本能イニシエーション
西暦 1900 年――人類の歴史は、強引に別の軌道へと逸れた。
その日、巨大隕石「オーメイツ」は「蒼白の災星」と名付けられ、地球に墜ちた。まるで神の下す天罰のように大気圏を貫き、大地は脆い卵の殻のように砕け、捲れ上がった。煙じんは三つの大陸全体の昼を呑み込み、真昼を永久の闇へと変えた。
だが、物理的な破壊はただ、この生贄の始まりに過ぎなかった。隕石がもたらした鉱物の塵芥の中には、人間の遺伝子配列を塗り替えるウイルスが潜んでいた。
廃墟から這い出た生存者たちの前には、旧世界の掟は既に崩壊していた。人口の三分の一にあたる者たちの体内に、遺伝子の奥底に眠る「禁じられたスイッチ」がウイルスによって強制的に活性化された。力、掟、概念――物理法則を超越する様々な「権能」が彼らの身に宿った。パニックの中、人々はこの天から授かった呪い、あるいは強いられた進化に一つの名前をつけた――本能。
人間が単独で宰制する時代は終わり、【本能の時代】が幕を開けた。
そして物語は、また一つの平凡な午後から始まる。
「今日のコンビニ、なんでこんな人多いんだよ!」
コンビニのオートドアが背後で閉まる音とともに、二人の少年が店から出てきた。声を出したのは楓村鉄弦。膨らんだビニール袋を片手に提げ、彼は頭を下げていつも結べない靴紐と懸命に闘っているのに、口は休まない。
「鏡司、俺について授業サボって出てくるの、毎日でも大丈夫なの?」
そう言いながら、無意識に後ろに一歩下がり、もう一人の少年の肩に手をかけようとする。
もう一人の少年は、九条鏡司だ。
鏡司は冷ややかに答えた。「大丈夫。どうせ成績は変わらない。あと、人の邪魔してる。」
鏡司はコンビニの外壁に背中をつけ、腕を組んで無表情。鉄弦が二人の間を通ろうとした通行人にぶつかりそうになるのを眺めている。
鉄弦はぎこちない半身回転のポーズのまま凍り、相手の顔を見て笑顔が一瞬硬くなる。
「田…… 田中先生?!」
彼の目の前に立つのは、班主任の田中秀光だ。定番の地中海ヘア、分厚い黒縁メガネ、そして花崗岩のように厳しい表情――そのままの姿だ。
「楓村ッ!!」
田中先生の指は鉄弦の鼻先に突っ込む寸前だ。「ここで何をしているんだ!」
「あの…… この……」
鉄弦はぎこちない笑顔を作る。「俺たちは…… えー、買い物をしてるんです!」
「今の時間は授業中だろう?」
田中先生の怒りは明らかに言い逃れになっていない。「また授業サボってる!今月で 4 回目だぞ!」
視線は塀の方に移る。「あなたも、九条。こいつに悪い習慣をつけられるな!」
鏡司は少し背筋を伸ばし、平穏な調子で言う。「申し訳ありません、田中先生。ただ今日の午後は部活自由時間です。」
「部活?お前たちが……」
田中的話が途切れる間もなく、鉄弦は怯えたウサギのように飛び出す。
「先生、申し訳ない!俺たち先に行く!」
鏡司も早口でついていき、動きは同じように俊敏だ。
「おい!二人とも止まれ!お前たちに部活なんてあるわけないだろうッ!!!」
田中先生は烈火のごとく怒り号々、角に消える二人の背中を指さして追いかける。
だが追いかけ始めて間もなく、鉄弦と鏡司の姿は角の先に消えてしまう。田中先生は膝に手をついてハアハアと息を弾ませる。
「この二人、丸腰のサルみたいに抜け足が速いな」
呆れて頭を振り、学校に戻ってから一緒にこの借りを返すことに思い着けば、ポケットの携帯が突然鳴り響いた。角先は車の騒音や人の声が轟々としている。
「もしもし、大田さんの奥様、ちょっとお待ちください」
田中はそう言いながら、静かな路地裏に素早く曲がり、電話が聞こえる場所を探そうとする。
