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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
疑惑の章

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25/167

〈1〉武術大会

 〈疑惑の章〉は全21話になります。

 お付き合い頂けると幸いです。

 広大な世界地図の片隅にひっそりと描かれる島国の集合体、ブルーテ諸島。

 その六カ国のうちのひとつ、最北に位置するペルシ王国。

 諸島最大の軍事国家と謳われながらも、国力を蓄えつつある他国間において、国は揺れ動いている。


 そんな時代に趨勢すうせいを冷静に見極め、国を憂う人物がペルシ王城の奥深くにいた。

 第一王子、ルナクレス=ゼフェン=ペルシ。

 癖ひとつない艶やかな漆黒の長髪に、ぺリドットを思わせる若い緑の瞳。瑞々しい肌としなやかな体付き。男性としては細身であるが、その体躯も女性のように優しげに整った面立ちと美しく調和していた。


 王太子でありながらも、その風貌から、美しいばかりで自ら戦う力もなく居城に飾られた『美しき盾』、と民衆から風刺されている。彼はそれでもこの国の行く末を誰よりも真剣に考えているのだった。

 そうして、ルナクレス――ルナスのそんな心を知り、その想いを支える側近たちがいた。


 一人は、デュクセル=ラーズ。

 眼帯で左目を覆った長身の青年で、彼はルナスの護衛隊隊長である。剣と鞭とを使い分ける民間からの叩き上げだが、冷徹そうな外見に見合わない子供じみた面も見せる。そんな彼の言動が、ルナスには微笑ましいようだ。


 もう一人は、アルバトル=ロヴァンス。

 デュークに劣らない長身に精悍な顔立ち。海軍中将の父を持つ名家の出でありながらも、デュークの副官に甘んじている。実力は軍内でもトップクラスだと密かに噂されるのだが、如何せん癖のある性格をしており、一筋縄では行かない。他人の期待などまったく無価値だと思っているのか、常にどこ吹く風である。


 そうして、アルメディ=ファーラー。

 老年の文官であるのだが、彼はルナスの教育係であり、幼い頃からルナスを見守り続けていた。廉直な人柄をしており、男爵の身分を持ちながらも茶をいれたり、茶菓子を作ったりすることが好きという変わった趣味を持つ。

 けれど、そのティータイムが、今ではルナスの楽しみのひとつになっている。

 

 そのアルメディことメーディのもとで見習い文官をしているレイルーン=ノクスという少年もいる。

 きっちりと分けたチャコールグレーの髪に、黒縁眼鏡。おどおどと視線が定まらない気弱さを見せるものの、生真面目で常に学んだことを記述できるように冊子を携帯している。


 そんな彼らに、先月から一人の少女が加わっていた。

 リジアーナ=ヴァーレンティン。

 彼女もまた、ヴァーレンティン子爵兼陸軍中佐の娘であるのだが、女中将アイオラに憧れて入軍したというはねっ返りである。肩口で切りそろえた柔らかそうに波打つ髪に、つぶらな瞳。女性らしい丸みを帯びた体付き。妙齢の彼女が男性社会に飛び込んで平然としていられるのは、ルナスの庇護のお陰である。


 それを彼女が快く思っていたわけではないのだが、彼女がルナスに抱いていた軟弱なイメージが変わるにつれ、そうした反発心も薄らいだようだった。



 彼らがルナスの居室でメーディのいれた紅茶と菓子を囲みながらティータイムをしているという、ルナスにとっては至福の時間でのことだった。


「――え? 武術大会、ですか……」


 ルナスはにこりと微笑む。


「そう。けれどね、出場資格は軍務に三年以上服した者だから、リィアはまだ出られないね」


 まだ入軍してひと月。リィアにはまだまだ先の話だった。

 つまらなさそうに眉尻を下げた彼女に、デュークは言った。


「階級規制があるから、俺たちのような立場で将軍と対戦することはないが」


 アルバはクスクスと笑う。


「ほら、将軍が下の者に負けてしまっては示しが付かないから」

「アルバ殿のような変わり者が時々いらっしゃるから厄介なのですよ」


 と、メーディが嘆息しつつしみじみと言った。

 その傍らで、レイルが眼鏡の奥の瞳を輝かせている。


「去年の大会は僕も観覧させて頂きました。デュクセル様が大健闘されましたよね。確か、準々決勝で」


 数百人中その成績であれば、かなりの好成績と言える。ただ、デュークは渋い顔をした。その理由を、アルバがリィアに説明してくれるのだ。


「あの時、汗で鞭がすっぽ抜けたんでしたっけ?」

「うるさい!」


 肝心な時に詰めが甘い。リィアも思わず笑ってしまった。そんなリィアを睨みつつ、デュークは半眼をアルバに向けた。


「アルバ、お前が本気を出したら俺よりも上に行ったはずだ。まさか、今年も手を抜くつもりじゃないだろうな? ルナス様に恥をかかせる気か?」


 確かにその通りだ。手を抜いたというのなら、アルバにとって武術大会はなんら興味のない退屈なものであったのだろう。武人たちがこぞって力を示そうとする場であるのに、アルバにはそれが滑稽であったのかも知れない。

 だとするのなら、今年も同じことになるのだろう。

 ルナスは二人の会話を穏やかな面持ちで聞いていた。


「私のことなら気にしなくていい。アルバがそれでいいと思うのなら、私から言うことはないよ」


 すると、アルバはルナスに微笑を向けた。

 では、お言葉に甘えてとでも言い出すかと思えたアルバは、意外なことを口にする。


「いえ――今年は優勝させて頂きますよ」

 

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