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番外編 腐王女転生記⑧

割り込み投稿です。

 

「──……では、此方から行かせて貰いますね。“アイス・ランス”」


手始めに、使ったのは氷属性の魔法。

兄様の得意な魔法。

どちらかと言うと、俺が得意なのは炎属性と雷属性だが、室内で使う分には此方の方が都合が良い。

まして、俺は別にジュナンを殺すつもりはない。

こういう時、全属性を持っているというのはつくづく便利だと思う。


「っ、“シールド”!!」


俺の放った氷の槍を、ジュナンは直前で魔法を使用して防いだ。

中々良い反応だ。


「発動までが早いっ……流石は魔眼持ちという事ですか。でも、私とて──“ファイアー・ランス”っ」


「“シールド”」


ジュナンから放たれた炎の槍を、俺は無属性面魔法のシールドで難なく防いだ。

火属性がジュナンの持つ適性のようだ。


魔法の発動スピード、魔法の威力……どちらも大したレベルではないな。

兄様の魔法はもっと早かったし、威力も高かった。


「あれを簡単に防ぐのかよ……」


周囲で見物していた誰かが、ぼそりと呟いたのが聞こえた。


……大した事がない、は言い過ぎたのかもしれない。


俺の周りが規格外なだけで、一般的に見ればジュナンの力量は十分に高いようだ。


「……では、次はこれならどうですか? “アイス・ランス”」


青い光を纏った魔法陣が俺の前に再び浮かび上がる。

その数は10。

魔法の多重展開、鍛えたかいもあり魔法の腕も上がったものだ。


「っっ"、“シールド”っくッッ!!」


1発目は防ぎきれた。

2発目でシールドにヒビが入って、3発目でシールドは木っ端微塵に砕けた。

けれど、氷の槍は止まらない。

再びシールドを使う時間がないと悟ったジュナンは、俺の魔法をかわすため右へと跳んだ。


やはり……そうか。


瞬間、ジュナンの居た場所には氷の槍が降り注ぐ。


「……勝負、つきましたね。僕の勝ちです。約束、守って下さいね」


氷の槍が降り注いだ後、そこに残るのは土くれだけだった。

それは俺の勝利を意味する。


「そんなっ、私はまだっ……こんなのは認められないっ!!」


数秒、呆然としていたジュナンだが、状況を理解すると俺を睨み付けながら叫んだ。


もう少し、力の差を理解出来るようにすべきだったかな……。


ならば納得するまで付き合うかと、再び魔法を使おうとした。

その時────


「いい加減にしろっ、ジュナン・ディルムトっっ!!!」


訓練場に、男の怒声が響いた。


「っ、隊長……ですがっ」


「言い訳はいらない。相手との実力差も分からないのか? それに、この試合でお前が王女殿下の騎士として、不適格なのはよく分かった。どうして、避けた? お前の後ろにいらっしゃるのが、本物の王女殿下であったらどうするつもりであったのだ?」


どうやら、声の主はジュナンの上司であったようだ。

厳しい眼差しで、隊長と呼ばれた男はジュナンを射ぬいた。

この男の言うことは最もだ。

土人形を護るルールにしたのは、騎士の役割として護衛の任務があるからだ。

それをジュナンは放棄した。


……本当に、ユリアが嫌がる理由が分かる。


「そ、それはっ、……ですが……」


「もういい……リュート・ウェルザック殿、本日はこのような場所までご足労頂き、ありがとうございました。この愚か者の再教育は、どうか我々にお任せ下さい。2度と、王女殿下や貴方には近付かせないように致します」


隊長と呼ばれた男はジュナンを一瞥すると、俺に向き直って頭を下げた。


「貴方がそう仰るのであれば、僕にこれ以上言う事はありません」


これで、ユリアも安心出来るだろう。

隊長と呼ばれた男の顔を見るかぎり、きちんと再教育は行ってくれそうだ。

俺も目的は果たしたので、これ以上どうこうするつもりはない。


俺は会釈をすると、少し冷え冷えとしてしまった訓練場を後にしたのであった。



少しあっさりとし過ぎな気もしつつ……ジュナンとの戦いはこれで終わりです。

予定通り10話以内で番外編は終わりそうです。

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