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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
調停の章
13/167

〈12〉アガート公道

 約束通り、リィアは早朝にルナスの居住棟を尋ねた。誰が見ているかもわからないので、この時は軍服のままだった。ただ、袋に買ってもらった服を持って来ている。


 リィアを中へ招き入れたルナスは、すでに着替えを済ませていた。昨日とは少し違い、丈の長い薄手のコートを羽織っている。アルバも同様だ。その姿を見た瞬間に、リィアはすぐに察することができた。

 あのコートの下に短めの剣を潜ませているのだと。

 これから向かう先を思うと当然のことだろう。デュークだけが少し軽装であったけれど、きっとどこかに武器を隠し持っていると思われる。


「あちらの部屋を使うといい」

「はい」


 ルナスに誘われるままに部屋へ踏み入る。向かった先はどうやら寝室だった。

 天蓋の付いた濃紺のベッドが中央にある。乱れた様子もなく整えられているシーツに、彼の几帳面さを見た気がした。

 普通に考えたなら、王子の寝室になど踏み入る機会があるはずがない。この異常な状況に焦りを覚えつつも、リィアは着替えを急ぐのだった。前回のことも踏まえ、胸に布を巻いて押さえ付ける。帽子に髪を押し込むと、そばにあった金縁の姿鏡にみすぼらしい格好をした自分を映した。


 これで少年に見えるだろう。

 ただ、この服にスモールレイピアを隠す部分がない。かといって、これから何が起こるかもわからないのに丸腰では不安すぎる。

 リィアは畳んだ軍服をベッドの下に隠しつつ、持って来た袋の中にスモールレイピアを入れて外へ出た。


「ん? 剣ならアルバにでも預けておけ。手に持ってると警戒される」


 デュークがそういうので、リィアは大人しくアルバにスモールレイピアを手渡した。ただ、


「ま、お前なんてもともと戦力外だけどな」


 ケケケ、と意地悪く笑うデュークに、リィアは青筋を立てて耐えた。


「まあ……とにかく行こうか」


 ルナスがそう言うので、三人はそれに従った。

 この間と同じように、まずデュークが先へ行き、アルバがしんがりだった。

 リィアは、ルナスの頼りない背中に続いた。



 城下町へ出るが、目的地は更に外である。行き交う人々に紛れ、四人は王都を抜けるのだった。

 出て行く人間に対しては番兵たちも気に留めない。服装の割に鍛えた体をしたデュークとアルバを見て、一瞬だけ訝しんでいたけれど、何も言われずに町を後にする。


 整備された石畳の公道の上には、長年の歴史がある。轍の跡が幾重にも残り、石畳のところどころが欠けている。重たい積荷や軍の進行のせいだろう。

 リィア自身、ここを通って王都入りしたのだが、徒歩ではなかったため、こうしていると少しだけ新鮮な気分だった。

 空は青く晴れ渡り、この春先の日差しは優しいけれど、こうして歩き続けると暑く感じられる。リィアはふと、涼しげな面持ちで歩くルナスに目を向けた。


「もしや、いきなりウヴァロに行くのですか?」


 恐る恐るリィアが尋ねると、ルナスはかぶりを振った。


「まさか。今日はアガート公道の様子を見に行くんだよ」


 確かに、突然乗り込んでもどうにもならない。あの店主の言ったことに対する裏付けが必要だ。


 公道を使い王都へ商品を運ぶ荷馬車なら、毎日数多くある。そのすべてに護衛を付けるゆとりのある商人ばかりではない。

 その中から警備の手薄なものが襲われるだろう。荷馬車の御者たちは、それが自分でないことを祈りながら馬を走らせているはずだ。


「なあ、公道のどの辺りが一番の狙い目だろうか?」


 ルナスが二人の側近に意見を求める。二人はすでに考えいたいのだろう。

 まずデュークが答えた。


「公道の半ばに途中にオーラ橋がありますが、そこはまず避けますね」

「転落の危険がありますし、素人集団の盗賊には不向きな地点ですから。狙うなら、橋を越えてからですね」


 ルナスは小さくうなずく。


「橋を渡り切って、それから公道が林のそばで湾曲する地点があったはずだ。先の見通しが悪くなるあそこが……」

「確かに、俺が盗賊でもそこを狙いますね」


 アルバが微笑を浮かべながら賞賛する。

 確かに、彼らの言う通りだと思う。ただ、地図を見ればそれくらいのことは誰にだって推測できる。

 何も特別なことではない。

 それをわざわざ口にすることはしないけれど、リィアは少しだけさめた気分で三人と共にいるのだった。


 彼らはどこまで本気なのだろうか。

 盗賊が出るのだとして、この少数でどうするつもりなのだろう。

 勢いで付いて来たが、リィアには先のことまでは見通せそうもなかった。少しだけ早まったという気がしないでもないけれど、意固地な性格が後に引かせてくれないのだ。


 三人に気付かれないよう、リィアは小さくため息をついた。

 そんな時、ガラガラと公道の上を進む馬車の車輪の音がした。足もとの石畳が、その振動を四人に伝える。それに気付いた途端、馬の嘶きが晴天に大きく響き渡った。

 

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