凪音編:6話 三森さんからの呼び出し
憂鬱だ
いや、僕は学校がある日は毎日、憂鬱だ。ゴールデンウィークは終わってほしくなかった。学校に行くのが余計に嫌になる。だけど、学校に行けば、恭平や伊崎がいる。ただ、恭平と伊崎が居なかったら、間違いなく僕は、学校に行くのが嫌で嫌で仕方なくなっていただろう。
でも、新学期が始まった当初は、三森さんを見るためだけに、学校に行っていたようなものだった。
そして、席替えで三森さんが隣の席になった時は、これからの学校生活に期待を寄せたものだ。
だが、それも過去の話だ。
理想と現実は違う。僕の理想は、もう、今の段階で三森さんとは普通に話せるようになっていた。
ただ、現実は、僕は三森さんと話そうとすると、緊張してしまう。三森さんから話しかけられる方が、余計に緊張してしまい、いつも適当な返事しかできなくなってしまう。
これ、絶対三森さんに嫌われているよな…
あ〜、中学最後の年くらい、まともな恋愛がしたい。いや、でも、今回は僕が変わればいいだけの話ではある。
ただ変われない。
よく、大人は子供に変わりなさいと言う。ただ、そんな簡単に変われるわけがない。生まれた時から、その性格、考え方だからだ。生まれた時の慣習は、成長しても根強く残る。変われるんなら、もうとっくに変わっているだろう。でも変われないから、タチが悪い。もしかしたら、大人になることは難しいことなのかもな。
僕は心の中でそう思った。
で、だ。こんなことを思っている場合でもない。
なぜなら、今、僕の隣に三森さんがいるからだ。
なぜ?と思うだろう。それは、今日の帰りの会の後のことに、話を戻さなければならない。
6時間目が終わり、帰りの会が始まっていた。いつも、僕は帰りの会の話なんぞ、しっかり聞いてはいない。だから、家帰ってから何しよっかあ〜と、考えていると、いつの間にか終わっている。
「はい、じゃあ帰りの会終わるぞ〜。号令!」
あ、ほら、もうこんなことを考えている間に終わった。
「ありがとうございました〜!」
クラス全員が挨拶をし、帰る準備を始めた。さて、僕も帰ろう。僕が帰りの準備をしていた時、そこに…
三森さんがやってきた。こう言った。
「ねぇ、凪音くん。後で自転車置き場来れる?」
!!!!!!!!!!
は?どういうことだ?なぜ、え、なぜ僕は三森さんに呼び出された?
「え、いいけど…」
いや、これ以外の返事はないだろう。
「ほんと?よかった。私、掃除当番だから、ちょっと待っててくれると嬉しい。」
「あ、あぁうん。」
三森さんは掃除に向かって行った。
え、やばい、やばい、やばい、やばい。え、どうしよ?いや、落ち着け。こういう時こそ深呼吸だ。後ろから誰かに声をかけられた。
「なあ、凪音。今、三森さんと何を話してたんだ?」
「!!!!!、あ、びっくりした、恭平かよ。」
「それで、何話してたんだ?」
「なんか…えっと、その…」
「お!俺、当てていいか?」
「え…」
「ズバリ!呼び出されたんだろ?校舎裏に!」
「いや、校舎裏じゃないけど…」
「校舎裏じゃない?てことは呼び出されたことはあってるのか。」
恭平がニヤけながら言った。
「お前、それ、告白じゃね?凪音、良かったな!」
「いや、それはないだろ…多分…」
いや、絶対それはあり得ない。うん。あり得ない。そう思っておかないと、僕の平常心が保てない。
「ま、頑張ってこいよ!」
恭平はそう言い、僕の背中を軽く叩いた。
僕は恭平と話し終わった後、すぐに自転車置き場に向かった。まだ、三森さんは来てないか。そう思っていたら、
「ごめん、待たせた?」
三森さんが来た。
「いや、僕も今来たことろ。」
どうする、なぜ呼び出されたかの理由は今聞いておくべきか?いや、聞いておこう。
「それで、何で僕を呼び出したの?」
「うーん、ちょっと近くの公園でしゃべろっか。」
え…これ、マジのやつ?いや、マジだったら心の準備がまだ終わってないぞ?