電話の向こうからは大田くんの母親の声が響いてくる。「本当にありがとうございます。手術費を集めてくださって…… どう感謝したらいいか分かりません……」
保護者の言葉が途切れ途切れの感謝を聞き、田中先生は壁にもたれかかる。厳しい顔には、安心した疲れが滲んでくる。「大田くんに伝えてください。手術の準備に専念して、みんな彼の帰りを待っています。今すぐ病院に行って手術費を支払いにいきます。」
――一方、ダムの脇に広がる広い芝生は仮の避難所になっていた。
鉄弦は大の字になって芝生に横になり、胸が激しく起伏している。「やっと田中のオッサン、振り切ったぜ。」
隣には鏡司も座って息を整え、鉄弦ほど大げさではないが、呼吸は少し荒れている。
十分ほど経ち、二人はやっと落ち着き、並んで芝生に座り弁当を開けた。
鉄弦はがつがつと食べ、にやにや言葉を濁らせながら促す。「早く食え、弁当冷めちゃうぞ!」
鏡司は頭も上げず、スマホ画面のニュースプッシュに注目している。「激しい運動の直後には食欲がない。しかもこれらはもう冷めてるだろう。」
腹いっぱい食べ終え、二人はダム沿いの遊歩道を散歩する。夕暮れのぬくもりのある陽光が降り注ぎ、そよ風が芝生をなでる。
「本能犯罪、だんだん増えてるな。」
鏡司は画面をスライドさせる。「先週も三件の強盗事件があって、ニュースには全部本能犯罪って書いてる。」
冷ややかながらも嘆きの調子が込もる。「そんな力を持っているのに、最悪な使い方を選ぶなんて。」
鉄弦は空を仰ぎ、軽い口調で言う。「でも本能って、人助けにも使えるだろ?」
そう言いながら自然に、通り過ぎる老人の散らばった果物を拾ってあげる。
「ありがとうございます、若者さん。本当に助かりました。」
老人は感謝し、お礼にみかんを一つ鉄弦の手に渡す。
「どういたしまして!ありがとう!」
鉄弦は明朗に応える。
――路地裏では、田中先生は電話を切って長いため息をつき、さっそく立ち上がろうとする。
シワだらけの古いスーツを着た男が、路地の奥の闇から出てきて、田中の財布にまっすぐな視線を送る。
「くれ!」
男は一気に財布を奪い取る。「申し訳ないが、俺は本能証明書を取るためにこの金が必要だ…… これがなければ生きていけない」
突如の行動に田中は驚いて後ろに一歩下がるが、「本能証明書」の言葉を聞いて、眼中に複雑な色がよぎる。教師として、人間を三六九等に分けるこのシステムのことを、彼はあまりにもよく知っている。
「若者、お前の奪ったものが何なのか知っているか?」
田中の声は低く沈む。すぐに助けを呼んだり逃げたりするのではなく、逆に一歩前に出る。「これは子供の救命の金だ。今なら一切を戻せる、間に合う!」
「救命の……」
白鳥はつぶやき、眼中に迷いがよぎるが、すぐに元の状態に戻る。「では俺の命を救ってくれる者は誰だ?証明書がなければ、俺は死んでいるのと同じだ!」
拳を振りかざす。もうすぐ田中に拳が届きそうな瞬間――
「おい!あそこのスーツのオッサン!」
活気にあふれた声が、路地裏の行き詰まった雰囲気を突き破る。
さっき鉄弦と鏡司が巷口を通りがかり、田中先生の口論の声を聞いたのだ。
「あれ…… 田中先生?!」
二人は素早く塀の陰に隠れて状況を観察する。
「強盗か。鉄弦、先に衝動的に動くな、俺たちは……」
鏡司は声を落として分析しようとするが、振り返れば隣はもう空っぽだ。
――今、この瞬間。
「手無寸鉄の中年教師をいじめるなんて、どんなつもりだ!」
鏡司は額に手を当てる。「この単細胞生物……」
男は左手に財布をしっかり握り鉄弦の前に飛び出し、右拳を振り出す。鉄弦は避けもせず動かず、拳鋒が顔に擦れる寸前になってやっと素早く体を横にかわし、攻撃を回避する。
男の攻撃は毎回、鉄弦に届く寸前でかわされ、鉄弦は一度も反撃しない。
「クソッタレ、ただ逃げるだけかよ!」
