表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/58

エピソード1

第二作目です、投稿は7時にする予定です


2025/04/21 全体の修正を予定しています

今の文は修正されるので、原文が見たい方はメモ帳アプリ等でコピーをお勧めします

第一部がだいたいできたので、完成次第、毎日投稿となります

投稿は7時になるのでお願いします

リクエストに応じて、視点の追加等も考えておりますのでよろしくお願いします


2025/04/24 文の修正が終わりましたので、第一部を毎日投稿します、是非ブックマーク等をよろしくお願いします。

ー出会いー


 僕が暮らしているのは、王国の片隅にある静かな土地。王から与えられた広い屋敷で、僕は一人気まぐれに魔法の研究をしている。



 誰にも邪魔されず、ただ静かに魔法を探求できる――それだけが、僕の望みだった。



(けれどその静けさの奥に、時折、自分でもわからないざわつきを感じることがあった)



 しかし、生活はひどく雑だ。面倒事は嫌いだし家事もしない。



 今日はそんな気まぐれな心が動いた。



 最近は研究も行き詰まり、思考がぐるぐると、同じところをループするばかりだった。



 何か気分転換がしたかったのだ。



 ……そう言い訳していた。



 ……本当は、静かすぎる部屋に耐えきれなかった。



 何か、誰かがいてくれたら……



 僕は何気なく、町の市場に立ち寄ると、目の前に並ぶ奴隷商人の屋台を見つける。商人はその商品の説明を声高に叫んでいた。





「新しい入荷がありました! 良い家事ができる奴隷が揃っています! お買い得です!」





 興味半分でその前を歩きながら、商人の売り込みを聞いていた。そのとき、商人がひときわ自信満々に、僕に声をかけてきた。





「おや、お客さん! この娘を見てください! 家事全般をしっかりこなす優れた奴隷です。お勧めですよ」





 商人が指し示す先にいたのは、若い少女だった。年齢はおそらく十代前半。顔は美しいが、どこか暗い表情をしており、目はどこか遠くを見つめている。



 僕は、その目に引き寄せられるように見つめた。





「……どうして、そんな目をしているんだ?」



 気づけば、口にしていた。その言葉に、少女がゆっくりと僕の方を向く。



(……いや、関わるべきじゃない)



 他の誰でもない、孤独を知る目が、こちらを見ていた。



 ──どこか、思い出せない誰かの目に、よく似ている気がした。



 まるで、かつて鏡で見た自分の顔を、別の誰かに重ねたように。



 僕が疑問に思ったその時、商人がすかさず言葉を投げかけてきた。





「この娘は家事が得意で、黙々と仕事をこなしますよ。それに、あまり他の人に懐かないタイプですので、手間もかからず、むしろ扱いやすいかもしれません」



(便利そうだな……)



 そのはずだった。いや、そう思い込みたかったのかもしれない。



(……やめておけ。そういうことに深入りすべきじゃない)



 あと一歩、近づけば触れられる距離だった。



 けれど、僕はなぜか踏み出せなかった。声をかけておきながら、心だけが引いている。



 僕の足は止まったままだった。




 まるで、あの目に縫い止められたかのように。



(どうせ、誰かと関わっても、僕が壊すだけだ)



 それでもどこか気になった。





「まぁ、暮らしが楽になるかもしれないな」





(……そういう理由で買おうとしているのか?)



 考えの端からズレの匂いがしたことに、僕は気づかないふりをした。



 商人はその言葉を聞いてすぐに契約の話を持ちかけてきた。僕は無意識にうなずき、商人の勧めで契約することになった。



 契約が結ばれた瞬間、リリィはほんのわずかに肩をすくめた。安堵か、それとも絶望か――判断できなかった。



(この静けさに、誰かがいるというだけで……何かが変わる気がした)



 僕は少しの間、少女の姿を眺めながら歩いていた。




「名前はなんだ?」


 

「リリィ、です」





 かすれたその声は、風に消え入りそうだった。美しい顔立ちとは裏腹に、魂の抜けたような響きだった。



 その声は乾いていた。まるで自分すら信じていないようだ。



 それでも、その声は微かに震えていた。自分の名を口にするのさえ、恐怖を感じているかのように思えた。



 名前すら、所持することを許されていないような声だった。





「リリィか」





 僕はそれを軽く聞き流しながら、道を歩き続けた。





「さて、これからは僕の命令をきちんと聞けよ。食事とか、雑務とか、そういうのを頼む」





 リリィはわずかに体を強張らせたあと、ぎこちなくうなずいた。



 僕はあえて、無愛想に言った。

 優しい言葉が喉まで出かけていたのを、ぎりぎりで飲み込んだ。リリィはただ静かにうなずき、後ろについて歩き始めた。



 その姿を見て、ふと気になったが、すぐにその思いを振り払う。





(面倒を見てもらうだけだ。深入りするつもりはない)





 そう思いながらも、呼吸が浅くなっていた。気がつけばリリィを見ていた。



 僕の視界に映ったリリィの目が、どこか寂しげであることに、微かな違和感を覚えた。



 いや、違和感ではない。まるで僕が誰かを見捨てたかのような感覚を、リリィの目から感じる。



 違う……僕は僕自身を見捨てたのかもしれない。僕は誰かを助けるふりをして、自分の孤独に蓋をしたかっただけなのかもしれない。



 僕は苦々しく顔を背けた。



 家に着くと、リリィに簡単な指示を出した。





「まずは食事を作れ。あとは部屋の掃除を頼む」





 リリィは一瞬だけ僕の顔を見た。まるで、『それだけ?』とでも言いたげに。



 その目に、一瞬だけ、何かを探るような光が宿った。



 けれど無言でうなずき、そのまま作業を始める。僕はその様子を無関心に眺めながら自分の部屋に戻り、研究を再開した。



 リリィが手際よく食事を作り、部屋を掃除していることに驚きもせず、ただその動きに目を向ける。





「……便利だな」





 そう言いかけた言葉を飲み込む。



(まるで機械みたいだ)



 リリィは黙々と、指示された作業をこなしていた。迷いも、無駄な動きもない。



 それは、まるで歯車の一つのようであった。ただ、リリィがそう振る舞っているのは……僕がそうさせているのかもしれない。



 そう思ったときリリィがふと、こちらを見る。その目はやはり寂しげであった。



 それは、檻の中の獣が外を見つめるかのような、切実な目だった。



 何かを押し殺し、じっと耐えているかのような__そんな張り詰めた目だ。



 いいや、違う。外ではなく、後ろを見ているのだ。



 リリィは、僅かに身を固くした。



 誰かに追われている、何かに怯えるかのような目。



 その視線を耐えることができない。僕は再度視線を逸らす。



 その瞬間リリィは、息を静かに呑んだのかもしれない。見放されたと考えたかのように。



(何かを訴えているような……)



 僕は目をそらし頭を振る。



 始まりなど、望んでいなかったはずなのに。それでも僕の心は、微かに軋んでいた。



 名も知らぬ感情が、静かに、けれど確かに、顔をのぞかせていた。



(この娘の目が……どうしても、頭から離れない)



 僕は、部屋に戻ってもリリィの足音を探していた。



 ――誰かが、そばにいてくれる気がして。



 けれど同時に、何かを忘れているような気がしてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