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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
密約の章

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〈4〉友人

 そうなのかも知れない。

 ルナスは、コーランデルのように憤りをぶつける場所がない。メーディを責めたところで、それは結局のところ自分に返ってしまう。

 何も言わず、ただ堪えることしか残されていないルナスを見ていると、コーランデルの在り様がレイルには幼く感じられてしまうのかも知れない。


 そのまっすぐな気質を悪く思うわけではないけれど、少しの配慮があってくれてもいいのではないかとリィアも思わずにはいられない。それだけ妹を心配し、その原因を恨む気持ちが強いのだとしても。

 けれど、レイルの言葉にルナスは悲しげにかぶりを振る。


「当然の成り行きだ。コーラルの怒りは私が受け止めるべきものだから」


 そうした度量を見せてくれるたび、支えたいと思う気持ちは強まるけれど、やはり心配にもなる。

 レイルは口の端を持ち上げて含みのある笑みを見せた。


「そうか。まあ、あんたがそういうのなら受け止めて見せろ」


 まるで試すような口振りだ。

 デュークもアルバも、そんなレイルにあまりいい気はしていない風だった。


「おい、その口調を改めろ。無礼にもほどがあるぞ」


 顔をしかめたデュークの言葉に、レイルは楽しげに笑う。そして、以前と変わらぬ気弱な演技をするのだった。


「も、申し訳ございません! ぼ、僕は駄目な人間です!」


 おろおろとかぶりを振る仕草も、演技だとわかってみると腹立たしい。逆にからかわれているのだから。イラッとしたデュークに、レイルは再び癖のある笑みを浮かべた。


「僕は王子様に忠誠を誓っているわけじゃない。だから、敬意とか強要するなよ」

「お前なぁ!」


 つかみかかりそうなデュークをアルバが軽く押し戻す。そして、アルバは動じない様子でレイルに問うのだった。


「それでも、やたらと気にかけてくれるじゃないか。協力関係と呼べる程度ではあるってことだろう?」


 協力関係なぁ、とレイルはつぶやく。


「少し違うけど、まあ時々手を貸してやることはあるかもな」

「もうちょっとはっきりしてよ。わかりにくい!」


 リィアが睨むと、レイルは後頭部で手を組んで頭をゆらゆらと動かした。何か、そんな仕草も腹が立つ。


「仕方ないだろ。僕だって色々あるんだからな」


 そんなやり取りを聞いていたルナスはひと言、ふむと言ってうなずいた。かと思うと、にこりと微笑む。


「レイル、君は私に仕えているわけではないと言うんだね」

「そうだ」

「それでも、時々は助けてくれると」

「……それがどうした?」


 レイルは怪訝そうに目を眇める。そんな彼に、ルナスは言うのだった。


「それはまるで友人のようだね」

「は?」


 猫のように媚びず、すり抜けて行くレイルも、この発言には面食らったようだ。それでも、ルナスは笑っていた。


「私に仕えているのでもないのに助けてくれるのならね。君が事情を話してくれない、あるいは話せないのであれば、私は私なりの解釈で君に接するよ」


 唖然としたのはレイルばかりではない。皆だ。


「あ、あんたなぁ……」


 けれど、ルナスは凛と揺るぎない眼をしてまっすぐに言う。


「頼りにしているよ」


 レイルはとっさに何かを言うでもなく、顔を引きつらせていた。

 メーディのことがあって尚、正体不明のレイルにこうした接し方ができるのは、やはり大器なのだと思う。レイルは呆れたように嘆息し、頭をかいた。


「弟にガミガミ言われた後で、何言ってんだか」

「そうだね」


 クスクス、とルナスは軽やかに笑う。けれど、すぐに表情を引き締めた。そして、つぶやく。


「私にはね、コーラルがここへやって来たのは自然なことだった。来ると思っていたんだよ。だからね――」


 ツ、と視線を上げ、青く晴れ渡った空を見上げる。流れる雲にこの先の未来を重ねているかのような眼をしていた。


「ベリルが来ない。そのことの方が私には不自然でならないのだ」


 ベリル。第三王子ベリアール。

 彼もまた、二人の兄王子とは不仲であるけれど、思うと姫のことは可愛がっていた。だからこそ、何故ここへ来てルナスを責め立てないのか、真相を知ろうとしないのかがルナスにはわからないのだ。


 彼には彼の考えがあり、ルナスを責めることよりも姫を救う手立てを考えたいと思ったのかも知れない。責め立てることが無益だと、ベリアールが気付いてくれたのだとリィアは思いたかった。けれど、弟の性質をよく知るルナスがそう不安げな言葉を口にするからには、彼はそうした人物ではないのだろう。


 今はゆっくりとルナスを休ませたいと思うのに、周囲はそうルナスに優しくもない。目まぐるしいまでに、この城の中ではすでに何かが起こっているのだろうか。


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