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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
疑惑の章

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〈3〉王子たちの配下

 第二王子コーランデルは、護衛など必要ないのではないかとささやかれるほどの剣術の腕を持つ。

 銀鼠ぎんねずの短く刈った髪、眼光鋭い双眸。両手持ちの大剣(クレイモア)を振るう姿は勇ましく、兄であるルナスとは対照的な人物であった。


 ルナスにデュークたちがいるように、そんなコーラルにも名目上の護衛は存在する。

 その筆頭がオーラン=ガレオ。

 逞しい巨躯を軍服で包み、常にコーラルの背後を歩く。彼にとって、守り甲斐のないコーラルの護衛など、間違っても天職ではない。できることならば別の配属先にと願っているのではないかと噂されている。

 けれど、コーラルは自分と二十合以上は打ち合えるような人物でなければそばには寄せなかったらしく、彼に白羽の矢が立ったのは仕方のないことである。


 もし、彼が大会で優勝することができたなら、配属先の変更を申し出るのだろうか。

 オーランはコーラルの能力に素直な尊敬は持ち合わせているけれど、それは忠誠とはまた違ったものである。心酔しているとは言いがたい。

 ルナスとデュークたちのような信頼関係は存在しないのだ。それは、コーラルがオーランを必要としたことが一度もないため、ということだろう――。



 そして、第三王子ベリアールには、最も多い護衛がいる。

 それは彼の重要性のためではない。彼自身がこれと見込んだ相手を引き込むからである。

 外見は最も父王に似ており、小狡さを垣間見せる。そうしたところが浅慮だと陰口を叩かれてもいた。

 彼の行いは緻密な計算の上でなされたことではなく、ほぼ突発的であることが多いのだと。

 ベリルは自身が力を付けるのではなく、有能な人材を集めて身を固める、そうしたタイプである。その配下たちの心までを察することができているのかはわからない。


 彼の護衛も粒ぞろいではある。

 第一に、ベリルの護衛隊隊長ティネス=スフェーン。

 三十路手前の、細い目をした男だが、独特の流れるような剣術を操るという。

 そしてその副官、クレイド=ペッツォ。

 彼は弓の名手である。槍もそこそこには扱えるというのだが、遠距離を得意とする彼は接近戦には不利である。



「――目立った相手はそれくらいですか?」


 リィアがそう尋ねると、デュークは嘆息した。


「そんなわけないだろ。こんなの一部だ。軍の中佐以下がそこに混ざる」

「うわぁ……」

「まあ、希望者のみだからな。ヴァーレンティン中佐はここ近年参加されていなかったはずだ」


 リィアの父、ヴァーレンティン中佐は、たまに家に帰って来てもそんな話は聞かせてくれなかった。だから、リィアは大会の存在そのものを知らなかった。

 言えば参加したがると、父なりにこの娘の性格を把握していたせいかも知れない。


「しかし、勝てばいいというのもでもないのですよ。軍は縦社会ですからね。体裁や面子を考慮した上での立ち回りが必要です。相手に恥をかかせたりしてしまっては、後々の禍根になりますからね」


 なるほど、とリィアはメーディの言葉にうなずく。女性だらけの後宮も陰謀渦巻く園であるけれど、男性ばかりの軍もまた、そうした部分がある。

 レイルはううん、と小さく唸った。


「そうしたやり取りを面倒だといつもは真っ先に回避されるはずのアルバ様が、本当にどうされたというのでしょうね?」


 ルナスも小首を傾げてしまった。


「今大会にもきっと、アルバの兄も出場するだろう。けれど、アルバは毎回、彼ほどに熱心ではなかったから」


 兄。


「副隊長に兄上がいらっしゃるのですか?」


 デュークはうんざりとした口調で言った。


「父も兄も軍事関係者だ。父親は海軍中将、兄は少佐。あいつはクリオロ領の名門の人間だからな」


 この王国には三つの領があり、リィアのヴァーレンティン子爵家は西のフォラステロ領、アルバのロヴァンス家はクリオロ領ということになる。中央のトリニタリオ領は王家の管轄である。

 それぞれ、フォラステロ領を管轄する公爵は陸軍大将、クリオロ公爵は海軍大将。この国の権力者は基本的に武門なのだ。


「兄上と対戦なんてことになったら、さすがの副隊長も怯むのでは……?」


 リィアはそう言いつつも、本心ではまったくアルバは頓着しないような気がした。そして、やはりそうだった。


「いや、あいつは奔放だからな。どうでもいいんじゃないか?」

「アルバの兄、エルナは人柄がよいから、正々堂々と負けたのなら恨んだりはしないよ」


 と、ルナスも言う。


「そうですね。前回は俺と当たって敗退しましたけど、その後根に持ったりはしてないようですし」


 この大会で名を轟かせ、階級をひとつでも上に上げたいという野心を皆が持っているのだろう。

 下でくすぶる者ほど、そうした願望は強いはずだ。

 リィアもまだ出場資格はないけれど、出られることならば出てみたかったと思う。


 だからこそ、たくさんの思いが入り乱れ、ぶつかり合うこととなる。そこには薄暗い陰謀もひしめいているのではないだろうか。

 リィアにはそんな気がしてしまった。


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