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第十回 愛しのきよ姫

第十回創作五枚会概要

・禁則事項…手抜き禁止

・テーマ…幸福


オリジナルの縛り

・原稿用紙の五枚目の最後の行で作品を終わらせる。

 今日は、俺と彼女の記念すべき十回目のデートだ。

 待ち合わせ場所は近所の公園。遊具よりベンチと自然が多くある場所だ。

 待ち合わせ時刻の十分前にそこに着く。少し早かったかな、と思うがそこには先客がいた。そう、俺の彼女――隠岐野おきの|きよだ。

 腰まである長い黒髪に、雪のような色白の肌。一言で形容するならば、和風美人だろうか。長袖の白いワンピースを着ている。まだ少し寒い今の時期にはぴったりと言える服装だった。澄んだ黒のつぶらな瞳が、こちらを見つめている。

 何を言おうか少し悩み、俺はシンプルに「待たせたな」と声を掛けた。

「女の子を待たせるなんて酷い彼氏だなー、まったく」きよは頬を膨らませて、腕を組んだ。恐らく怒っているのだろうが、その姿すら可愛い。

 きよの機嫌を直すなら、ロイヤルミルクティーだ。きよは、それを飲むとすぐに上機嫌になる。まるで、不機嫌な猫に猫じゃらしを与えたときのような感じだ。飛び跳ねて、歓喜する。

「喫茶店でも、行くか。ロイヤルミルクティーを飲みに」

 猫が耳を動かすかのように、きよの眉が少し動いた。俺はそれを知っている。『興味あり』のサインだ。

「べ、別にあんたの奢りなら行ってやってもいいけど?」嬉しいくせに、という言葉は胸に隠す。それを言うと、きよ姫がまたお怒りになりだす。まあ、そこも可愛いのだが。

「じゃあ、行くか」俺はきよに手を伸ばす。嬉しそうな顔できよは俺の手を握る。きよは俺にその顔が見られ、恥ずかしそうに俯いた。


「美味しい?」幸せそうに顔を綻ばせているきよに聞く。

「うん!」

 少し涼しい風が吹き抜けるカフェ『サンクチュアリ』のテラス。俺ときよはそこでお互いに飲み物を頼んで憩っていた。俺は飲めないくせに見栄を張ってブラックコーヒーを、きよは当然の如くロイヤルミルクティーだ。

 ブラックコーヒーを一口啜る。苦味が口の中に広がり、それが徐々に身体の奥の方へと沈んでいく。やはり甘さが欲しくなり砂糖に手を伸ばすが、彼女の綻ぶ顔を見てそれは必要無いと思った。彼女の甘く微笑むその顔を見ながら飲めばいいのだ。だが実際問題、そんなものでブラックコーヒーの苦味が薄れるかと言われれば、首を横に振るしかない。俺は素直に粉砂糖を手に取った。一パック入れて、啜る。うん、ちょうどいい。

 じっとこちらを見つめる二つの瞳。何故そんなにこちらを見つめているのだろうか、と思い尋ねる。

「どうしたの?」

「べ、別にっ!」きよが頬を赤らめながらそっぽを向いた。何か、怒らせるような事をしただろうか。

 ふと、きよの頼んだロイヤルミルクティーが視界に入った。よく見ると、中身が無い。どうやらもう飲み干してしまったらしい。

 木々がざわざわと騒ぎ始める。それはさながら、きよの内心を代弁しているようにも思えた。喋っている内容は「いつ飲み終わるの?」だ。

「じゃあ、行くか」俺は立ち上がる。

「え? まだ、飲み終わって無いじゃん」

「ブラックコーヒーは苦手なんだよ」そう言って肩をすくめる。

「じゃあ、何で頼んだの?」きよが上目遣いでこちらを見てくる。

「可愛い彼女の前では見栄を張りたくなるもんなんだよ」

「……馬鹿」きよがそう呟いて立ち上がる。俺は、可愛い彼女の左手を握る。


 結局その後俺らはゲームセンターに行き、きよが欲しがった熊の縫いぐるみを取ってやった。費やした額、ざっと三千円。定価で買った方が安いんじゃないか、と思ってしまう。けれども、きよの顔を見るとそんなことどうでもよく思えてしまう。

「……ねえ」きよが頬を赤らめながら、呟くようにそう言った。

「何?」

「今日の、お礼」


 目を瞑り、唇を可愛くすぼめている隠岐野きよの一枚絵。ルートはもう完璧に覚えているが、それでもやはりこれが好きだ。一番最初に買ったからと言うのもあるが、ヒロインが自分のタイプと言うのもあると思う。

 見ているだけで、顔が綻ぶ。幸せだ。

「愛してるよ、きよ」

 俺は、ディスプレイの中の嫁と、口付けを交わす。


-「The world that she and I separated.」end-

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