公園って、あそこだよな?歩いて3分ぐらいのところにある。とりあえず、三森さんについて行こう。
僕は三森さんと一緒に歩いて公園へ向かった。一緒に歩いている最中、会話はなかった。と言うよりか、普通の会話ができないくらい、僕は動揺していた。
今、変なことは言えない。だから会話ができずにいた。でも、何か喋らなきゃ。そう考えている時、公園に着いた。
ということで、今、僕の隣に三森さんがいる。
僕と三森さんはベンチに座った。
「凪音くん。」
三森さんに名前を呼ばれた。ドキッとした。
「う、うん。」
「単刀直入に聞くね。」
何をだ?何を、僕は単刀直入に聞かれるんだ?
「え、うん。」
「凪音くんは私のこと、どう思ってるの?」
どう思っている?それはなんだ?恋愛感情としてか?人としてか?いや、落ち着け。これは人として、どう思っているのかと聞いているのだろう…
いや、これは一旦聞き返すか。
「え…どう思ってるって…」
「うん。どう思ってるの?」
うわ、めっちゃむずい…
やっぱ、これは人としてだろう。いや、まて、これは三森さんに対する、今の僕の気持ちを言った方がいい。
「そりゃあ…仲良くしたいと思ってるよ。」
「じゃあ、何でいつも、私が話しかけても、反応が薄いの?」
「え……、それは……」
やっぱりか。案の定、三森さんにもそう思われていたか…
「私はね。ううん、私もね、凪音くんと仲良くしたいと思ってる。だから気になるんだ。なんでそんなに反応が薄いのか。」
なんだって?三森さんが、僕と仲良くしたい?反応が薄い理由?それは、多分、これしかない。
「怖いんだ。」
そう、怖いんだ。
「怖い?」
ああ、怖い。もういい、この際だから全部言おう。
「うん…三森さんは、僕と違って明るいし、みんなに優しいし、人気者だし。だから、僕、三森さんと話そうとすると、どうしても、怖いんだ。僕が、話しかけたって、迷惑じゃないか?とか、無視されるんじゃないか?とか、考えちゃって、それで…、話しかけたことで、嫌われるんじゃないかって…」
全部言った。
こう思うようになったのも、あの出来事のせいだ。
だけど、今はそれを思い出している場合じゃない。そんなことはわかっている。
僕は、今、どんな顔をしているんだろう。わからない。もしかしたら、半分、泣いてしまっているかもしれない。ただ、わからない。僕は下を向いた。
「私が、話しかけられただけで嫌う?それはないよ。むしろ、話しかけられると嬉しいし。だって、私、人と喋るのが1番好きだもん!」
え…今なんて…嬉しい?話しかけられるのが?
「え…」
「だから、凪音くん。これからはいつもより、明るく接してほしいな。」
明るく接する?無理だよ。それは、無理だよ…だけど…
「わ…わかった…ありがとう…」
こうとしか、言えないじゃないか…
「これから、よろしくね。」
よろしく?いや、よろしくって…
「うん。」
今の僕には「うん」ということしかできなかった。
「じゃあ、私、習い事あるから帰るね。また明日!」
「うん。」
三森さんは帰って行った。僕は、1人公園のベンチで顔を伏せて座っていた。なんで…なんで…三森さんは僕と仲良くしたいんだ…?わからない。
変わりたい。自分を変えたい。三森さんと、明るく話せるようになりたい。
だけど、でも、どうしても、過去のことが脳裏をよぎる。
変えられない。
帰ろう…
帰って寝よう。
そう思い帰路についた。