火星のカフェ
魔界の支配者であるルキと森羅万象の神は彗星にある、かき氷の自販機の前にやってきた。
「ルキちゃんさ~、美味しそうだね~、早く食べたいな~、これどうやって買うの?」
「ここにペガサスの羽根を投入して下さいって書いてありますね」
「ええ~、わしペガサスの羽根持ってないんだけど~」
「あっ、俺ペガサスの羽根一つだけ持ってますからどうぞ使って下さい」
「いいの? マジで? あざーす! ルキちゃんにも一口あげるからさ、安心して」
そう言って森羅万象の神は、かき氷の自販機にペガサスの羽根を投入した。だがかき氷の自販機に動きはない。
「ルキちゃん、動かないんだけど~」
「ああ、たぶん詰まってますね」
ドンドンドンドンドン⋯⋯。
突然かき氷の自販機を叩き出した森羅万象の神に魔界の支配者ルキが近づく。
「叩かないで下さい!」
ドゴン、ドゴン、ドゴン⋯⋯。
「蹴ってもダメです!」
「ルキちゃんさ~、わし怒り収まらないからさ~、今から火星のオリンポス山の麓にあるカフェに行っちゃう?」
「それは、まぁ、いいですけど、じゃあ⋯⋯」
◇
一瞬で火星の標高21230mのオリンポス山の麓にあるカフェの前にやってきた魔界の支配者ルキと森羅万象の神はそのカフェに入った。店の中には客はいない。
二人が窓のそばの席に座ると店の奥から声が聞こえてきた。
「セイヤッ、セイヤッ、セイヤッ⋯⋯」
店の奥から出てきたのは正拳突きをしながら、サッカーボールを足でリフティングをしている一人の可愛い女性だ。
その女性は魔界の支配者ルキと森羅万象の神が座っている席までやってくると足でサッカーボールを蹴り上げ今度は頭でリフティングを始めながら再び正拳突きをし始めた。
「いらっしゃいませ、ご注文は? セイヤーッ!!」
正拳突きが森羅万象の神のこめかみの横をかすめる。間髪入れず森羅万象の神が怒りをあらわにした。
「えっ、何何何、何なのー!! キミ、一体何なのさ?」
「はい? 私っスか? 私の名前は加羅手っス、サッカー、一筋300百年なんス!」
「は? ちょっと何言ってるか分かんないんだけど、ルキちゃん分かる?」
魔界の支配者ルキは、ため息混じりに声を発した。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい」
だが突然、加羅手がキレた。
「やいやいやい、てめぇ、返しがおもろないのう! 表に出ろや! サッカーで勝負じゃい!」
森羅万象の神は答える。
「え~、めんどくさいな~、ルキちゃん、わしの代わりに行ってきてよ」
「いやです⋯⋯」
その時店の奥から四メートルはあろうかと思われる火星人が現れ急いで走り寄ってきた。
「お、お客様、何かございましたか? なにぶん、この子は、まだ接客は初心者なもので」
魔界の支配者ルキが答える。
「あなたは?」
「私はここの店長です。そしてこの子は、いとこの地球人でして⋯⋯」
「あれ? あなたってどこかで見たような⋯⋯あっ! そうだ、あなたはたしか太陽系一と謳われるサッカー火星代表チームのゴールキーパーの方ですよね?」
「はぁ、よくご存知で、私は⋯⋯」
その時、森羅万象の神が話に割り込んだ。
「え~、そうなの~、じゃあさ、じゃあさ、サイン貰っちゃおうよ~、サ、イ、ン、サ、イ、ン」
魔界の支配者ルキは、サッカー火星代表チームのゴールキーパーで身長四メートルのカフェの店長に柔らかい口調で話しかけた。
「あのー、すいません、サインいただけますか? そしたら、このジジイ⋯⋯いや、この人も静かになると思うので」
「それは構いませんけど⋯⋯」
こうしてサインを貰ったジジイ⋯⋯いや森羅万象の神は、ご機嫌になり、その場は収まったのであった。
まさかこの数年後、このカフェの店員の加羅手がサッカー地球代表チームの一員として、このカフェの店長で、加羅手のいとこの身長四メートルの火星人ゴールキーパーと惑星の威信をかけて太陽系カップの決勝で対戦するとは今は知る由もない。
そしてその対戦がどうなるかは神のみぞ知る。
いや、このジジイはきっと知らないと思うが⋯⋯。




