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第八回 僕らはそれを見ていたはずなのに

第八回創作五枚会概要

・禁則事項…直喩法使用禁止・固有名詞使用禁止

・テーマ…光景


オリジナルの縛り

・原稿用紙の五枚目の最後の行で作品を終わらせる。


表紙

挿絵(By みてみん)

作:藍色ポニー様

 電車の扉が閉まった。車内に「この電車に乗れてよかった」という安堵感と「早く人が少なくなってくれ」という不満感が、煙になって人の頭から浮かんでいくのが目に見える。

 時折揺れながら、電車は進んでいく。

 暇になり、中吊り広告を見上げる。芸能人のゴシップやら、UFOの目撃情報やらの『本誌独占情報』が雑誌ごとに記されていた。

 芸能人のゴシップを『本誌独占情報』にするのはわかるが、UFOの目撃情報を『本誌独占情報』にするのはよくわからなかった。そんなにそこの雑誌は、面白い記事が取れなかったのだろうか、と僕はその編集部を不憫に思った。そして、UFOを見たときには、そこの雑誌編集部に教えてやろうと思った。

 中吊り広告にも見飽きて、僕は外の景色を見る。

 ビル、ビル、ビル、マンション、ビル、ビル、ホテル。僕は溜息を吐く。いつまで経っても、質素な高層建築物しか見えない。

 見飽きた景色。それでもやる事がなくて、ぼーっと外を見る。

 ふと、家でやっているゲームの事を思い出した。この前大掃除をしていたら、物置の奥から出てきたやつだ。見つけた瞬間に思わず「懐かしー」と大声で叫んでしまった。

 大掃除から一ヶ月ほど経った今、僕は家に帰ると真っ先にそれをやっている。家でゲームをやりたいが為に、会社では年が明けてからまともに働くようになった。残業なんてしてゲームが出来なくなるのは嫌だったからだ。

 そのゲームは、走っている忍者をジャンプさせて敵や穴を避けて、ゴールへ向かうというものだ。シンプルな反面、とても難しい。

 僕は、その忍者にこの見飽きた景色を走ってもらおうと思った。暇つぶしにもなるし、ゲームのイメージトレーニングにもなる。

 僕は、じっと流れ行く景色に目を凝らした。ぼうっと、黒装束が浮かんでくる。

 少しずつ形になっていき、それは走り出す。

 ゲーム通りに黒装束をはためかせながら、ジャンプしていく。

 おお、と僕は自分自身で感嘆した。これで、退屈な通勤時間をやり過ごす事が出来る。

「ちょ、えっと、電車止まります!」

 いきなり、アナウンスが聞こえた。

 電車が、止まる?

 突然甲高い音が聞こえ、先頭車両のほうに身体が吹っ飛ぶ。何人かの人と身体がぶつかった。

 僕は真ん中の方にいたので、特に大きな怪我は無かった。先頭車両側の扉の方は大丈夫だろうか、と心配になる。

「え、浮いた……?」

 ぼそっと、車掌さんの声が聞こえた。

 浮くって、何がだ?

 その呟きの数秒後、電車の窓が一斉に割れた。硝子の破片が車内に飛び散る。急ブレーキの副作用だろうか。そう思うが、すぐさまそれを否定した。いや、だったらもっと早くに、窓は割れている。

「UFOだ!」

 ふと、そんな声が聞こえた。

 UFO?

「あ、あれ!」この車両の女性の誰かが声を出した。そして、周りの人が「おお! UFOだ!」と声を出し始めた。

 僕は、他の人が向いている方向を見る。

 絶句。

 そこには確かに、円盤があった。

 ふわふわと、その円盤は風に身を任せている。いや、これはもしかしたら新しい運転技術なのかもしれない、と半ば本気で思った。

 周りの人が携帯を取り出し始めた。どこからともなく「自分もこの瞬間を撮らなければ!」という気持ちが湧き上がってくる。僕は即座に携帯のカメラ機能を起動させた。

 すぐさまそれを録画開始して、その円盤がいる方へと向ける。相変わらずそれは、ふわふわと浮いているだけだ。

 ふと、またあの忍者のゲームの事を思い出した。そのゲームには、一定の秒数あるボタンを長く押していると、高くジャンプが出来るという操作方法がある。力を溜める、というやつだ。

 それが、あの円盤と何故かシンクロして見えた。

 嫌な予感がした。

 あのUFOは今力を溜めていて、こちらに攻撃を仕掛けてくるんじゃないか?

 瞬間、その円盤は僕の視界から消失した。跡形も無く、消え去った。

 ほっと僕は安堵する。良かった、攻撃を仕掛けてこないで、と。

 さっきの中吊り広告を思い出す。あの、UFO目撃情報の奴だ。

 あそこに映像を送ってやろうと思い、録画した物を見直す。

――だがその映像には、あのふわふわと空に浮いていた円盤は、一切映っていなかった。


-「All are the fantasies.」end-

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