009.転入先は新たな出逢いで溢れてる・後編 〜夢那〜
五月十一日、一時限目────
クラス担任である望月先生が教える、国語の授業が終わった。
という事は…この後、私の中学生活もめでたく終了となる。
「ちょっと杉崎さん、階段まで良いか?」
「はい…。」
休み時間に入り、私と話そうとしてくれていたクラスメイトの動きが止まった。
「みんなちょっと悪いな?少し借りてくぞ?」
みんなの居る前で海野くんは頭を深く下げると、私を教室の外へと連れ出した。
ワルそうな雰囲気だけど、ちゃんと筋は通すようでちょっとだけ、海野くんの見方が変わった。
教室を出て廊下を左方向へ進んですぐの場所に、コの字状の階段があった。
「悪い。階段の上の方行こうか?」
「はい…。」
階段をのぼると、屋上へ出る扉が見えたが施錠されている。
「あのさ…?杉崎さん、【ユメリルナ】好きなのか?」
やっぱり…。
そうかなとは思っていた。
でも、そんな話は教室でも出来たはずだ。
「はい。【ユメリルナ】は“神推し”です。もしかして…同担拒否でしたか?」
「いや…。俺も、同担で“神推し”なんだ。」
それを聞いた瞬間、海野くんを色眼鏡で見て決めつけていた事を後悔した。
「あ…あの。海野くんは…2.5次元女子には興味…ありますか?」
「俺、誰だと思ってんだ?普通、2次元だろうと3次元だろうと【好き】になった女が何次元なんて関係ねぇだろ?」
思わずその言葉に、ドキッとしてしまった。
笠森くんに欠けてるパーツが、海野くんには実装されてそうだった。
「こ…このコスプレイヤーさん、海野くんはどう思いますか?」
そう言って私は、昨日【ユメリルナ】“完闇堕ち”フォームのコスプレ写真が表示されたスマホの画面を、海野くんの目の前に差し出した。
「なっ?!”完闇堕ち“フォームだ…と!?って、いうか…さ?【ユメリルナ】にしか見えないな…このレイヤーさん。マジで、神すぎないか?!コスネームは?」
「あ、ありがとう…ございます。嬉しいです…。えっと、ゆめ…ゆな…“ユナメリル”さんです!!」
お礼の言葉が無意識のうちに、口から出ていた。
とりあえず、【ユメリルナ】のアナグラムでコスネームを考えて答えた。
「ん…?お…?もうちょっとスマホ近くに…。マジか…!?『ユナメリル』さんって…杉崎さんだろ?ホクロの位置がさ…?」
あー終わった。
もし、笠森くんだったら、そのまま誤魔化せただろう。
「杉崎さん…。俺は…そんな君が【好き】だ!!だからさぁ…?いきなりで悪いんだが…俺の彼女になって欲しい!!俺の彼女になれば、悪い虫も寄ってこないからよ?」
本当にいきなりすぎる。
ずっと…笠森くんから言って貰えるのを待ってる言葉。
それを、出会ってから一時間も満たない海野くんに易々と言われてしまった。
「あの…。もしもお断りしたら、私はどうなりますか?」
「まぁ、そうだな。俺の庇護がなけりゃ、今日の帰り辺りに連れ込まれて終わりだろうな?ビジネス彼女でも良いんだぜ?最終的に、俺のこと【好き】になって貰えれば嬉しいな?程度だからな。まぁ、最後に振ってくれても構わないしな?」
「連れ込まれるって…そんな!?でも、ど…どうして、私にそこまでしてくれるんですか?!」
「まず、三次元女子として魅力があって、2.5次元女子としても魅力がある。それってさ?どう考えても最高だろ?!そんな女、放っておく奴、普通考えられないだろ!?」
はい、放っておかれてます。
考えられないかもしれないけど、実際にいるんです。
「そう…ですよね。普通…。でも、二次元女子しか…【ユメリルナ】の姿の時しか…興味を示さない人も居るんです…。」
「それって…さ?この写真、撮った奴のことだろ?さっきの写真の杉崎さんの目、見れば分かるぜ?【好き】な相手を見る時の目だったしな?だからさ?そいつの気持ち確かめる為にも、俺とビジネス彼女でもいいから…付き合って、揺さぶりかけてやろうぜ?杉崎さんとして、全く振り向いて貰えないなんて、悔しいだろ?」
ちゃんと私のこと見て、察してくれる人も居るんだなと思った。
笠森くんの心を動かせるなら、ビジネス彼女なら…良いかなと思ってしまった私がいる。
だって、私の方へ振り向いて貰えなければ、時間の無駄だと思った。
今、【好き】だと私から言っても、笠森くんは「三次元女子に興味ないから」と平然と言いそうな気がしてきた。
「では…海野くんのビジネス彼女になってあげます。こんな答えで…良いですか?」
──ギュッ…
「じゃあ、今日から…宜しくな?夢那。大事にするからさ…。卒業式まで、俺が守ってやるぜ!!」
後ろめたい気持ちはあるけれど、私だって本当は…甘酸っぱい青春したかった。
もっと、笠森くんと…ドキドキするような関係になりたかった。
小等部の頃から君への【好き】な気持ち、ずっと温め続けてきたのに…。
君との距離だって、あんなすぐ側に居たのに…。
全く私の気持ち…君には気付いて貰えなかったね?
