沙月編:5話 幼馴染!?
凪音くんが倒れて2日目…
つまり、修学旅行が終わって次の日の土曜日、私はリビングで紅茶を飲みながら、ママに修学旅行の話をしていた。
「沙月、修学旅行はどうだった?」
「……うん、よかったよ…」
「あら?表情が暗いわね。何かあったの?」
「うん……ちょっとね……」
「何があったか話してくれる?」
「それが…うちのね班メンバーの子が倒れたの。」
「それは大変!原因は何かわかったの?」
「多分、熱中症だと思う。」
「そう…」
「それでね、私、ママに教わった方法で冷却処置をしたの。でも…意識が戻らなかった…」
「とりあえず冷却処置はできたんだね。沙月、頑張ったわね。」
「うん…だけど…私…」
「それで、その子はまだ意識が回復してないの?」
「うん…多分…」
「そう…」
「私、あの子の異変に気づいていたのに…声をかけてあげられなかった…。わたし…私は、凪音くんを…助けることができなかった…」
私は泣きながら言った。
「でも、沙月が冷却処置をしなかったら、もっと酷い結果になってたかもよ?」
「でも…でも…」
「沙月、自分の行動に自信を持ちなさい。」
「うん…」
「それと、凪音くんって言ったわよね?」
「うん…」
「沙月、あなた、覚えてないの?」
「何が…?」
「だから、凪音くんのこと。」
「……?」
私は、ママの言っていることが理解できなかった。
「沙月、凪音くんは、あなたの幼馴染よ。」
!!!!!!
どういうこと…?凪音くんが、私の幼馴染?
「幼馴染…?」
「そう、幼馴染。あなたは覚えてないかもしれないけど…」
「ちょっと待って、詳しく聞かせて欲しいかも。」
「そう。幼稚園の最後の年に引っ越したのは覚える?」
「うん。」
「引っ越す前に通っていた幼稚園で、よく、あなたたちは一緒に遊んでいたのよ。」
「え…?」
「懐かしいわね。凪音くん。あなた、大きくなったら凪音くんと結婚するんだ〜とか言ってたじゃない?」
っ…!
その約束……思い出したかも。
「僕、大きくなったら、さっちゃんと結婚するんだ!」
「うん!約束だよ!」
あ…
「思い出した。」
「そう。ならよかった。」
だから、私は凪音くんのことを知りたかったんだ。
初めて会ったはずなのに、知りたかった。
その理由は…
過去に会ってたからだ。
「今から凪音くんのお母さんに電話するわ。」
ママが言った。
「うん。」
「もしもし。凪音くんのお母さんですか?…」
ママが電話をしている間、私は凪音くんとの過去の記憶を思い起こしていた。
一緒に遊んだこと
一緒に喧嘩したこと
そして、約束したこと
凪音くんは覚えていないかもしれない。それでもいい。
私は、また、凪音くんと仲良くしたい。
「沙月、凪音くん、意識を取り戻したって。明後日、退院らしいよ。」
「良かった…本当に…」
私は大粒の涙で泣いた。
「ねえ、ママ?私、凪音くん迎えに行ってもいい?」
「もちろん。凪音くんのお母さんに聞いてみるわね。」
「ありがとう。」
2日後、私はもう一度、神戸に向かった。
玄関から凪音くんが出てきた。
おどかしてみよう。
私は凪音くんの後ろから声をかけた。
「凪音くん♪」
「うわ!って、三森さん!?なんで…」
凪音くんはすごく驚いていた。幼馴染だってことを聞いたら、どうなるんだろう?
「えへへ、凪音くんの、パパとママと一緒に来ちゃった!」
あとは凪音くんのお母さんが説明してくれた。
案の定、凪音くんは、開いた口が塞がらないような表情をしていた。
「三森さんは、僕が幼馴染って覚えてたの?」
凪音くんが聞いてきた。
「ううん、この間、ママから言われるまでは、気づかなかった。」
あ!そうだ!凪音くんをからかってみよ!
「てか、凪音くん。昔みたいに、さっちゃんって呼んでよ〜」
でも…本当にそう呼んで欲しいかも…
「さっ…!?」
あれ?凪音くん、本当に、昔、私と幼馴染だったこと忘れてる?まあ、私も覚えてなかったし…
「てか、あんた。沙月ちゃんにお礼言いなさいよ。」
凪音くんのお母さんが言った。
「あ、三森さん。その、色々と助けてくれてありがとう。」
「ふふ、どういたしまして!それと、三森さんって呼ばなくていいよ。」
私は、「三森さん」と呼ばれると距離感があるようで嫌だった。
「え?」
「学校の時は沙月さん、2人でいる時は、さっちゃんって呼んでくれると嬉しいかな!」
あ…私、今勢いでとんでもないことを、言ってしまった気がする。あ、恥ずかしい…
「わ、わかった。さ、さっちゃん…」
私は今、どんな顔をしているのだろうか…?
わからない。
けど、嬉しい。
「さ!凪音くん!帰ろっか!クラスに!」
私は照れを隠すように言った。
「あ、あぁ!」
凪音くん…元気になって良かった!
私はこれから、凪音くんと仲良くできるのだろうか?
いや。これは疑問じゃないな。
私は、凪音くんと仲良くする!
凪音くんも、そう思ってくれると信じている。
私は、もう一度、中学最後の学校生活が始まった気がした。