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カトゥオール シアンティフク 3  作者: 双鶴


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第1章 畑の中の分子たち

「よし、出発!」

陽翔の号令とともに、4台の自転車が練馬の街を駆け出した。

ハンドルにスマホホルダーをつけた大翔が、すでに動画を回している。

湊斗は無言でGoProの録画ボタンを押し、結菜は後ろから「ヘルメット!」と叫んだ。


科学部は、今日も元気だ。

部員は4人。全員、幼稚園からの幼馴染。

そして、全員がちょっと変わってる。


「大根って、マジで甘いんだよ」

陽翔が言った。

「糖度10超えることもある。りんご並み。信じられる?」

「それ、また“科学部あるある”でしょ」

結菜が笑う。

「でも、土のpHと関係あるって聞いたら、ちょっと気になるかも」


舞台は、練馬区のキャベツ畑。

区内にこんなに広い畑があるなんて、知らなかった。

「都市農業って、実はCO₂吸収にも貢献してるんだよ」

大翔が言う。

「キャベツ1株で、1日に約20リットルの酸素を出す。人間1人分の呼吸量と同じくらい」

「それ、マジ? じゃあ俺、キャベツに生かされてるってこと?」

「そう。キャベツ様に感謝しなさい」

「キャベツ様…」

陽翔が畑に向かって手を合わせた。


「葉脈、きれいだな」

湊斗が、キャベツの葉を逆光で透かして撮っている。

「光の道が、迷路みたいに走ってる」

「それ、投稿しなよ。#キャベツの迷宮とかで」

結菜がスマホを構える。

「“葉脈は、緑の回路図”」

湊斗がつぶやく。

「お、詩人モード入った」

陽翔が笑う。



SNS投稿:@nerima_science_club

写真:キャベツの葉を透かした逆光写真

「葉脈は、緑の回路図。光は、ここを通って命になる」

コメント:

・「え、キャベツってこんなに綺麗なの…?」

・「理系男子の詩、刺さる」

・「#キャベツ様 #練馬大根もよろしく」



「糖度測ってみようぜ」

陽翔がポケットから糖度計を取り出す。

「持ってきたの!?」

「科学部だぞ?」

「それはそうだけど…」

結菜が笑いながら、大根を1本引き抜いた。

「いざ、実食!」


「10.4度!やば、ほんとに甘い!」

「土壌pHは6.5。弱酸性。根菜にはベストだな」

大翔がメモを取りながら言う。

「この畑、堆肥に落ち葉使ってるって。微生物の活動が活発になるんだって」

「つまり、落ち葉→微生物→土→大根→俺の胃袋、ってことか」

「そう。自然界の“食物連鎖”ならぬ“栄養連鎖”」

「うまいこと言ったな」

「うまいのは大根だよ」

結菜が笑う。


「この畑、都市の中にあるのがすごいよね」

湊斗がぽつりと言う。

「ビルの隙間に、命の回路がある」

「それ、また詩人モード?」

「いや、科学モード」

「どっちもかっこいい」

結菜がつぶやいた。



SNS投稿:@nerima_science_club

動画:糖度測定の様子+大根かじる陽翔

「大根、糖度10.4。りんご超え。都市農業、あなどれない」

コメント:

・「大根かじってるのにイケメンって何」

・「#科学部男子 #モテたいなら泥だらけやめなよ」

・「でもちょっと面白いw」



「バズってる!」

陽翔がスマホを掲げて叫ぶ。

「やった!科学でモテる時代、来たかも!」

「いや、コメント欄見て」

結菜がスマホを見せる。

「“泥だらけの顔がシュール”って書かれてる」

「うっ…」

「でも、いいじゃん。科学で笑い取れたなら」

「それ、慰めになってないから!」


こうして、科学部の“ネリマ巡検”は始まった。

次の目的地は、光が丘公園。

光と影の迷宮が、彼らを待っている。

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