攻撃が続けば続けるほど男は息が荒れ、焦りと屈辱が相まって狂気に近づき、ついに財布を落としてしまう。男が拾おうと身構える瞬間、財布は一瞬にして石に変わる。
男が驚く間もなく、巷口から平穏な声が響いてくる。
「まああぁ、俺の話を最後まで聞いてくれればよかったのに。」
(九条鏡司 本能:虚空の碁盤――物体に黒い交差する模様を碁盤のようにつけることができ、模様のついた物体を位置替えできる。ただし一分に一回の使用制限があり、生体には付与できない)
「ごめん鏡司!反応したら体が勝手に動いちゃった!」
鉄弦は謝るような気配もなく叫ぶ。
翻弄された屈辱感が男を包む。「俺をバカにするなッ!」
怒号とともに再び飛びかかる。
鉄弦は後ろに跳んで回避し、瞳が真剣になる。「ただ避けているだけではダメみたいだ。」
ずっと守りに徹していた鉄弦は、今までのように避けたり防御したりせず、男の一撃に向かって進む。右手には銀白色の槍が次第に姿を現し、鉄弦は槍の柄で男の攻撃をせき止める。
そして鉄弦自身も驚く――男のパンチには、これほどの威力が宿っていたのだ。
(楓村鉄弦 本能:鉄の背骨――肉体を強化し、注意力を集中させて反応速度を高め、壊れない槍を召喚できる)
男の旧力が尽き、新たな力が生まれる前の一瞬、鉄弦の姿は魔物のように隙を突いて切入り、槍の尻を借りて円旋させる。剛に柔を含んだ一撃が男を地面に倒し、男が倒れる瞬間、鉄弦の眼前に男の記憶がよぎるように見える――
狭い賃貸の部屋で、督促状を見て無念に泣く男。債権者が家に押しかけ、部屋の中を荒らし回す光景。
記憶は一瞬で消え、鉄弦は何も気にせず、ただの幻だと思い込む。
「オッサン、ゲームオーバーだ。今からちゃんと人の話を聞けるようになるか?」
路地裏には、男の激しく苦しい息遣いだけが響いている。男は再び立ち上がろうともせず、地面にもたれ伏せ、肩が激しく震えている。
「俺…… 俺は何をしてしまったんだ……」
声はバラバラに砕け、先ほどの怒号ではなく、泣き声まじりのつぶやきになる。「子供の救命の金を奪おうとして…… 教師に手を出そうとして…… 俺は間抜けだ…… クズだ!」
額を地面に激しく打ちつけ、鈍い音が響く。一回、また一回……
「俺はただチャンスが欲しかっただけ…… なんでこんなに難しいんだ…… なんで誰もあの紙切ればっかり見るんだ…… 証明書がなければ…… 俺には人間としての資格もないのか?!」
田中先生は黙って男を眺め、眼中に複雑な色が宿る。すぐに手を差し伸べたり言葉で慰めたりするのではなく、男の自罰的な行動がだんだん力尽き、抑えきれないすすり泣きになるまで待つ。そしてゆっくり前に出てしゃがみ、男を起こす。声は低く、はっきりと響く。
「顔を上げろ。」
男は唖然とし、涙と埃まみれの顔を茫然と上げる。
「今のお前の姿を見ろ。」
田中的視線は鋭く、男の心の底に刺さる。「社会に不条理な扱いを受けたからといって、より弱い者を傷つけてもいいと思っているのか?本能で人間を分けるなら、暴力で自分が本当に下等な存在だと証明するつもりか?」
男は問いに答えようともせず、恥ずかしそうに頭を垂れる。
田中の口調は少し和らぐが、依然として堅い。「お前が失ったのは、仕事のチャンスだ。だがさっき、お前はもっと大切なものを失うところだった――人間としての底辺と尊厳だ。」
手を伸ばすが、男を引っ張るのではなく、白鳥の泥まみれになって握り締めた拳を指す。
「力は、弱い者を虐げる言い訳などではない。その力が拳であろうと、いわゆる『本能』であろうと。真の強さとは、逆境に立たされても、心の中の善を守り通せることだ。お前が今日奪おうとしたのは金だ。だがお前が本当に滅ぼしかけたのは、お前自身の道だ。」
