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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
調停の章
15/167

〈14〉ウヴァロ

 ルナス、デューク、リィアの三人は、盗賊の追尾に向かったアルバを残して先に城内へ戻った。アルバなら下手は踏まない。皆がそう信じたからこそである。


 戻った先でまず粗末な服を改めると、ルナスは円卓の一角の椅子に腰かけた。リィアも再び軍服に着替えて戻ると、厳しい面持ちで一点を見つめて考え込んでいるルナスが視界に入る。

 こうして貴人の装いをしているルナスの方が本来の姿であり、その優美な風貌はこの上等な室内に違和感もなく溶け込んでいる。


 城の外を巡回することで見えて来る国状もあると思う。知ることは大切だ。

 けれど、それが何故このような形なのか。周囲に知られないように動くから、常に部屋から出て来ない王子と言われている。

 もし、表立って動くのならば、そのような侮蔑は軽減されたのではないだろうか。国のことを憂えていないわけではない、と。

 戦力だってもっと要請して、ことを迅速に運べるはずだ。

 正直に言ってしまうと、リィアにはルナスのことがまるで理解できなかった。


 リィアは楽にしているといいと言われたけれど、上官のデュークが壁にもたれたまま動かないので、結局直立してアルバを待った。ひどく長い時間に感じられたけれど、もしかすると壁際でデュークは寝ていたのではないかという疑惑を拭えない。


 そんな腹立たしさを感じつつリィアが控えていると、ようやくアルバが戻った。いつの間にやら着替えを済ませ、すでに軍服姿である。アルバに預けてあったスモールレイピアが手もとに戻る。


「ご苦労だったね、アルバ」


 ルナスが労うと、アルバは恭しく一礼した。


「遅くなりまして、申し訳ありません」

「で?」


 と、デュークが先を促すけれど、ルナスはまず円卓に全員を座らせた。メーディとレイルは常にここにいるわけではない。今は文官としての職務を全うしている頃だろう。

 アルバは改めて口を開く。


「報告しなくともすでにおわかりでしょうが、やはり彼らは『ウヴァロ』へ帰りました」


 ウヴァロ――王都のそばの貧民窟。

 わかり切っていた事実だというのに、ルナスは憂いを含んだ瞳を隠すようにまぶたを伏せた。


「そうか」


 そんな主に、デュークとアルバは心配そうな目を向ける。

 臣下である二人は、自分よりも年若いこの主君を頼りなく思っているのかも知れない。だからこそ、自分たちが支えてあげなければ、と。

 そうでなければ、特にアルバのような人間がルナスに素直に従う理由がわからない。この二人を納得させるだけの器が、この見目ばかりの王子にあるとは思えないのだ。


 ルナスもそんな二人を兄のように頼っている。そういうことなのだろう。

 何はともあれ、この三人の結束は固い。それは確かなことのようだ。


「メーディに相談しよう。それから、スピネルを呼んでほしい」


 メーディ――教育係だったというあの穏やかな老人から、ルナスはこの性質を受け取ったのだろうか。

 メーディのことも、この二人同様に信頼しているのだと見て取れる。


 けれど、スピネルという名に、少なくともリィアは心当たりがなかった。軍人のすべてを知っているわけではないけれど、有能ならば耳にしたことくらいあるはずだ。

 考えてもわかりそうにないので、リィアは素直に訊ねる。


「スピネル殿とはどなたですか?」


 すると、ルナスは微笑んだ。


「商人だよ」

「え?」

「なかなかにやり手でね、顔も広い」


 そう説明されたけれど、リィアは小首を傾げてしまった。その商人に会って、ルナスはどうするつもりなのか。

 デュークもアルバも何も訊ねようとしない。ルナスの考えをすでに読み取っているからなのか、疑わずに従うのみであるからなのか。

 どちらでもないリィアだけが、その場では異質だった。


「では、明日にでもこちらに呼び寄せましょう。あいつも、ルナス様がお呼びとあらばすぐにでも馳せ参じることでしょうから」


 デュークの言葉に、ルナスは苦笑する。


「彼は多忙だ。急で申し訳ないのだが、この問題にはあまり猶予もない」


 アルバもうなずく。


「スピネル殿ならば、すでにウヴァロと盗難を結び付けているかも知れません。商人特有の情報収集能力と先見の明のある方ですからね」

「そうだな。だからこそ、彼の協力を仰ぎたい」


 例え豪商であろうともスピネルは商人であって、軍人ではない。商人は、おもねりへりくだるもの。共生する相手を選ぶもの。

 損得を、見極めるもの。

 ルナスは、その人物を扱えるというのだろうか。


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