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第六回 黒猫、烏、暗雲

第六回創作五枚会概要

・禁則事項…名前の記載禁止・!と?の使用禁止・会話文の使用禁止

・テーマ…不安


オリジナルの縛り

・原稿用紙の五枚目の最後の行で作品を終わらせる。


表紙

挿絵(By みてみん)

作:藍色ポニー様

 ドアを開けて外へ出る。雲が少しあるが、太陽は出ている。

 やはり、陽が出てても外は寒い。僕は首をすくめた。

 両手をポケットに入れてマンションを出る。

 季節は冬の真っ只中。まだ雪こそは降っていないが、土に白くて綺麗な霜柱は立っている。

 今日は遅く出てきたはずなのに、まだ残っているのか。

 心の中で、微笑んだ。

 それとなく、霜柱の方へと寄る。高校生にもなって、霜柱を独りで楽しそうに踏んでいるのは少し恥ずかしい。なので、よろけてたまたま踏んでしまったという感じを出したい。

 歩いている最中に、わざと右足の甲で左足のかかとを蹴る。僕の思い通りにバランスが崩れて、霜柱の方に足が向かっていく。

 心地よい感触。それを足の裏で感じる。かき氷を食べたときの音が、足下で鳴った。

 自然と笑みが顔に浮かぶ。これこそ、至福の一時。

 途端、自分が微笑んでいることに気づき、僕は垂れ流していた笑みを元に戻す。何で僕は、たまたま踏んだのに微笑んでいるんだ。これじゃまるで、自分から望んで霜柱を踏んだようじゃないか。

 誰かに見られていないか、と周囲を見渡す。――誰もいない。僕はほっとする。

 突如、感じる視線。

 咄嗟に振り返った。

 闇のように黒い毛、小柄な体躯。

 黒猫が、そこにはいた。

 金色の瞳がこちらをじっと見つめている。僕は息を呑んでそれを見つめ返す。

 まるで、時が止まったような感覚。風の音だけが聞こえる。

 瞬き。それをした途端、黒猫は僕に興味が無くなったのか来た道を戻り始めた。

 一体なんだったのだろうか、と思いながら歩き始める。

 ――黒猫。僕ははっとする。

 脳裏に浮かぶその言葉。『不吉の象徴』

 後ろを、振り返る。

 だがそこにはもう『不吉の象徴』は、いなかった。


 嫌な予感。

 それが、さっきから僕の胸を満たしていた。

 脳裏に浮かび続ける、僕を見つめる黒猫。他のことを考えようと思っても、それだけしか考えられない。

 特に暑くも無いのに手に浮かぶ汗。普通に歩いているだけなのに逸る鼓動。

 僕は今、怯えていた。

 これからやってくると思われる何かに、怯えていた。

 甲高い、まるで嘲笑うかのような声が空から聞こえた。

 僕は声の主を見る。

 漆黒の翼を広げ空を飛んでいるそれが、僕を上から見つめている。

 ――烏。それは旋回を始める。僕を、中心にして。

 僕のことを餌だと思っているのだろうか。そう考えるがすぐに否定する。

 だとすると、何故僕を中心にして旋回を始めたのか。

 じっと、虚空に円を描く烏を見る。

 そして、それに気づいた。

 烏も、『不吉の象徴』じゃないか。

 嘲笑うような声。

 この後、何か起きるんじゃないか。

 竦む足に鞭を打って、烏から逃げるようにして学校へ向かった。


 農道を抜けると、少し広い道に当たる。そこを渡ると、僕の中学校に着く。そこは朝でも車の通りが多い、少し危険な道だ。

 烏から逃げてきた僕は、横断歩道の信号が青になるのを待つ。車の通りはやはり多い。信号無視をして渡るのは自殺行為だ。

 背後で、何かが落ちる音がした。音の方を見ると、白い液体がコンクリートにぶつかっていた。鳥の糞だった。

 僕は反射的にそれを避ける。

 車道に、出る。

 聞こえた、クラクション。

 照らされる、僕。

 ブレーキ音、向かうそれ。

 轟音。

 見えるのは空。家から出てきた時よりも、暗い。暗雲が立ち込めている。

 プールで浮かんでいるような感覚。

 長い。瞬間を、永遠に感じる。

 そして、訪れる恐れ。

 これから、何かが起きるんじゃないか。

 静寂。

 その中で、まるで僕を嘲笑うような声と、死を告げる声が聞こえた。


-「Black cat that calls death,Crow that ridicules it,Dark clouds that uneasiness is felt.」end-

-不安-

気がかりなこと。心配なこと。これから起こる事態に対する恐れから、気持ちが落ち着かない状態。


原因や対象のはっきりしない恐れの感情。動悸(どうき)・発汗などの身体的徴候を伴うことが多い。

「はてなキーワード」より


2011/02/06

前書きにて表紙掲載。

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