この言葉は大きなハンマーのように、男の最後の浮かれと自憐れみを砕き散らす。男は完全に力尽き、涙があふれ出る。今度は怒りや絶望からではなく、深い後悔からの涙だ。
「ごめんなさい…… 本当にごめんなさい…… 俺が悪かった…… 本当に分かりました……」
鉄弦は槍を召喚解除し、男の震える肩に手をかける。「『本能トレーニング』?そのために?」
軽蔑の調子は一丝もなく、ただ疑問だけが込もる。「オッサン、結構強いぞ。コンビニの夜勤、場を制する人間が必要だよ。時給も悪くないし、店長は証明書なんて見ない。」
鏡司は無言で近づき、冷静に述べる。「生まれつきの資質を有料の証明に変えるなんて、この時代で最も不条理な詐欺の一つだ。」
そして一枚の名刺を手渡す。【本能互助会――君の価値を再定義する】と書かれている。「塾でも証明書の試験対策でもない。木曜日の十時、お前と同じような人がたくさん集まっている。お前の経験は、他の人にとって非常に大切なものだ。」
田中先生は男の号泣する姿を見て、ついにため息をつく。そのため息には、重い非難は少なく、疲れきった期待が込もっている。
「間違いに気づいたのなら、道はまだ絶たれていない。立ち上がれ。これからの人生で、今日失うところだったものを、一つ一つ、拾い返せ。」
男は深呼吸をし、全身の力を込めて田中先生に、そして鉄弦と鏡司に深く頭を下げる。
礼の姿勢を保ち、肩はまだそっと震えているが、今度は恐怖や怒りからではなく、後悔と救われた重みからだ。
田中先生の声が沈黙を破る。先ほどより柔らかいが、依然として教師の威厳は消えない。「過ちを改めれば、善の極みだ。だが忘れろ。悔い改めることは終わりではなく、始まりだ。」
男はゆっくり身を起こす。頬の涙は乾いていないが、瞳はもはや虚ろではなく、複雑な感情――羞恥、感謝、そして一丝の決意が宿っている。
「行きます…… コンビニも、互助会も。」
声は嗄れているが確かだ。「俺は…… 俺はやり直す。」
鉄弦はこの光景を見て、厳粛な表情がいつもの活気にあふれた笑顔に変わる。前に出て、男の肩を力強くポンッとたたく。力が強すぎて男が少しよろめく。
「それで正解だよオッサン!さっきのパンチの勢い出せば、仕事探しなんて余裕だぜ!」
鏡司は田中先生の方を向き、平穏な調子で注意を促す。「先生、病院で手続きをするのは遅くなりませんか?」
その言葉で田中は気づき、すぐに時計を見て眉を顰める。「確かに。」
さっき揉まれた服を直し、視線は鉄弦と鏡司を扫いて、最後に男の身上に落ちる。「誰にでも曲がった道を歩む時はある。重要なのは、二度と古い道に戻らないことだ。よく生きろ、若者。」
そう言い残し、田中はもう停留せず、命がけの財布を持って足早く路地裏を出て、病院へと急ぐ。
闇が空を覆い、街灯りが二人の影を長く伸ばす。しばらく沈黙が続いた後、鉄弦が突然口を開く。いつもの浮ついた調子とは違う、重たい声だ。
「鏡司、あのオッサンのような人、まだたくさんいるんだろう?」
足元の小石を蹴り飛ばす。「悪い人じゃないのに、道を詰められて、本能を使って犯罪を犯すんだよね?」
鏡司は思案に耽り、指先でノートの表紙をそっとたたく。「社会統計学の観点から言うと、経済的な圧力と体系的な差別は、確かに本能犯罪の重要な誘因だ。だが法律は、動機が『やむを得ない』ものかどうかを区別しない。」
さらに深く分析しようとするが、鉄弦が突然「あっ」と声を上げ、腰を曲げてさっきの老人にもらったみかんを拾う。いつの間にか落としていて、少し埃がついていた。
「あー、これ忘れちゃった!」
鏡司の話を遮り、顔は一瞬にして抜け目のない笑顔に戻る。そして迅雷の勢いで、拭かずに埃まみれのみかんを丸ごと、半開きになっている鏡司の口に突っ込む!
