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お題シリーズ  作者: 瑠璃蝶草
~急募、君の機嫌の治し方~
3/3

3 自分の思いを伝えてください

豹牙の隠し事を知って怒る春都。追いかけてきた豹牙に思いのたけをぶつけます。

春都は怒りに身を任せたまま山の中を走っていた。


「豹牙なんか……豹牙なんか知らないもんっ」


怒りと悲しみと……湧き上がる感情が涙となって目に溜まり、

頬を流れる。




最初は……最初は自分が悪かった。



豹牙が寝ぼけて口に出した名前……「ナギ」。




……それは豹牙の恋人にして婚約者でもあった女性の名前。




豹牙と同じ軍人で、幼馴染で。


でもある時、軍の方針に真っ向から反対した彼女は軍を抜けた。

しかし彼女が他所の戦力になることを恐れた軍は、婚約者であった豹牙を追っ手として差し向けた。


豹牙は共に逃げようと説得するが、しかし……。


『豹ちゃんにこれ以上迷惑かけられないや……』


そう言って自ら命を絶った。


そしてその彼女の姿は……春都そのもので、唯一違うのは目の色だけらしい。


……そして、豹牙は最初、彼女の面影を追って春都と付き合い始めた。

春都はそれを知ってショックを受けたが……それでも豹牙が好きな気持ちに変わりは無く、

そんな豹牙も受け入れ、今も付き合っている。


しかし、それでも……



『…ナ……ギ……』


寝惚けていたとは言え、彼女そっくりな春都を抱きしめて、

彼女の名前を呼ばれたのは……かなり傷ついた。


だから咄嗟に殴ってしまった。


もちろん春都はこれは自分の嫉妬で、八つ当たりだという事も分っていた。

だから自分の気持ちが落ち着いたらきちんと謝ろうと思っていたのだ。




しかし……それは豹牙の「告白」で事態が急変した。



「あんなにっ……あんなに心配して待ってたのにっ。

 ……夜も眠れないくらい……不安で不安で不安で待ってたのに!!」


ガンッと近くにあった木に拳をぶつける。

皮膚が擦れ、血が滲み痛むが今の春都にはどうでもいいことだ。


「なのに……なのにっ!!新しい武器の試運転ってなに?!

 しかも内緒にするなんてっ……どれだけ私が心配したと思ってるのよ!!」


怒りの叫びをぶちまけると、少しすっきりしたのか、段々と落ち着いてくる。




「……豹牙、ぶっちゃった…………」


豹牙の頬を叩いた左手が熱を持ったようにじんじんとしている。

かなりの力で叩いてしまったようだ。


「……初めて……豹牙を見捨てるようなことも……言っちゃった……」


怒りに任せて見捨てるような言葉を吐いたのも初めてだ。

そこまで自分が本気で怒っていたことにも驚きだ。


「でも……そう、だよね……私……」






「春都ー!!!」


「っ?!?!」



自分を呼ぶ声がして振り向くが、誰も居ない。

気のせいかと思った瞬間!



ズササササササササササッ!!!

バキッ! ボキッ! グシャッ!!



「ぐえっ……」

「ひ、豹牙?!?!?!」


なんと豹牙が上から落ちてきたのだ。


「なっ、ど、どこから現れているのですかあなたは!!」

「……や、やべぇ……着地、失敗……した……」

「仮にも暗殺兵でしたよねぇ?! しかも鬼道忍軍ですよねぇ?!」

「は、春都をやっと見つけて……焦って……足元が狂った……」

「っ!? …………別に見つけなくて良かったんですよ。

 私はあなたのことなんてもう知りませんから」


つん、とした態度で踵を返し、豹牙に背を向けるように歩き出す春都。

……本当は内心嬉しかった。

足元が狂って落ちるほど焦って探してくれたこと。

追って来てくれたこと。

だが、それで豹牙を許せるほど自分は心が広くない。

というより、どう接したらいいのか分らない。

頬を叩いてしまったことを自分から謝ろうとは思えない。

だって、あれは豹牙が悪いと思うから。


だから……だから、わざと冷たい態度を取るしか考えられなかった。


どんどん進む春都。次の一歩を踏み出そうとしたとき。


後ろから強く引き寄せられる力によって、それは阻止された。



「っ! は、離して下さい!!」


一瞬何が起きたか分らなかったが、視界の端に銀色の髪が見えたこと。

豹牙の気配がすぐ真後ろにあること。

……豹牙の腕が自分の首で交差しているのを見てようやく。


自分が豹牙に抱きしめられていることに気づく。

心が温かいものに包まれて心地良かったが、そんな自分に気づいて

慌てて離れようともがく。


「離して下さい! もう豹牙なんて知りません! 

 勝手にどこかで好きなように武器を試して、好きなように傷つけばいいじゃないですか!」


じたばたするが、一向に解けない腕。

それどころか更に力が強くなる。


「私がっ!! 私がどれだけ心配したか豹牙は知らないんです!!

 眠れなくて不安で、寂しくて……待つことしか出来なかった自分が

 どれだけ無力に感じたか! それがどんな気持ちか豹牙には分らないんです!!」


溜まっていた想いが、口からどんどん出て行く。

気持ちもどんどん高まって、とうとう目じりから涙が流れ始める。


「血だらけになった姿を見たときなんて、心臓が止まりかけたんですよ?!

 でも……でもっ! 豹牙が言いにくそうだったから聞かなかったのに!!

 その理由が武器の試し撃ち?! ふざけないでください!!

 しかも隠してたなんてっ……最初から言ってくれれば!

 連絡さえいれてくれれば少しは安心するんです!!

 なのにっ……なのにっ!!!!」



「……………ごめん、春都」


耳元で優しい、それでいて本当に申し訳なさそうな豹牙の声がする。


「ごめんね、春都。 本当にごめん。

 俺がすっごい馬鹿だった……春都の気持ち全然考えてなかった。

 本当にゴメンね……でも、俺……俺っ!!」


ぐるっと世界が回ったと思ったら、涙目の豹牙の顔が真ん前にあった。


「春都がいないとダメなんだ!

 ……春都に苦しい思いや悲しい思い、泣かせてるけど……

 俺はもう、春都がいないと生きていけないんだ。

 ……だから、お願い。俺の傍に居て。

 許せないなら、許してもらえるように何でも努力する。

 許してもらえるまで何度でも謝るからっ。

 だから……だから…………」


豹牙の翡翠の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちる。


……豹牙の泣いたところを見るのは初めてではない。

でも、こんなに必死にすがるように泣いているのは初めてだ。

こんなに……こんなに私を必要としているのを聞くのは初めてだ。


ちょっとした優越感?を感じるのと共に。


若干の罪悪感を感じるのはなぜだろう…………。



「…………しょうがないですね。

 許してあげます」



「!! ほ、ほんと?!」


「ただし!!」


春都はビシッ!っと人差し指を豹牙の鼻先に突きつける。



「……私へのお詫びとして、桃のタルトを豹牙の膝の上で食べさせてください」


すると、豹牙はきょとんとした表情をさせた後、微笑んでぎゅっと春都を抱きしめた。


「もちろん。 愛情籠めて作らせていただきます。」

「……ん。 じゃあ、帰ろう」

「うん!!」


(君が許してくれるのなら何でもする)


(ほんとにごめんね、春都)

(……もう、しないでね)

(ああ。約束するよ)

一応、これでケンカ編は終わりです。次の話はおまけ。後日談みたいな感じで囲うと思います。

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