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華麗なる撤収と次のお約束




 「——今までよく耐えたな、セリア。あとは我々に任せなさい」


 静まり返り、青ざめた群衆を真っ二つに切り裂くようにして、お父様とお兄様が進み出てきた。


 二人は、あまりの事態に床にへたり込んでいるユリウス殿下を一瞥すらせず、私の両脇に立つ。その口元が微かに「ざまぁみろ」と笑っているのを、私は見逃さなかった。


「こんな下劣な茶番に、我が公爵家の至宝をこれ以上付き合わせる義理はない。……帰るぞ、セリア。既に馬車は正面に回させてある」


「はい、お父様」


「なっ……待て! 公爵! セリア! 俺は騙されていたんだ!」


 ようやく我に返ったユリウス殿下が、すがりつくように悲痛な声を上げた。


 だが、振り返った私の瞳には、冷ややかな、絶対零度の視線しかない。


「殿下。先ほどの婚約破棄、喜んでお受けいたしますわ。……後日改めて国王陛下へ直接お話しさせていただきますので、せいぜい震えてお待ちになってくださいませ」


 完璧なカーテシーをキメて言い放つと、殿下はプツンと糸が切れたようにへたり込み、両手で顔を覆った。もはや彼が王太子としての座を保つことは不可能だろう。



 私は父と兄のエスコートを受け、青ざめた貴族たちが慌てて道を開ける中を、誰よりも優雅に立ち去った。



***



 王宮のエントランスを抜け、ひんやりとした夜気に触れた瞬間。


 ヴァンディル家の馬車の脇で、一人の青年が飄々とした笑みを浮かべて待っていた。兄の親友であり、家ぐるみの付き合いがあるウォルフォード侯爵令息、カミル様だ。


「よぉ。お疲れさん、セリア。いやぁ、外までいい悲鳴が聞こえてきたけど、中で何したの?」


「私は何もしておりませんわ。殿下が勝手に私を断罪しようとしたら、突然、証拠品たちが大声で暴露大会を始めたのです」


「ははっ、そりゃあ傑作だ。王家の奴ら、自業自得のすげぇ谷底に落ちたな」


 カミル様とお兄様が、視線を交わして何やら楽しそうに笑い合う。


 彼もまた、私が学園でどれだけあの二人に理不尽な目に遭わされてきたかを知っている一人だ。


「……で、セリア」


 不意に、カミル様が私の顔を覗き込んできた。陽光に透ける薄氷のような、淡く美しい水色の瞳が私を捉える。


「あの馬鹿な王子の横で、今まで働きすぎた分のご褒美だ。俺と一緒に気分転換に出かけよう。視察も兼ねて、美味いお茶でも飲みにさ」


「え……?」


「お前が今まで背負わされた苦労マイナスを、俺が全部平坦フラットにしてやるよ。……いいですよね、お義父さん?」


「うむ。任せたぞ、カミル君」


 あまりにも自然なエスコートに、お父様まで深く頷いている。


 私がツッコミを入れる間もなく、カミル様は私の手を取ると、羽のように軽い動作で手の甲にキスを落とした。


「そういうわけだから。約束、空けとけよ」


 飄々とした態度の中に、隠しきれない熱と優しさを滲ませて、彼が微笑む。



 過労と理不尽から解放された私の新しい人生は、どうやら王家の自滅を高みの見物しつつ、このとらえどころのない幼馴染に甘やかされる日々になりそうだった。




お読みいただきありがとうございます!

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