だから、君への【好き】な気持ち、少しだけ…お休みするね?
君のこと、【好き】なまま居られるようにする為に。
「うん…。えっと…下の名前、まだ聞いてないかも…。」
「マジか…俺の名前は、海野雅幸。雅幸でも、マーくんでも何でも呼んでくれ。」
彼氏を下の名前を呼び捨てで呼ぶの、アニメで見てずっと憧れていた。
本当は…悠斗って、笠森くんのこと呼んでみたかったんだけど…。
いけないいけない…今は、忘れよう。
「じゃあ…雅幸って呼ばせて?良い…かな?」
「お、おう!!どうしてだろうな?何か…照れるな…。やっぱ…夢那は気持ちが可愛いからだろうな…!!夢那が片思いしてるやつに、見てるー?ってやってやりたいな。マジで!!」
なんかずっとモヤモヤしてた目の前が、急に晴れた気がした。
「うん…っ。面白そう…。」
昼休み───
午前中の授業が終わり、給食の時間になった。
まだその時点では、クラスの中は和やかムードで給食を食べていた。
そして、早く給食を食べ終えたクラスメイトがチラホラ現れ始め、教室の外へと出て行った。
──ガラッ!!
先程教室を出て行った男子達が、血相を変えて教室の扉を開けると、雅幸の席へ一直線で向かってこた。
「おいっ!!海野っ!!お前、杉崎さんに告白したんだって!?」
「杉崎さん…!!海野と付き合い始めたって…嘘だよね…?」
誰が見ていたのか知らないが、私と雅幸が付き合い始めたという噂は、いつの間にか学年中に拡がっているようだ。
「ああ、黙ってて悪かった!!夢那は、俺の彼女になったから。」
「マジかよ…。転入初日で杉崎さん彼女にしちゃうとか、海野やる事が早過ぎるだろ!!」
この時点ではまだ、雅幸と私は給食を食べている最中だった。
と言うか、私の食べるペースに雅幸が合わせてくれていたのだ。
「急かしちゃって、本当に夢那…悪いな?ちょっと良いか?」
あまりにも、クラスの男子達からの雅幸に対する非難が煩いので、急いで給食を食べ終えた私達は、雅幸と仲の良い仲間達の溜まり場へと向かった。
五分後───
「それでぇー?夢那ちゃんはさぁ?コイツのどこが良かったのさぁー?」
この私に質問してきた、小麦色の肌にロングヘアでギャル系メイク女子は、大石美伶奈さん。
「同担“神推し”なところ…かなぁ?」
「あー。そっち系か!!そうだろうなぁ?普通、こんな可愛い子が、お前みたいなワルの相手する訳無いしなー!!」
そして、雅幸を揶揄いながら煽っているのが、長髪でメカクレ系男子の山田健太朗くん。
「おいっ!!ワルってなんだワルって…!!ま、まぁ…そういう訳だからさ…。お前らも…夢那と仲良くしてやって欲しい。」
溜まり場と雅幸が呼ぶ場所だが、先程告白された屋上へ通じる階段の上がその場所だったのだ。
そこで大石さんと山田くんが、何やら談笑していたところに、雅幸は躊躇せず割って入ってこの状態だ。
全くと言って良いほど、三人ともタイプが違って見える。
こうして言われなければ、とても仲間には見えない感じだった。
だが、この四人で友情を深めていくこととなるのを、この当時の私はまだ知る由もない。