第四話
「今週末はどうする?どこか一緒にいこうか」
「いいねショッピング行きたい!あ、でもわたし土曜日午前中だけシフト入れられちゃって…ファイルとか飾り付けも、家にあるやつ置いてこなきゃだったし…」
「そうなんだ」
真桜は一瞬シャギーラグの方へ視線をやった。紫陽花の場所が変わっているのに気づいたみたいだ。
「じゃあそのあとは?疲れてなかったらどっか」
「行こ行こ!たのしみ、え、どこいこう」
真桜は食いつき気味に答えた。すると、スマホを取り出して何かを調べ始める。画面の端からInstagramのスイーツ特集の画面がちらりと見えた。椅子からぎこぎこと音がなっている。真桜が足をバタバタと動かしている。
「ねね、これ行かない?」
モンブランの写真に指をさしてこちらに見せてくる。
「おおーいいね、行ったことないとこだ」
わーい!と真桜は嬉しそうに足をばたばたさせる。その度に椅子がぎこぎこと音を立てる。すると、自分が開けたチョコの存在に気づいて、思い出したようにぱくぱくと食べ始めた。
≪明日の名古屋はどんよりとした雲に覆われそうです。お出かけの際は折り畳み傘を――≫
気づけばテレビは明日の天気情報になっていた。一気に静かになる。金曜日の夜の番組はどこか過剰なほどに賑やかで、その間に挟まれる天気予報が、かえってテレビ局のわざとらしさを浮かび上がらせているように思えた。
そんなことを思いながら、ふたりの間にしばらく静かな時間が続いた。
味噌の味がしみ込んだ青梗菜をつまみに、缶が高く積み上がっていく。外からはキリギリスの鳴き声。すぐそこで、湿気を含んでいるのにまだ冷たい五月の風が、若々しい緑を撫でる。
緑のざわめきにまたひとつ、カチャン、と缶が重なる。酔いのまわりつつある頭を徐々に埋め尽くしていく。
張り切って買ったのにもう履かなくなったスリッパが二足、ダイニングテーブルの下に転がっている。
カウンターにはおそろいの柄のマグカップ。
ソファの上には真桜が急に持って帰ってきた赤ピクミンのぬいぐるみ。
机の上には同じ色のランチョンマットと100均でそろえたカラトリー。
視界に何かが入れば、それにまつわる出来事を思い出すことができる。それは幸せなことだと俺は思う。
そう思っていないと――真昼の月のように、夜空の雲のように、自分のいるべき場所が、どこにも無くなってしまう気がする。