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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
密約の章

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〈17〉小さな出来事

 ルナスはグランとの話し合いの結果、ユーリを秘密裏に救い出すためにはやはりレイルの力を借りるしかないと判断した。だから、彼にこう頼むのだった。


「彼女を救出するために協力してはもらえないだろうか?」


 すると、レイルは円卓に頬杖をついて鼻で笑った。


「なんだ、手詰まりか?」

「ことは迅速に運ばねば手遅れになる。最短と思える方法を選ぶと君を頼るべきかと」


 神妙な顔で言うルナスに、レイルは高飛車だった。


「貸しに付けとくぞ」

「ああ」


 そんな会話の中、リィアは難しい顔をしてレイルを睨むように見つめた。


「どうしてそんなにあっさり引き受けるの?」


 ルナスに仕えているわけではないと言う割に協力的である。リィアにはそれが不思議であったのだ。

 レイルはくすりと笑う。


「僕にとってもこの流れは好ましくないからだ」

「ふぅん」


 デュークとアルバもまた難しい面持ちであった。



 そうして、その晩のこと。

 レイルはベリアールの居住棟のそばでふたつの名を読んだ。


「クラム、ゼスト」


 どこからともなく現れたふたつの影は瓜ふたつであった。黒装束に黒髪、目立った特徴もない。


「こちらに」


 レイルよりも高い身長を屈して彼の前にひざまずく。年齢も二十代前半でレイルよりも年長だが、彼らはレイルの配下に他ならない。


「変わりはないか?」

「宰相が訪れ、ほどなくして去って行きました」


 一人はそう答え、もう一人はこう答える。


「見張りは三人ほどおりましたが、先に倒しておきました」


 その声をリィアが聞いたなら、きっと大騒ぎしたことだろう。『あの時の痴漢』だと。


「お前らにしては上出来だな」


 レイルがそう言って笑うと、二人は顔を見合わせて表情をゆるめた。この双子をレイルはあまりあてにしていないのである。なので、褒められたことなどほぼないのであった。



 そんな、使えるような使えないような双子を見張りに付けつつ、レイルは木に駆け上がった。

 暗い窓辺で、ユーリはレイルに微笑む。


「こんばんは」

「そんな悠長に挨拶してる場合か?」


 木の上でそう嘆息するレイルだったけれど、ユーリは微笑を絶やさなかった。どんな神経をしているんだと言いたくなるほどだが、今は余計な会話をしている場合ではない。


「あんたのこと、ここから出してやる。あんたの主と旦那とも話はついてるからな」


 レイルの言葉に、ユーリは喜ぶどころか苦笑した。


「それなのですが、どうやら私は明日になれば用なしのようでして、そうしたら出られるんですよ。なので、ひと晩だけ我慢しますね。どうぞお構いなく」

「はぁ?」

「我が君と夫にもそう伝えて下さい。くれぐれも、『先走ることなどないように』と」


 胎の中を読ませないユーリの微笑。その表情に、レイルでさえもぞくりと肌が粟立つ。

 こんな感覚は、そうそう味わったこともない。だから、思わず言った。


「あんた、何を企んでるんだ?」

「企んでなどいませんよ」


 平然と答えるユーリは、やはり並の女性ではない。


「……いや、あんたは最初から僕を操っていた。そこから出るつもりもないのに『出してくれ』なんてな。情報を小出しにすることで、あんたはあんたの思惑通りに僕がベリアールの身辺を探り、それを一部の人間に伝え、その内容があんたの主たちに流れるように仕向けた。僕が何者かを知っているというのも、はったりではないってことか。……今頃気付く分、僕も愚かだけれど」


 レイルが鋭く睨んだところで、ユーリはそれを受け流すでもなく受け止めてしまうのだった。


「明日、何が起こる?」


 そんなつぶやきに、ユーリは悲しげに首を揺らした。


「小さな出来事が」

「小さな?」

「ええ。この国にとっては小さな出来事が起こります」


 レイルは嘆息した。


「だから傍観しろと言うんだな?」

「はい」

「……こっちにもそれで納得しないヤツがいるんだが、どうしたらいい?」


 すると、ユーリはそれでもはっきりとした口調で言った。


「国を守りたいのであれば、ここは我慢なさって下さい。そうでなければ、我が国とペルシは再び戦火に巻かれることとなるでしょう」

「明日、それが決まると? ……いや、すでに水面下で動き出していたものが表に出たに過ぎないのか。今更、どうなるものでもないな」


 ユーリもこくりとうなずく。


「ええ。あなたはお気付きでしょう? この国はすでにスペッサルティンの手の上なのです」


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