのも不便だ。
日常生活に支障を来す。
「あぁ、そうだね……でも、別に魔法を制御できないわけではないよ。発動に詠唱が要らないだけで、発動するしないは本人の意思次第だ……周囲が怖がるから、目を隠しているだけだよ」
兄様はほんの少し眉をひそめると、俺と目を合わせるようにして言った。
その目は俺ではなく、俺の瞳の中の魔法陣を写していた。
「……随分、詳しいんですね? 僕は目を合わせたら、石にされるって言う噂しか聞いたことありませんでした」
でも制御が出来るなら、それを怖がって魔眼を封じさせるなんて馬鹿みたいだ。
折角の詠唱が必要ないというのに。
将軍と違って広範囲に被害を与えることが出来る俺やユリアは、そういった制限なんかつけられていないのだから。
「……シュトロベルンは、魔眼狂いだからね……それに、知ってたかな? クリスティーナ・シュトロベルンの初めの婚約者候補筆頭は、ジークフリード・スタッガルドだったんだよ?」
「ぇえ!? そうだったんですか!? 初耳です」
俺は目を丸くして、兄様をまじまじと見返した。
でも確かにあの家ならそうか……ウェルザック家に来たのだって、固有魔法狙いだしな……。
「そうだよ。しかもシュトロベルン公爵は、あの恥知らずの売女を義父上でなくジークフリード・スタッガルドに嫁がせようとしていたんだから、笑えるよね?」
固まったままの俺に、全く笑ってない目で兄様は更なる衝撃的情報を与えた。
それ全然笑えませんよ、兄様。
それ実現してたら、殺傷沙汰になったんじゃないですか?
だって、クリスティーナの最初の旦那って──
「……それ本気でやろうとしたんですか? 確かクリスティーナ・シュトロベルンの最初の夫って、ジークフリード・スタッガルドとかなり親しかったんですよね? 親友で腹心の部下だったって、父様から以前聞いたことがありますが……」
それにプラスして、ジークフリードの今の妻は、アーシャ・スタッガルド。
兄様の実の父親の元婚約者だ。
1度婚約者を奪った相手から、更にまた奪おうとしたってことか……そんなの、兄様が言うように恥知らずもいいところだろう。
「うん。その時既に婚姻関係にあったのに、強引に横入りしようとしてたみたいだよ? ……まぁ、あの女が義父上を気に入ったから、そちらに話が流れたみたいだけどね」
「何か複雑ですね……」
国の将軍にまで毒牙がかからなかったのはよかったとは言えるが、そのとばっちりが父様にいったのは気に食わない。
「まぁ、ね……でも僕はリューやカミラさんや義父上に会えたから、その点についてだけは感謝しているんだ」
「……それもそうですね」
確かにそれだけは、よかったと言える。
「リュート様、レイアス様っ! 賊共のアジトを発見しました!!」
森へ先行していた部隊が、棲家を発見して戻ってきた。
報告に来た兵士の顔には、恐怖や怯えは微塵もなく、ただただ勝利を確信しているようだった。
固有魔法とはそういうものだ。
ここにいる他の兵士達もそうだ。
魔眼持ちである俺の敗北を1ミリたりとも、疑っていない。
「ちょっとプレッシャーだよね……」
俺は息を吐くと、兵士達の後へと続いて歩いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「中に民間人は、確認できませんでした」
偵察の為に、棲家へと侵入していた部隊から兵士が報告に来た。
盗賊の中には、村の女子供を拐ってアジトに連れ帰る連中もいる。
この盗賊の棲家は、俺の固有魔法で完膚なきまでに消し去る事が決められている。
だが、一般人を巻き込んだとあっては目覚めが悪い。
だから、万が一にでも一般人を巻き込むことの無いよう、事前に調査したのだ。
「リュー……」
「はい」
兄様に促され、俺は前に出て標的に向かって手を翳した。
辺りは静かだ。
俺が集中出来るように、兵士達も口を開かずに見守っている。
中にいる盗賊共は、これから自分達が死ぬことなど気づきもしていないだろう。
「“我は尊大にして勇敢、全てを穿つ者”」
俺が詠唱を始めると、左目の魔法陣が黄金の輝きを放ち始めた。
「“我は煌煌にして永劫、全てを平定する者”」
俺から莫大な魔力が注ぎ込まれ、空に魔法陣が浮かび上がる。
棲家の中にいる盗賊共も、外の異変に気付いただろうがもう遅い。
何人たりとも、逃れることは出来ない。
「“今、大いなる輝きが逆賊共を貫かん”」
一際魔法陣が黄金に輝いた。
「“トゥルエル・ランサ”」
魔法陣から現れた無数の黄金の龍が、荒々しい雷鳴と共に大地を穿っていく。
これだけ派手に使えば、隣国の兵士達も固有魔法が使われていることに気付くだろう。
俺は威力を抑えずに、効果範囲を制御して狭くした。
森への被害はなるべく抑える為だ。
これだけやれば十分だろう。
何も森全てを焼く必要はない。
「リュート様、お見事です!」
既に跡形もなくなった盗賊の棲家を見て、兵士が興奮気味に言った。
「ありがとうございます」
俺は、外向けの笑みを浮かべて応えた。
……これで、分かってくれるといいんだけど、ね…………。
ユグドラシアは、最も魔眼持ちを多く保有している国だ。
マベリアンタも多くの魔眼持ちを抱えているようだが、ユグドラシアには遠く及ばない。
魔眼持ちの数が戦況を左右する以上、無駄な争いなど本来は態々仕掛けるべきではないのだ。
「リュー、お疲れ様。体は大丈夫?」
兄様が俺の体調を確認してきた。
固有魔法の行使には多大な魔力を使うから、俺の体調に変化がないか気にしてくれたようだ。
「大丈夫です、兄様。それより早く学園に戻りましょう。今帰れば、午後からの授業に参加できます」
命令も果たせたし、早く戻りたい。
そして、アシュレイに詫びを入れてまた勝負をして貰おう。
……そうだ、アシュレイと言えば──
「そう言えば、兄様はアシュレイ・スタッガルドと手合わせしましたか?」
俺は以前アシュレイが言っていた手合わせした相手は、兄様だと思っている。
アシュレイは兄様に固執しているようだし、ほぼ間違いないと言ってもいいだろう。
「……したね。急に呼び出されたかと思えば、剣を渡されて戦いを挑まれたよ。決着はつかなかったけどね?」
……やっぱりか。
兄様も俺と同様に、本気を出さなかったらしい。
兄様は俺ほどではないが、通常では考えられないほどのチートスペックだ。
本気を出せば、完膚なきまでに叩き潰せる。
理由は不明だが、兄様も俺と同じように手加減を加えたのだろう。
そして、それがアシュレイ・スタッガルドの怒りに触れた。
「……僕は手心を加えて、叱責されてしまいました……ユーリア様にも、本気には本気で返すべきだと言われましたよ」
剣に誇りを持っているアシュレイには、どれ程屈辱的だったのか俺には理解出来ない。
俺も兄様も間違った選択をしてしまった。
だから、兄様も俺と同様、アシュレイと真剣に向き合うべきなのだ。
兄様とアシュレイの関係が、きっとこのシナリオを左右する。
「……そう。まぁ、リューが本気を出せば、僕も勝てるかどうか分からないからね。でも……本気には、本気、か……ユーリア様も難しい事を言うね」
そう言った兄様は、どこか遠くを見ていた。