エナジードリンクと青ざめる観客
『ギャハハハハハ! おい見ろよあのバカ女の顔! 自分が詐欺に引っかかってるのも気づいてねーでやんの! ウケる!』
とどめとばかりに、銀の盆に残った最後の証拠品である『毒薬の小瓶』が、下品な笑い声を上げた。
「……詐欺、だと?」
ユリウス殿下が目を見開いて小瓶を凝視する。
『おうよ! 俺様が猛毒なわけねーだろ! ただの、徹夜明けに飲むとメチャクチャ元気になるエナジードリンク(疲労回復薬)だ!』
「なっ……!?」
あ、エナジードリンク。私、それよく徹夜で殿下の仕事を代行する時に飲んでるやつだわ。
『昨日、第三区の裏路地にいた胡散臭い商人から「一滴で相手がドロドロに溶ける幻の猛毒デスヨ(裏声)」って騙されて、めっちゃぼったくり価格で俺様を買ったんだぜ! 暗殺しようとして相手を健康にしてどうすんだよ! マジでチョロすぎんだろ!』
「「「…………ププッ、アハハハハハッ!!」」」
ついに、貴族たちの我慢が限界を突破した。
広間は、もはや隠しきれない大爆笑の渦。「ただのエナジードリンク!」「健康にしてどうするんだ!」「自作自演がセコすぎる!」と、着飾った淑女も紳士も腹を抱え、涙を流して笑い転げている。
「ば、馬鹿な……クレア、お前……詐欺師に騙されて……いや、それ以前に、これはすべてお前の自作自演なのか!?」
「ち、ちがいますぅユリウス様! あの商人は絶対に相手がドロドロに溶けるって……あ」
あ、自分で「ドロドロに溶かす気だった」って殺意を自白しちゃった。馬鹿なのかな?
「この嘘つき女が! 俺を騙したな!」
「私だってユリウス様が『セリアが邪魔だ』って言ってたから協力したんじゃないですかぁ!」
「黙れ! すべてお前が仕組んだことだろうが!」
泣き喚きながらすがりつくクレアさんを殿下は乱暴に振り払い、とうとう二人は公衆の面前で醜い責任の擦り付け合い(大ゲンカ)を始めた。
——だが。
広間を満たしていた貴族たちの爆笑の渦が、まるで冷や水を浴びせられたかのように、スッと潮を引くように止まった。
(……待てよ?)
誰かが、ポツリと呟いた。
その呟きは、伝染病のように、あるいは致死量の毒のように、広間の貴族たちの間に急速に広がっていった。
ユリウス王太子は、この頭の空っぽな女と結婚したいがために、ヴァンディル公爵家の令嬢を不当に陥れようとした。しかも、国王両陛下が不在のこのタイミングを狙って。
もし、外国から帰国した国王陛下が、この事実を知ったら。
王家の最大の後ろ盾である我がヴァンディル公爵家が、この一族の顔に泥を塗られた屈辱に、本気で牙を剥いたら。
王家と公爵家の全面衝突。それに巻き込まれれば、自分たちの首すら物理的に飛ぶかもしれない。
「「「…………っ!!」」」
事の重大さに気づいた貴族たちの顔面が、一斉に真っ青に染まっていった。
静まり返った広間に、恐怖のあまり歯の根が合わずにガチガチと鳴る音だけが響き始める。
無能な王太子の短絡的な愚行が招いた、国の屋台骨が揺らぐ最悪の事態。
それが、公の場での断罪という、後戻りのきかない劇薬の真の恐ろしさだった。
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