〈1〉黎明期
【Full of the moon】の内戦終了より五年後の諸島です。
こちらだけ読まれる分には問題ありませんが、あちらの物語のネタバレが若干含まれています。
黎明期――。
そう呼ばれる時代があった。
ブルーテ諸島は、アリュルージ王国を中心に五つの島国で囲むような地形で成り立っている。
北にペルシ。
東にレイヤーナ。
南にシェーブル。
南西にキャルマール。
西にスード――六つの島国が存在する。
その国の多くが、この時に大きな変化を迎えていた。
まず、最南の国、シェーブル。
王が崩御したこの国で大規模な内戦が勃発し、あろうことか抵抗組織が勝利を勝ち得るという結果となった。
諸島にとって初の、民主国家『シェーブル共和国』が誕生したのである。
それに次いで、諸島の中央に位置し、他五国すべてに隣接する王国アリュルージに変化が起こった。
三十年もの間、その特殊な位置のために鎖国を続けていたアリュルージが、ついに国を開いたのだ。
ただ、目まぐるしく移り行く諸島情勢の中、最も脅威となるのは、東に位置する王国レイヤーナである。
レイヤーナにおいても、シェーブルに引き続き内戦が起こった。ただ、その内戦は起こるべくして起こったと言える。
子の多いレイヤーナ国王には七人もの王子がいた。そのうちの一人、第五王子による反乱である。
けれど、彼は圧倒的な民衆の支持を武器に、王太子の位を得た。自ら身を引いた王子もいれば、最後まで抵抗した者もいた。ただし、その第五王子の前にはなす術もなく退けられたのである。
年老いた王は、第五王子と民衆の結束を認めると、これこそが国のあるべき姿であると言って退位した。
そうして、第五王子ネストリュートは、王座に君臨したのである。
彼は、後々も伝説となって語り継がれる王者となる。
それにより、諸島において最大の国土と軍事力を誇っていたペルシは、隣国レイヤーナの新たな王の誕生に翻弄されることとなる。
いち早く情勢の波に乗って動いたはずのペルシは、その手痛いしっぺ返しを受けているのだ。
この諸島の間には、中央に位置するアリュルージに対する不干渉条約というものがアリュルージを除く五国間で締約されており、武力によってアリュルージに侵略することを禁じていた。
その不干渉条約を破り、アリュルージに侵略するという武力行使に及んだペルシは、まさかの敗戦を喫し、それによって賠償金を支払うも、他国の信頼を著しく欠いた。
そうして今はただ、国力の回復に努めていたのだ。
そんな時期に、レイヤーナは生まれ変わった。
レイヤーナを囲む、ペルシ、アリュルージ、シェーブル、この三カ国の国状が安定しないという事態が起こっていたのだ。レイヤーナの内戦に付け入ることができる国はなかった。
他の二国もレイヤーナにとって脅威ではない。
ペルシの逆隣である宗教国家スードは、条約でもなければ各国間の争いを厭い中立として静観する。
そして最後の一国キャルマールには、ネストリュートは王太子に自分の妹姫を嫁がせて婚姻関係を結んでいた。この妹姫は兄の中でも特にネストリュートをよく慕っており、協力をすることはあれ、邪魔などしようはずもないという。
すべての状況が、第五王子であるという不遇なはずのネストリュートに味方した。
もちろん彼は用意周到であったのだが、そればかりとはとても言えない。
これが天意ということなのか。
どこにも隙はない。これでは、このブルーテ諸島はレイヤーナ王国の、ネストリュートの手にあると言える。
すでに、軍事国家として恐れられたペルシは孤立していた。
諸島一と謳われた影響力はすでに過去の栄光である。
真の脅威はすでにペルシではない。小国家アリュルージに敗北を喫した瞬間に、この国の運命は沈む夕日のように降下を避けられなくなった。
そう、昇る日があれば、どこかで日は沈むのである。
軍事国家。
その在り方に疑問を持つことが、生存への唯一の道筋であるのかも知れない。
ただし、そう考えられる人間が、その国にどれだけいたのであろうか――。




