おしゃべりな証拠品たち
『おいクレア! お前、セリア様に階段から突き落とされたって嘘つくなや!』
「ヒッ……!? ど、ど、ドレスが喋ったぁぁぁ!?」
クレアさんが悲鳴を上げて尻餅をついた。
『ワイは一番近くで見てたぞ! 誰もいないとこで派手にズッコケて、その後「これでセリアを悪者にできるわ〜ウフフ!」とか三流の悪役みたいなこと言いながら、自分でワイのスカートをハサミでジョキジョキ切り裂きやがったくせにな!』
「いやあああ! ちが、違いますぅ!」
布切れが喋るという異常事態に広間がパニックに陥る中、今度は隣に置かれていた『脅迫状』が、ビリビリと震えながら大音量で泣き叫び始めた。
『うぇぇぇぇん! 恥ずかしいよぉ! こんな大勢の前で見ないでぇ!』
「ひっ! 今度は手紙が泣き出したぞ!」
『私のインク、第三区の裏路地にある怪しい雑貨屋で、銀貨二枚で買ってきた超安物なの! クレアって女、すっごくケチだから一番安いインク買ってたわ!』
「ぎゃああああ! やめてぇぇぇ!」
頭を抱えてのたうち回るクレアさんを無視して、脅迫状の暴露(極めてセコい)は止まらない。
『しかも字が汚いから、セリア様の美しい筆跡を真似するのに徹夜してたんだよぉ! 最後の方は眠くて「もうこれでいいわ!」って適当に誤魔化してたの! 私ったらこんな安い煤の臭いプンプンさせて……うぇぇぇん!』
「…………」
広間を包んでいた、張り詰めたようなシリアスな空気が。
急速に、そして決定的に崩壊していく。
「……銀貨、二枚のインク……?」
「しかも、徹夜で偽造って……」
「ブフッ」
静まり返った広間のあちこちから、必死に笑いを堪える「プスッ」「ブフォッ」という声が漏れ始めた。
無理もない。公爵令嬢を断罪するための決定的な証拠が、あまりにもお粗末でセコすぎたのだ。
値切りに値切った安物のインクで、徹夜で目を擦りながら下手くそな偽造工作に励む男爵令嬢。その姿を想像して、肩を震わせる貴族たちが続出している。
「だ、黙れ! この妖術め! クレア、お前がそんなことをするはずがないだろう!?」
顔を真っ赤にして叫ぶ殿下の声は、もはや誰の耳にも届いていない。
クレアさんの「可哀想な被害者」の仮面は完全に剥がれ落ち、今はただ、自分の小賢しい悪事がすべて大音量でバラされる恐怖に顔を引きつらせている。
一方の私は、完璧な令嬢としての優雅な微笑みを、ただの一度も崩していなかった。
王太子が用意したシリアスな断罪劇は、おしゃべりな証拠品たちの手によって、完全に喜劇へと塗り替えられようとしていた。
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