凪音編:8話 過去と向き合う時間
中学1年生の冬
「僕、新川さんのこと好きなんだよね。」
「え!?マジで!?」
「うん。もう告白しちゃおっかな?」
「いいじゃん!それ!」
僕は岡村に告白の相談をした。新川さんは学年で1番可愛く、先輩たちからもモテている。そして、岡村とは今年初めて知り合ったやつだ。いつも岡村に恋愛相談をしている。なんやかんや1番信頼しているやつだ。
「それで、岡村くん。新川さんって彼氏いないんだよね?」
「うん!いないよ!」
良かった。これで告白できる。
「よし!決めた!明日、僕、新川さんに告白する!」
「頑張ってね!凪音ならできるよ!」
「うん!ありがとう、岡村くん!」
キーンコーンカーコーン
下校のチャイムが鳴った。
あ〜明日緊張するな!そう思い帰路についた。
そして…いや…やっぱ直視したくないな。現実に
翌日の夕方、僕は新川さんに告白した。
「好きです!付き合ってください!」
「ごめん、無理。」
………
「え?」
「だって、私、彼氏いるし。」
嘘だ…
岡村くんはいないって…
「だからごめん。」
「わ、わかった。ありがとう。」
この時の僕は多分、絶望したんだろうな。
本当の絶望はこれからなのに。
翌日、学校に行き岡村くんに報告した。
「振られちゃった。」
「そうか。」
なぜか岡村くんは笑っていた。
「ねえ、岡村くん。なんで笑ってるの?」
「いや?おかしくって。」
「何が?」
「お前、俺の言ったこと本当に鵜呑みにしたな。」
「え…」
「新川さんはな、彼氏がいるんだよ。彼氏が。しかも3年生で1番ヤンキーの先輩のな!」
「そんな…」
「滑稽だったぜ。お前が新川さんの話をしている姿は。」
岡村は大笑いしていた。
「あと、お前。このこと彼氏さん怒ってたぞ。お前、あの人に目をつけられるとは終わったな。」
…………なんで…
なんで………
「なんで…」
「なんで?なんでと聞いたか?ただ、お前ごときが、新川さんのことを好きになってるのが面白かったからな。からかってみたんだよ。」
…………からかってみたか…
だから、僕は、恋愛をするのが嫌なんだよ。
それからの学校生活は地獄だった。
僕は先輩に目をつけられ、毎日のようにパシリにされるし、クラスのやつは、自分も目をつけられるのじゃないかと思っているのか、僕を避けていた。そんな状況が、先輩が卒業するまで続いた。
もう誰も信用できない。
僕は、もう2度と、誰かを好きになることはない。
そう思っていた。
ただ………
三森さんは違った。
なぜか僕は、彼女の魅力に引き込まれていた。
でも、同じ轍を2度も踏みたくなかった。
だから、彼女に対してそっけない態度や、冷たい態度をとってしまった。
それなのに……
三森さんは……
僕と仲良くしたいと言ってくれた。
それが本心なのか、どうかはわからない。
でも、彼女の、あの目は嘘をついているようには思えなかった。
でも、僕の心の中には、いつも過去の自分がいた。
いつも過去の自分が、付き纏っていた。
お前は、三森さんを信じるのか?
わからない。
お前は、三森さんが好きなのか?
わからない。
過去から目を背けていいのか?
それは……
逃げてもいいんだぞ?
逃げる…?
ああ、三森さんと関わるのをやめればいい。
やめる?
そうすれば、お前は残り1年の学校生活を楽しく過ごせる
いや…
なんだ?また、同じ轍を踏むのが嫌なんだろ?
そうだけど…
じゃあ、三森さんに4月と同じ態度で接すればいい。
……嫌だ。
なぜだ?
それは…
それは?
三森さんが、仲良くしたいって言ってくれたんだ。
それは本心じゃないかもしれない。
いや…本心じゃなかったとしても、嬉しかった。
でも、2年前のお前は裏切られた。
今は違う。
何が違うんだ?
僕には2人の親友ができた。
それがなんだ?
僕には、僕のことを考えてくれる人もいる。あの頃とは違う。本当に信頼できるやつが2人もいる。
そいつらを信じたいのか?
ああ、信じたい。
また裏切られたら?
いや、僕は、あいつらが裏切るとは思わない。三森さんもだ。
お前は、どっちなんだ?人を信じるのか、信じないのか。
僕は、人を信じてみようと思う。
もう一度聞く、過去に目を背けるのか?
背ける?違うな。過去を受け入れるんだよ。
過去の自分。つまり、お前を受け入れる。
僕を受け入れる?
ああ、お前も大切な僕の一部だ。
……そうか。それがお前の答えか。
ああ、信じてくれるか?僕を。
信じる?僕はお前だ。お前が決めたことなら、それは僕が決めたことでもある。
そうか…ありがとう。
そろそろ目覚める時間だ。次はぶっ倒れるなよ。
気をつけるよ。
最後に一つ。
なんだ?
ありがとう。