エピソード13
―断絶―
腐敗した風が、森を吹き抜けていた。それは終点へと向かっているかのようで、僕は心が重くなる。
ギルドマスターの依頼で、僕とレオンは森の腐敗を調べに来ていた。
森の奥で、数人が言い争っているのが見えた。
「俺たちは俺たちでやっていく!」
そう言い残し、黒衣の三人は、決意の宿った目でこちらを睨み、森の奥へと姿を消した。
その背には、わずかに黒い霧がまとわりついていた気がした。
「なんてことだ……」
その場に残された白いローブの男たちは、祈りを捧げ始めた。
「お前たちは何をしていた」
僕の言葉に男たちは肩を跳ね上げた。
「おい、そんな言い方するなよ。俺が話すから
偉い教会の人かもしれないだろ? 揉めてたようでしたが、ケガはありませんか? そして何を祈っているんですか?」
レオンは僕を注意し、男に質問をした。
白衣の男は、穏やかな口調で答えた。
「私たちは自然に任せて、時を祈り待っているだけです……祈りを捧げたら帰ります」
「お前は森の腐敗について知ってるのか?」
「おい! お前なぁ、すいません、こいつ口が悪くて」
「いえいえ……腐敗はしょうがないことです。時期が早まってしまったので、祈りをささげています」
男は何かを知っている口ぶりだ。
「早まった? 何のことだ」
「まて、余計なことを言うな。時期が早まったとは、どういうことでしょうか?」
「時は巡るもの……腐敗もまた、その巡りのひとつ。我らはそれを受け入れるだけです……しかし黒衣の彼らは、恩寵の周期に反している行いをしています。それでは私たちはこれで……」
白いローブの男たちは、そう言い立ち去っていく。
立ち去る白衣の一人が、黒衣たちが消えていった方向を見つめたまま、わずかに唇を噛んだ。
あの眼差しは、かつての同胞に向けたものだったのかもしれない。
「こんなに時期が早まってしまうとは……」
男はポツリと言葉を残していった。
「ちょっと待ってください!」
レオンは男たちを静止しようとする。しかし僕はレオンを止める。
「まて、レオン、推測になるが、あいつらは森が腐敗していた事を知っていた。そして、時期が早まったと言っていた。
それを悲しみ祈っていた、つまり宗教に入ってるやつらだろう。逃げた連中は、彼らと対立してるのかもしれない。そして――腐敗を早めた張本人だ。
……“時期が早まった”という言葉は、本来もっと後に起こるはずの何かが、予想より早く進んでいることを意味する。
つまり、計画的に“腐敗”を進めようとしている連中がいると考えるのが自然だ」
「なるほど。じゃあ先に逃げた人を探したほうが良いんだな」
僕たちは森を探索したが、人を見つけることはできなかった。手がかりは途切れたまま、僕たちは森を後にした。
だが、腐敗した風の奥にまだ何か潜んでいるような気がした。
腐葉土の匂いに混じって、焦げたような、血のような臭いが鼻をかすめた。
風のざわめきの奥に、低いうなり声が確かにあった――それは、言葉にならない痛みのようでもあった。
それが風の戯れなのか、それとも森が何かを訴えているのか――僕には、まだ分からなかった。