05話 剣術演習
入学式から2週間程が経ち、授業もオリエンテーションから本格的なものへと変わった。
「リュート君はレイピアなんだね。それ、叙任式で見た事ある」
そして、今日は剣術演習の授業の初回一日目。
それぞれが自分の剣を用意し、授業に挑む。
まだ子供であるから、大振りなものを持つものは少ないが、財力を競うように使う魔石は高価になる。
何れだけの高価な魔石を、用意できるかを密かに競いあっているのだ。
それが家の格を表すから。
俺も公爵家子息として通っている以上、ある程度の見栄えは必要だ。
だが、只でさえ年齢的に2歳下の俺が、他の生徒と同じ様に通常より重くなった剣では、スピードが格段に落ちてしまう。
だから、女生徒の大半が使うレイピアで、俺は授業に挑むことにした。
「はい、僕にはこっちの方があっているので」
因みに、俺のレイピアは1年前に兄様から贈られたものだ。
真ん中に青い魔石が埋め込まれている。
色合いが兄様の目の色によく似ていて、一目で高価だと分かるような美しいものだった。
これを使わないという選択肢は俺にはなかった。
「リュート君、小さくて細いもんね」
うんうんと、ユリアは何かを納得したように頷いた。
「は? 小さくねぇし、成長途中だし、これからどんどん伸びるし!」
父様を見てみろ。
俺の遺伝子は、まだまだ伸びる可能性を秘めている。
「……そ、そうだね。伸びるよ……きっと」
ユリアも俺の可能性を認めたのか、首を縦に振った。
「分かればいいんです」
俺はニコリと微笑む、すると周囲から叫び声が上がった。
「…………(ボソッ)ここ1年では、殆ど伸びてないんだけどね」
「何か?」
ボソボソとユリアが何かを呟いているが、きっと気のせいだろう。
ユリアもこの1年で、少しは賢くなった筈だ。
「いえ、何も!」
「なら、いいです」
俺はニコリと笑った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「よし、次は2人1組になって、練習しなさい。木剣に持ち代えてからですよ!」
準備運動や素振り、基本的な型を教わり、簡単な打ち合いをすることになった。
教師は軍から毎回呼んでいるようで、現役の騎士達だ。
貴族の子供達を教える以上、平民が教えると軋轢を生む可能性がある。
今回来ている騎士達も、貴族出身のようだ。
……さて、誰と組むかな。
少しは友好を築かないとな……、そろそろ友人の1人でも、母様に紹介したいものだ。
チラリと、クラスメイト達を見渡すと、皆すいッと視線をそらした。
先日の兄様達の脅迫のせいで、誰も俺と組もうとしない。
万が一でも俺に怪我1つでも負わせたら、ただでは済まないと考えているのだろう。
……仕方ない、スールと組むか。
本当、兄様のせいで組む相手も出来ない。
「スー「リュート・ウェルザック」……どうかしましたか? スタッガルト殿」
俺がスールに頼もうとした瞬間、アシュレイが突然声をかけてきた。
今まで避けられていたのに。
「俺と組んで欲しい」
思ってもみなかった申し出に、一瞬反応が遅れる。
どうして俺と?
この2週間、目線も合わせる事はなかったのに……。
組む相手がいないのか?
俺達と揉めたせいで、アシュレイも少し浮いてしまっている。
友人らしき人間はクラスには見当たらない。
───でも、これは俺にとってもいい機会だ。
「……いいですよ。よろしくお願いします」
これを機に、何としても関係を改善するのだ。




