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ランキング1位の作品

 物語を始める前に、小山田二郎と言う人物を知ってもらいたい。

 まず、彼の嫌いな言葉は『努力』である。

 地道な作業は大嫌い。「1を知って10を知る」ならず、「1をやって10を得しろ」が彼のモットーである。

 そんな彼が、何故地道な作業の積み重ねである小説家を目指そうとしたのか。それは、老後のためだった。

 広いアジアの狭い島国日本。高度成長期には、GNP(国民総生産)世界第二位となったこの国だが、今は見る影も無く長く続く不況にあえいでいる。小山田はこの国に絶望していた。小山田は自分の保身ばかり考えている腐った政治家などに期待していない。将来国から支給されるスズメの涙ほどの年金などあてにしていない。自分の身は自分で守る。その為には、何かでかいことをしなくてはならない。そして、彼が最終的に出した答えが印税生活だった。

 かの有名人、怠け者の星と呼ばれた野比のび太は言った。


「勉強するんだ。勉強しなくても頭の良くなる機械を作るために」


 小山田は言った。


「小説を書くんだ。将来、印税で楽して金儲けするために、小説を書くんだ」


 ちなみに小山田は漫画が好きである。逆に活字は嫌いだった。だから彼は、最初漫画を描こうとしていたのだ。が、二分で挫折した。小山田は絵が致命的に下手だった。小学生の頃から、図画の成績が万年「2」である彼が絵を描くなど初めから無理な話だったのだ。

 だったら小説だ。活字を読むのは苦手だが、文章は書けない事も無い。小説なら適当に書いてもなんとかなるだろう。そんな安易な考えから小山田は小説家を目指すことにした。全くもって世界中の小説家に謝れと言いたい。

 だが、世の中はそんな甘くは無かった。

 印税生活をするためだけに書いた、こころざし欠片かけらも無い彼の小説が認められるはずもなく、善良ある編集者の手によってブロックされ、世に出回ることは無かったのだ。こうして小説界の平和は、人知れず守られていたのだ。

 だが、あれから20年。

 小説家になろうという存在を知った小山田は、今再び小説界に殴り込みをかけようとしていた。


 帰宅した小山田は、さっそくパソコンを立ち上げる。

 小説家になろうのサイトを検索し、必要事項を入力し、彼はアカウントを入手した。後は小説を投稿するだけだ。

 小山田はパソコンの前で考える。何を書くか、だ。

 その後、五分程悩んだ小山田だが、何も浮かばなかった。そもそも小説を書くのは、あくまで金を手に入れる為の手段であり目的では無い。書きたいことや伝えたいことがまるで無い小山田が書ける訳が無かったのだ。

 いきなり行き詰った小山田。だが彼は焦らない。って言うか何も考えていない。どちらにしろ彼は集中力が五分以上続かない人間なのだ。とりあえず小山田は、気分転換に小説家になろうのトップページを開いた。

 画面の左側に、ランキングの文字が見える。どうやら、ここに表示されているのがこの小説家になろうのトップテンらしい。


「なになに? 『無職転生 ~異世界に行ったら本気だす~』 転生? 異世界? どんな話だ?」


 第一位のタイトルを読み上げ、小山田は「?」を浮かべる。

 以下は、この小説のあらすじだ。


【 あらすじ:無職転生 ~異世界に行ったら本気だす~ 】


 34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうやら異世界に転生したらしい。

 彼は誓う、今度こそ本気だして後悔しない人生を送ると。


 34歳職歴無し住所不定無職童貞ニート……これが主人公なのか。


 あらすじの出だしだけで強烈なインパクトを受けた小山田は、タラリと額から汗を流す。


 しかも家を追い出された所にトラックに轢かれて死ぬとか、どんだけだよ。およそ主人公の設定じゃねーだろ……。


 いまやなろう小説ではテンプレと言われている、ニート主人公が不慮の事故に巻き込まれ死亡し異世界への転生。その走りとなった小説がこの『無職転生』と言われている。だが、なろう事情を知らない小山田は、このインパクト溢れる設定に驚きを隠せずにいた。

 その後も、恐る恐る作品を読み進めていく小山田。

 作品は荒削りながらも、改行を使って読みやすく書いてあり、活字嫌いの小山田でもスラスラ読めた。


「なるほど、これがライトノベルって奴か。面白いな……」


 1時間ほど読み耽っていた小山田は、ふぅと溜息を吐くと画面から離れる。

 無職転生の話数は二百話以上ある。これ以上読んでいてたら真夜中になってしまう。しかも今も連載中と言うのだから驚きだ。

 ランキング1位の小説を読んで、改めて小山田は考える。もちろん、何を書くかだ。


 その時、小山田の頭に電撃が走った。

 小山田は自分は天才かも知れないと思った。何故なら、この思考のラビリンスとも呼べる今の行き詰った状況を打破する方法が突如浮かんだからだ。

 今、彼の目の前には、30万以上の投稿された小説の中から1位に選ばれた小説がある。だったら、それを真似すれば自分も大ヒット小説家になれるはずだ。そう、パクッてしまえばいいのだ。

 小山田は早速キーボードを叩き始める。小説のタイトルは『無芸転生 ~異世界に行っても無芸大食~』。


 大傑作の予感がした。

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