「んぅ!んぅんぅ――!」
鏡司は瞬時に瞳を見開く。驚きと怒りがにじみ出し、厳密な分析はすべて途絶え、口の中には酸っぱく渋く、土のにおいのするみかんの皮だけが充満する。
「ははは!いつまでも複雑なデータばっかり考えちゃダメだよ!」
鉄弦は大笑いして二歩跳び後ろに下がる。
「このバカ野郎――!」
鏡司はやっとみかんを吐き出し、言葉も途切れ途切れ。怒りでノートも顧みず、追いかけて殴ろうとする。
「俺を追いかけてこいよ!」
少年たちの笑い声が、夜の重苦しい雰囲気を一瞬にして払いのけ、心の中に渦巻いていた「本能」と「犯罪」の重たい話題も、一時的に消し去った。
地面に落ちて埃まみれになったあのみかんは、下手くそだがストレートな方法で、別の答えを示してくれたようだ。
――数日後。
コンビニのオートドアが「ピンポン」と音を立てて開く。
新調の店員ユニフォームを着た男が、つま先を上げて棚の一番上の在庫を整理している。額に細かな汗が滲んでいるが、動作は一つ一つ丁寧だ。ドアの音を聞き、無意識に振り返って声を出す。
「いらっしゃいませ!」
店に入ってきたのが鉄弦と鏡司だと見ると、男の顔に瞬時に笑顔が広がる。「お前たちだね!」
(白鳥翔太 職業:コンビニ店員 本能:終末の連打――出す拳が多いほど速度が上がり、相手に当たらなければ力は次第に増強される)
手元の荷物を置き、素早く前に出てくる。男はまるで手入れの行き届いた人のように、脂っこい髪は洗って乾かされ、シワだらけのスーツはスッキリとした青いユニフォームに替わっている。眉目にはまだ少し疲れが残るが、かつて死んだように虚ろだった瞳には、着実な輝きが宿っている。
「白鳥オッサン、調子いいじゃん!」
鉄弦はにっこり手を振り、近づいて声を落とす。「どうだ?店長、難癖つけてないよな?」
「いやいや!」
白鳥は慌てて手を振り、声ははっきりと大きくなる。「店長は本当に親切な方です。」
鏡司の視線は、彼の胸に整ってつけられたネームプレートを扫く。「慣れればいい。」
「うん!本当に…… ありがとうございます。」
白鳥は再び厳かに感謝し、瞳は誠実だ。
「もう過ぎたことだよ!」
鉄弦は洒脱に手を振り、すぐに新入荷のプリンに視線が釘付けになる。「わぁ!鏡司、これ食べたい!」
「勝手にしろ。お前の小遣いはもう……」
二人の言い争いの声がコンビニの中に響き、白鳥はそばに立って見つめ、温かい笑顔を浮かべている。かつて絶望に包まれた暗い路地裏の出来事は、まるで前世のことのようだ。
闇が再び街を覆い、ネオンサインは呼吸するように明滅する。中心広場に立つ巨大なビジョンには、依然として華やかなスローガンがきらめいている。【手を伸ばせ、自分の人生を創れ】
鉄弦と鏡司は肩を並べて家への道を歩き、手にはコンビニのビニール袋を提げている。鉄弦は手振り足振りをしながら、プリンを明日まで残すべきか否かで論争している。
鏡司は時々毒舌な返しをする。
今回、その光はもはや刺すように眩しくも、遠くもない。少年たちの踏ん張った足元の前にそっと降り注ぎ、誰にでも開かれたコンビニのガラスの扉に、そして道に迷って戻ってきた、それぞれの平凡な夜に照らしているからだ。
未来の道はまだ長い。だが「本能」の真の意味について、彼らはすでに自分なりのやり方で、一文字一文字、答えを書き始めている。




