沙月編:6話 梅雨の時期の家出
凪音くんが倒れた修学旅行から3週間が経とうとしていた。
私は今、とてつもなく悩んでいた。
あと1週間で期末テスト…
このテストにかかっている。
このテストでいい点数を取らなければ、私は行きたい高校に行けない。
私は勉強ができる方だとは思う。
だけど…
今の私じゃ、あそこの高校に入るのは無理だ。
どうしよう…?
そう自室で悩んでいた時、
「沙月〜、ちょっと、お話があるからリビング来て〜!」
ママに呼び出された。
「は〜い!」
話ってなんだろう?
リビングに行くとママとパパが座っていた。
私も椅子に座った。
「それで、話って何?」
パパが深刻そうな顔で言った。
「実はな…」
「うん。」
「来年の春に、海外に転勤が決まった…」
え…?
「それでだな、来年の春、アメリカに引っ越すことになった…」
…………
そんな……
私の今までの勉強は?
凪音くんと、せっかく仲良くできたのに…?
「沙月、申し訳ない…」
「……なんで?なんで海外に転勤になったの?」
「それは…」
「それは?」
「父さんが、仕事でやらかした…。」
「は?」
「顧客データを漏洩させてしまったんだ…。クビにはギリギリならなかった。その代わり、罰と言ってはなんだが、アメリカにある、小さな支部に左遷された…」
「なんで……なんで、そんなミスをしたの!私だって、受験勉強してたんだよ!必死に!その努力はどうなるの!」
「申し訳ない…」
「申し訳ないって何!?それで、どうにかなるの!?」
私は、私は。やっと凪音くんと仲良くなれたのに…なのに…あと9ヶ月でお別れなんて……
「申し訳ない…」
っ……!
私は家を飛び出した。
要するに家出だ。
財布だけを持って、家出した。
家出をしても、どこにも行くあてがない。
私はどれだけ歩いたのだろう。
気づけば、中学校区外ギリギリのところにある公園にいた。
これからどうしよう…
家に戻るにも戻りたくない。
……どうしよう。
雨降ってきちゃった。
傘も持ってきてない。
後ろから声がかかった。
「……みもりん?何してるの、こんなところで…?」
「ゆ…由花……」
「ねえ、大丈夫?」
「………ううん…家出した…」
「……ねえ、とりあえず雨降ってるし、うち来る?うちで話聞くよ。」
「……うん。」
「ほら、傘入って。」
由花と一緒に由花の家までむかった。
私は、今にも泣き出しそうだった。
移動中、由花との会話は全くなかった。
「ほら、着いたよ。あがって。」
「…お邪魔します…」
由花の部屋まで案内された。
お互いベットに座った。
「ねえ、何があったの?」
由花が聞いてきた。
「………」
「お茶飲む?」
「………」
「喋ってくれないとわからないよ…?」
「……」
「みもりん!!」
「……私、引っ越すことになった…」
「え…」
「来年の春に引っ越すことになった。」
「そんな…どこに引っ越すの?」
「アメリカ…」
「………。」
「私、私、受験勉強、頑張ったのに!凪音くんとやっと仲良くなれたと思ったのに!」
私は多分、今、泣いているだろう。
「みもりん…」
「ねえ、由花?私…どうしたらいいの?ねえ…」
「……。どうしたらいいって…?うちは、こんなことしか言えないけど…残り時間を楽しむしか、ないんじゃないのかな?」
「残り時間…」
「みもりんは、受験勉強、頑張ってたよね?」
「うん…」
「でも、その勉強した努力は、みもりんの中に残り続ける。」
「……」
「一旦、勉強のことを忘れて、凪音くんと残り時間を過ごしてみたら?」
「え……」
「みもりんは、凪音くんのこと、どう思ってるの?」
「……」
私は…凪音くんのことを、どう思っているのだろうか?
仲良くできて嬉しいかった。
もっと、仲良くなりたかった。
でも…
私は、これ以上、凪音くんと仲良くなれない。
仲良くなろうとしても、あのことが頭をよぎってしまう。
「ねぇ、みもりん?みもりんは凪音くんのことが好きなの?」
「わからない…わからないよ…」
「みもりん……もしかして、あのことが足を引っ張ってるの?」
「………」
私は、もう忘れたはずだった。あのことを。このことが、私を恋愛、ううん。人と深く関わることを遠ざけていた。
私は…
私は…凪音くんと…
もっと、関わりたいのに…
「ねえ、みもりん、凪音くんは、みもりんの元カレと同じことをするのかな?」
「……わからない」
「私はね、凪音くんは、そんなことをしないと思うよ。」
「……」
そろそろ、過去の自分を振り返るのをやめたい。
振り返るのを……
でも、
どうしても振り返ってしまう
あのことを……