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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
喪失の章

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〈6〉フォラステロ

 ウヴァロでスピネルと別れた一行は、そこからフォラステロ領へと向かう。

 ペルシ王国、特に西のフォラステロ領には平地が多く、山はあれどもそれを越えねば行けぬような場所に重要な拠点はない。道を遮るものといえば川くらいのものだが、それも橋がかけられている以上、困難な道のりではない。建設されているいくつかの砦も関所のような機能は果たされていなかった。今は戦時中ではないのだから。


 リィアにとってフォラステロ領は生家のある場所なのだが、姉と妹は嫁ぎ、父とは城で会える。母は――妹を産んでしばらくして亡くなったから、どこへ行ったところで会えない。生家にわざわざ行く理由があまりないなどと言っては、ここまで世話を焼いてくれた屋敷の者たちに悪いけれど、ルナスたちを連れてまで立ち寄るのも気が引けた。そこはまたの機会でいい。


 フォラステロ領は、隣国スードが近い。

 このスード皇国は、宗教国家である。モルド教という国教を持つ、信仰心の厚い民たちの国だ。

 信仰は心のよりどころであるという。たまに訪れるスードの民は、心穏やかな人々が多かった。そうした気質が、ペルシ王国本土でありながらもフォラステロ領にも僅かに影響を及ぼしている。信仰は制限されることもなく、モルド教を布教するスード国民を妨げることはなく、そうした信仰を持つ者もフォラステロには時折いるのだった。


 逆に言うなら、クリオロ領はレイヤーナ王国寄りである。特にネストリュート王が即位してからというもの、気を抜くことができずにクリオロ領の者たちは緊迫した日々を過ごしているという。同じ国内であっても西と東では大きく違いがある。


「ところでルナス様、ゼフィランサス様はフォラステロ領のどちらにいらっしゃるのですか?」


 コトコトと小さな振動を続けながら進む馬車の中でリィアは訊ねる。ルナスはうなずいた。


「少し西寄りになるかな。アンターンス男爵と懇意でね、そのそばがいいと仰って、私の伯父上に家督とトリニタリオの領地を譲って、アンターンス家の近くに小さな屋敷を構えているよ」

「え!」


 リィアが思わずもらした声にデュークが突っ込む。


「お前、最近までフォラステロにいたくせにそんなことも知らないのか? まさか、アンターンス男爵も知らないなんて言うんじゃないだろうな?」


 呆れたその隻眼に、リィアは慌てて言った。


「し、知ってます! お会いしたことだってあります! だって――」

「だって?」


 と、ルナスは不思議そうに首をかしげた。レイルはただニヤニヤして、ジャスパーは口を挟まなかった。


「だって――わたしの妹の嫁ぎ先です」


 それなのにゼフィランサスのことは知らなかったのかと皆に言われてしまいそうだが、リィアのヴァーレンティン家は子爵、つまり少しばかり格上なのだ。だから、こちらから伺うのではなく、向こうからやって来るばかりで、実はリィアがアンターンス家まで足を運んだことがないのだ。


「それはまた、奇遇だね」

「はい……」


 アンターンス卿もそのような大物と懇意だなんてひと言も言わなかった。そうした威光をかさに着るような人物ではないからこそ、ゼフィランサスに気に入られたのだろうとは思う。リィアが知るだけでも親子共に誠実な人柄だった。


「リィアも妹に会えるなら楽しみだろう」

「は、はい」


 楽しみだけれど、言われそうなことは想像が付くだけに複雑だった。

 そんなリィアに微笑むと、ルナスは少しだけ厳しい目をしてつぶやいた。


「ただ、その前にメーディのことを話しに行かねばならないね。ファーラー家はアンターンス家に行くまでの途中にある。そう遠くはない」


 メーディ。

 今は亡きアルメディ=ファーラー男爵。

 彼はルナスの教育係として長年彼に仕えて来た。けれど、どこかで歯車は狂い、メーディは死んだ。

 その死の真相はルナスが隠蔽したけれど、メーディの息子はそのことに気付いているのか。メーディの葬儀も内々の密葬で済ませ、病身を理由に一向に姿を見せないのだ。ルナスも避けては通れない、とファーラー家を訪問するつもりでいる。

 責め立てたところでメーディが蘇るでもなく、また傷付いた心が癒えるでもない。

 だから、ルナスとしては今後の禍根とならぬようにとの処置に過ぎなかった。


 けれど、リィアは思う。メーディの家族はルナスの訪問を恐れているのではないかと。メーディのことを許しがたいと、その罪を家族に償わせるつもりなのではないかと。

 ルナスにそうしたつもりはないからこそ、早くその誤解を解いて楽にしてあげたいと思うのだ。


 ただ、メーディのことをリィアが許しているわけではない。

 死して尚、ルナスを苦しめ続けるメーディのことは、ルナスが許しても許せない。だから、負けない。

 そう、いつだって強く願うのだった。

 

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