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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
裏切りの章

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〈11〉新たな情報

 アルバが戻って来たのは、デュークが言うように明け方のことだった。ルナスたちから話を聞いたのだろう。アルバは隣室で眠っていたリィアを呼びに来た。


「リィア、起きろ」


 ドアを叩きながら呼ばれ、寝起きのリィアは目を擦りながら扉を開く。すぐに動けるように寝衣には着替えなかったので、起き上がってそのままで出た。

 アルバからは煙草や香水、酒といったものが入り混じった大人の匂いがした。酒場にいたのだからそれも仕方のないことなのだけれど、リィアは少しアルバが別人のように感じられて目が冴えた。あまり眠っていないはずだけれど、アルバに疲れた様子はなかった。


「昨晩は災難だったそうだな」

「そうなんですよ! 大変だったんですから!」


 リィアがそう訴えると、アルバはいつもの考えを読み取れない微笑で答える。


「全員で朝風呂だってな。さ、行くぞ」

「あ、はい!」


 淡々としたその背に、リィアは荷物を持って続く。

 隣室にいたルナスとデュークも支度済みで待っていた。デュークもあまり眠っていない様子だった。きっと、一晩中警戒していたのだろう。


 そうして四人はそれぞれに風呂に入り、さっぱりとしたところで食堂にて朝食を摂る。簡単なもので、パンにポーチドエッグ、サラダ、ミルクといった定番だ。時間が惜しいとばかりに食べるデュークとアルバに対し、優雅に食べるルナスでさえもリィアよりは速かった。リィアは待たせたくない一心で味わうこともなく必死で食べた。

 部屋に戻ると、それからテーブルを囲んでアルバが入手して来た情報を聞くのだった。



「そうですね、やはり酒場ではトールド卿のことは色々とささやかれておりました」


 アルバはそう切り出す。


「そのすべてが真実とは言いがたい、面白おかしく脚色したものもありましたけれど。もとを辿ればそうした噂が立つだけのことがあったのでしょうし」

「回りくどい言い方をするな。簡潔に言え」


 急かすデュークにアルバは片眉を上げてみせる。


「隊長はせっかちですね。まあ、聞いて下さい。順を追って説明します」


 そう言われてしまえば、デュークも黙るしかない。ルナスは小さくうなずいた。

 アルバもうなずいて返すと続けた。


「トールド卿のもとへ訪れる客人は、様々な人のようでした。貴族、兵士、商人から他家の使用人まで。トールド卿はそんな客人たちを戦死した息子の弔問客だと仰っていたそうです」

「それはきっと、嘘ではなかったはずだ。ただ、最初はそれが本当であったとしても、次第に変化があったのかも知れないな」


 と、ルナスはまぶたを伏せた。そうして、再びそれが開かれた瞬間には周囲を引き締めさせるような瞳をする。その若い緑色に、皆が吸い寄せられた。


「国の敗戦によって卿は大切なものを奪われた。その判断を下した王を恨む気持ちが、自分ではどうしようもないほどに膨らんでしまったのだろう。だとするのならば、彼もまた戦の犠牲者なのだ」


 その言葉に賛同するように、アルバがつぶやく。


「はい。トールド卿の今の行いは、あくまで不安要素のある集会を開いている程度のもの。決定的ではありません。けれど、いつか謀反へと傾く恐れがあります。いつ、気持ちが決壊してしまってもおかしくはないのですから」


 それに対するルナスの透き通るような声は、凛と意志を秘めて響く。


「私は王族である以上、卿にとっては加害者だ。その私が過去に囚われるなとは言えない。それでも、私なりに彼に言わねばならぬことも確かにあるのだ」

「ルナス様……」


 リィアはその決意にギュッと胸を締め付けられたような気持ちになった。


「どうされますか? まさか正面から行かれたりはしませんよね?」


 心配そうにデュークが訊ねる。それに対し、アルバはあっさりと言うのだった。


「堂々と行けばいいのではないですか? こそこそと入り込んだら、後でややこしくなるでしょう? ルナス様が直々に訪れた以上、迎え入れぬわけには行きませんから」

「そ、それはそうですけど、大丈夫でしょうか?」


 リィアがアルバに目を向けると、アルバは軽く首をかしげた。


「まあ、来訪はおおやけにならないようにしたいからな。そこは俺たちが上手く動くしかないだろう」

「頼むよ、アルバ」


 主の言葉に、アルバは微笑む。


「すべてはルナス様のお心のままに」

 

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