03話 腐王女様の独壇場
さて、このクソ子供をどう絞めるか……
「そ「私の騎士に何のようですか? アシュレイ・スタッガルド」……ユーリア様?」
それはご自分も同じでは? と続けようとした俺の言葉を遮り、ユリアが俺達の間に毅然とした態度で割って入った。
普段公の場所では、俺の後ろで淑女らしく静かに見守っているだけの彼女にしては珍しく、不愉快だとあからさまに態度に出している。
「ユーリア・ライト・ユグドラシア王女殿下……」
王女であるユリアが間に入ってきた事により、アシュレイは顔色を少し青くさせる。
自分の行動がいかに軽率だったか、気付いたのだろう。
「私の質問に、答える気はないのですか? アシュレイ・スタッガルド、貴方は私の騎士を下らない戯れ言で侮辱しました。その意味を分かっているのですか?」
だが、ユリアは逃がす気がないようで、とことん追い込むつもりのようだ。
本当に……どうしたんだ?
三重苦王女がキレるなんて珍しい……腐的な事にしか興味ないと思ってた。
「……王女の騎士に対して、不躾でした。ユーリア王女殿下には、大変な失礼を。お許しください」
アシュレイは先程の態度が嘘のように、頭を下げた。
まぁ、普段はアレだけど、この人は基本的に敵に回しちゃいけない人だからね。
腐ってはいるが、王族なのだ。
「私にではなく、私の騎士に謝罪をしてほしいのですけれど?」
ユリアはそう言って俺に視線を向けた。
「…………八つ当たりだった。こんな小さく、庇護すべき相手にすることではなかった。すまない」
アシュレイは一瞬躊躇したが、ユリアに促された通り俺にも頭を下げた。
養父が騎士なだけに、騎士道精神が根付いているのかもしれない。
身長差がありすぎて頭を下げた時に、普段は見えないであろう旋毛が見える。
「……言われた内容は許容できる事ではありませんが、貴方の事情もそれなりには分かっているつもりです。謝罪して頂けたので、今回はそれで手を打ちましょう……勿論、次はありませんが」
俺は努めて笑顔で、アシュレイに手を差し出した。
俺も頭に血が上って冷静な判断が出来なかったが、よくよく考えるとアシュレイにとってはウェルザック家は両親を苦しめた相手と繋がっていると判断してもおかしくない。
ましてや、俺の方が精神的には年上だからね。
次また言ったら容赦しないけど、所詮は子供の言った戯れ言。
鷹揚に許してあげないとね?
…………別に、高身長が羨ましいとか思っている訳じゃないよ?
「あぁ……」
アシュレイも気まずさは多少あるようだが、手を取り握手を交わした。
こうして、俺とアシュレイ・スタッガルドの初めての邂逅は、随分微妙なものになったのであった。
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「……で? さっき、何であんなにキレてた訳?」
一通り学園生活の説明を聞いた後、俺達は空間魔法で王宮に移動していた。
「だって! だって、だって何かムカついたんだもん!!アシュレイ様ってば、初対面でいきなりアレはなくない!!? リュート君にヒドイ事言うなんて、許せない!!」
ユリアはまだ怒りが冷めてなかったのか、未だに頬を膨らませてブー垂れている。
「……別にユリアが、そこまでキレる事でもないだろう。ムカつくけど、世間一般ではそう捉えられる事は理解出来る。俺も自分に関係ない事だったら、そう思っただろうし」
特に、前世では。
前の俺は、誰かに感情移入することはなかった。
だから現段階で母様が妾と呼ばれても、可笑しくない事を俺は理解している。
この数年、現に心ない輩にはそう噂される事も多々あった。
……まぁ、徹底的にそういった輩は潰したから、表だって言う奴は今はいないけど。
「だって、関係あるもん! リュート君は私の初めての友達だもん!! だから、全然他人事なんかじゃないよ!」
「…………本当、ドMかよ」
あまりのユリアの必死さに見てられず、視線を逸らして頬をかく。
「ドMじゃないよ! 何でそうなるの!?」
俺の呟きを拾ったらしいユリアが猛抗議してきたが、お前どう考えてもドMだろう。
俺、お前に対してかなり厳しい態度とってるし。
俺はユリアの抗議を無視して、誤魔化すように紅茶を一口口にした。




