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〈プロローグ〉
広大な世界の片隅にひっそりと存在する島国の集まり――合わせて六カ国から成るブルーテ諸島。
その最北に位置し、諸島一の軍事国家と謳われ、恐れられたペルシ王国には、三人の王子がいた。
その王子たちのことを、民はひそやかに風刺する。
第三王子は矢のようだと。
きりりと張られた弓弦から放たれた、勢いのよい征矢そのもの。
勇敢と言えば聞こえはよいが、考え知らずに他ならない。
一度狙いを違えればそれまでだ。
第二王子は剣のようだと。
研ぎ澄まされたその刃は、ただ敵を斬り伏せるためだけに存在する。
人らしい思いもなく、冷徹にすべてを斬り裂く。
それはそれは恐ろしい、諸刃の剣。
そして――。
第一王子は盾のようだと。
自らの身を守るだけの盾は、先陣を切って戦うことをしない。
宝石をあしらい、美しく飾り立てたてられたその御身は、傷ひとつないままに居城にある。
勇猛果敢を是としたはずの国において、なんと惰弱な存在であるか。
美しき御身に、この国を背負うことなどできようか。
沈み行くこの国に相応しいのは、いずれの王子であるのか――。