第五回 それに乗せたものは憎悪か狂気か
第五回創作五枚会概要
・禁則事項…会話文の使用禁止
・テーマ…憎悪
オリジナルの縛り
・原稿用紙の五枚目の最後の行で作品を終わらせる。
「復讐に正しいも間違っているも無い。あるのはそいつへの憎しみだけだ」――叶野三郎『そして残ったものは』
人通りの少ない路地。
今、そこにいるのは僕と帰っている途中の同級生だけだ。
絶好のチャンス。
――待ってろよ。もうすぐで、お前の仇を取ってやれるからな。
自殺したお前の顔が、脳裏を過ぎった。
反射的にその時のことを思い出す。そして、自分の情けなさに唇を噛み締める。
死んだ。
僕の親友が、死んだ。
原因はわかっていた。苛めだ。
僕の親友は、元々苛められやすい子だった。
優しい性格に、泣き虫、そして怖がり屋。
そこに付け込まれ、彼は幼い頃からよく苛められていた。
小学生の頃までは、僕が一緒だったからか、そこまで酷くは苛められてはいなかった。
だが、中学に入ってからだった。
僕がサッカー部で彼は帰宅部という事で、、あまり一緒に登校したり下校したりすることが出来なくなった。
しかもクラスが別々なので、彼がどうしているかよくわからなくなってしまった。
遡る事、今から一週間前。
その日は大雨が降っていたが、サッカー部は校舎内でトレーニングをしていた。
結局帰るのはいつも通りの時刻。
僕は独り、帰り道に通る農道を歩いていた。
道路がコンクリートではなく剥き出しの地面なので、とてもぬかるんでいる。
その為、雨の日のここの人通りは激減する。
すると途中で、木の傍で倒れている人を見つけた。
こんな雨の中で大丈夫かな、と思いその人の元へ行く。
目を、見張った。
それは、紛れも無く僕の親友だった。
僕はそいつの名前を呼びかけながら、身体を揺らす。
が、そこで気づいた。
冷たい。身体が、冷たい。
そして、首元に一筋の縄の痕。
恐る恐る、胸の方へ手を伸ばす。
そんなことは、無いよな……?
死んでなんか、無いよな……?
数秒、手を当てる。
冷たい身体。
一筋の縄の痕。
わかっていた。けど、わかりたくなかった。
いくら手を当てても、感じない鼓動。
――死んでいる。
瞬間、空が光った。
僕は空を見ようとしたが、ある物を見つけてしまった。
木にぶらさがっているロープ。
恐らくそれを吊るしたのだが、重さに耐え切れなかったのだろう。ロープが切れていた。
そしてそれは、重力に従って、木の傍へと落下した。
叫ぶ。
だがその声は、雷鳴にかき消された。
まるで、お前の言葉はもう届かないと、言われているようだった。
僕はサッカー部の知り合いから、親友を苛めていた奴らが誰かを探り始めた。
仇を討つためだ。
彼の遺体には、多数の青痣があった。
そして、教科書などに書かれた暴言。
それらが示すのはただ一つ。
苛めがあった、ということだ。
今、帰宅途中の同級生が、その苛めていた奴らのボスである。
右手で持っているそれに、力がこもる。
親友を自殺に追いやったそいつ。
そして、それと同じほど憎んでいる奴がいた。
自分だ。
自分が、彼の傍にいて話を聞いていたら何かが変わっていたかもしれない。
彼は、まだ死んでいなかったかもしれない。
僕は、彼を救えなかった。
一番、彼の近くにいたのに。
そんな非力な自分を、この一週間憎み続けた。
だが、そんな非力な自分ともこれでおさらばだ。
彼の仇討ち。
これが成功すれば、僕は非力ではなくなる。
あいつを、殺しさえすれば。
僕は、銀に光るそれを力強く握る。
今まで抱いてきた、憎しみと共に。
-「Is it abhorrence or frenzy?」end-
01/08 21:32
英文追加
今回冒頭で引用した文は架空のものです。
もちろん、叶野三郎と言う小説家もいません。