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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
裏切りの章

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〈10〉疑わしきは

 リィアはその後、すぐさまルナスたちのもとへ戻り、自分が遭遇したことを語った。

 ルナスは穏やかな顔立ちを険しくする。


「怪我はないか?」

「は、はい」


 感情的にまくし立ててしまった。思い出すとみっともなくて顔が赤くなる。

 そんなリィアの様子に、ルナスはほっと息をつく。


「そうか。よかった……」


 そんな優しさに少し胸があたたかくなったけれど、デュークはリィアの安否よりも何故狙われたかの方が重要であるかのような口振りだった。


「どういうことだ? ルナス様だと思って狙ったんだとするなら、その正体を知っていて狙ったのか、たまたま町で見かけたのがきっかけで狙ったのか……」

「正体を知っていて狙って来たのなら、とんでもないことですよ! だって、ルナス様が城ではなくてここに来ていると知っている人物は限られています!」


 この場にいる三人の他に、まずはアルバ。それから、留守番をしているメーディとレイル。後は、情報を持って来たスピネルだ。

 考えたくない。リィアは顔を歪め、ふるふると頭を振った。

 そんなリィアに、デュークは少し厳しく強い口調で言った。


「おい、あまり早計になるな。ルナス様のお姿を見て勘付いた者がいたとも考えられるだろ」


 そのひと言が、リィアには救いに思われた。

 確かに、そう考えた方が可能性としてはあり得る。ルナスの容姿は目立つのだ。装いを変えたくらいでは勘付かれたとしても不思議はない。


「そ、そうですよね」


 ほっと息をついてリィアは胸を撫で下ろす。


「間違ってもアルバではない。それは私が誰よりもよくわかっている。メーディにレイル、スピネルも」


 ルナスもそう断言した。彼らを疑うのは愚かなことだと。


「はい……」


 けれど、ルナスが狙われたのだとしたなら、目的はなんだったのか。まずはそれが知りたい。

 それによって、色々と見えて来ることがあるはず。

 ただ、少なくともあの襲撃者には何故だか害意はなかったように思う。だからこそ余計によくわからないのだが。


「アルバのヤツ、さっさと帰ってくればいいんですけど、下手すると明け方とかかも知れません」


 デュークがそう嘆息すると、ルナスは少し考え込んだ。それからちらりとリィアを見遣る。


「リィア、一人で風呂のある別館まで行かせるのは不安だ。途中までデュークに送ってもらうといい」

「え゛」


 二人が異口同音に漏らした。


「アルバの帰りが遅いなら仕方がないだろう。私なら部屋で大人しくしているよ」


 そう言って苦笑するルナスに、デュークはとんでもないとばかりにかぶりを振った。


「駄目です! ルナス様が狙われているかも知れないのに、そんなのん気なことしてられません」

「そうですよ! あれは不意打ちだったから不覚を取っただけで、私なら大丈夫です!」


 リィアが慌てると、ルナスは真剣な目をリィアに向けた。


「危険があるとわかっていながら一人で行かせるわけにはいかない」


 有無を言わせぬ厳しい口調だった。穏やかな中に見せるそうした力強さを垣間見ると、リィアは何も言えなくなる。そうしたところはやはり、上に立つものの資質なのだと思う。


「はい……」


 大人しく返事をするリィアに、ルナスは再び静かに告げた。


「では、私も行こうか。三人で行動しよう」


 その発言に、リィアがあんぐりと口を開けていると、ルナスは何故か困惑していた。


「もちろん、私とデュークは男湯の方だが?」

「そ、そんな心配してません!」


 顔を真っ赤にするリィアに、デュークはケッと吐き捨てるようにして言った。


「アルバが帰って来てから全員朝風呂でいいんじゃないですか」


 そのひと言に、ルナスとリィアは顔を見合わせる。


「それもそうだな。そうするかい、リィア?」

「はい。朝なら危険も少ないかと」


 冷静になったリィアは、大きくうなずいた。すると、顔を見合わせていたルナスがクスクスと笑う。

 その笑顔を見ていると、先ほどのことなど忘れて穏やかな心地がした。



 トールド卿のことを探りすぎたために、卿の手の者が脅す目的で襲って来た。そう考えるのが一番自然なように思われた。


 どこかからルナスに関する情報が漏れている。

 ――それは本当にあり得ないことなのだろうか。

 獅子身中の虫が、近しい誰かであるのかも知れない。その蓋然性を見て見ぬ振りをしてやり過ごしてしまったりはしていないのだろうか。

 そう、不安になる。


 けれど、ルナス自身がそれはないと断言した。そのことが、リィアにとっては何よりも信じられる根拠となった。

 以前、アルバの忠誠を疑ったこともあったけれど、取り越し苦労だった。今回もまた、自分は心配しすぎるのだと馬鹿馬鹿しく思うだけのこと――。

 

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