008.転入先は新たな出逢いで溢れてる・前編 〜夢那〜
五月十一日、朝食後────
幸さんによる私への未遂事件のすぐ後、何も知らないママが普通にやってきて、三人で食卓を囲んで朝食を食べた。
ちょっと幸さんは、ママに対して気まずそうな雰囲気だった。
幸さんに私は、今後朝食は三人で食べたいという話をしており、朝食後に幸さんはママへ話をつけた。
まぁ、幸さんが基本食材を用意するって、内容なんだけど。
あとは、私が通う公立の中学の制服を…誰かのお古でもいいので調達してくるように、幸さんに依頼したくらいかな。
色々やり過ぎると、幸さんから逆恨みされるかもしれないので、簡単なご褒美はあげる方向で。
「ママ?そろそろ…私、中学行かないと。」
「そっかぁ…。送迎ないんだもんねぇ…。じゃあ、ここからだと…急がないと!!気をつけて行っておいでね?ママ、これからお仕事の面接あるから…一緒にいけなくてゴメンね?」
今日から私が通うのは、市立賎宮中学校で通称は賎宮中と呼ばれており、中学の周囲にある二つの学区の児童が対象で、進学の為の受験もない。
勿論、私のような私立や、他の公立からの転入や編入も可能だ。
パパとママが通っていた母校でもある。
──ガチャッ…
「行ってきます!!」
慌てて玄関に向かった私は、居室に座り込んでいるママに手を振ると、ドアを開けた。
三十分後───
アパートを出てから2km強の距離を歩くと、ようやく賎宮中の校門の目の前まで辿り着いた。
スマホのナビを駆使して、向かっている途中である事に気付いた。
なんと、実家の裏手のエリアに中学があったのだ。
今まで、どこへ行くにも車での送迎だった私は、存在にも気づくことはなかった。
恐らく今日、ママが一緒についてきてくれなかった理由は、母校が実家近くにあるのを知っていたからだろう。
「ちょっと君!!昼陽の制服じゃないか!!」
「まぁまぁ、朝比奈先生。君さ…その制服、凄く似合ってるね?それで、今日はどんなご用ですか?」
校門の前にジャージ姿でいかにも体育教師、生活指導担当という感じの先生と、イケメンだけど女癖悪そうな先生が立っていて、それぞれ声を掛けられた。
「あ、あの…。今日から三年に転入してきました、杉崎夢那と申します。」
「おおおお!?転入してくるのが、杉崎家の御令嬢って言うから、もっとこう…なぁ?こんな可愛らしいお嬢さんがくるとはな…。」
「あのー、朝比奈先生?杉崎家の御令嬢は双子の姉妹なんですよ?そして、こちらは髪が長いので間違いなく妹さんの方です。そうですよね、夢那さん?」
姉の夢薫に関しては、昼陽学園でもスクールカースト上位で、姉の気高さが誇張された噂は、周囲の学校にも伝わっていると聞いたことはあった。
流石、生活指導部っぽい朝比奈という先生には、それが伝わっているようだ。
もう一人の女癖の悪そうな先生は、流石と言うべきか…私の特徴まで知っているようだ。
「はい…。姉が来るのかと、期待させてすみません…。私は、じゃない方です。」
「いやいやーそんなご謙遜をー。僕は、三年生の国語を教えている、望月映司です。因みになんですが、アニメ研究部の顧問もしてまーす。」
ここにもアニメ研究部あるんだ!!
でも、望月先生が顧問なんだ…。
やたらに馴れ馴れしいのは、まさか?!
笠森くんみたいに、イケメンなのに…三次元に興味がない、二次元オタクだからとかじゃ…無い、よね?!
ただ…女癖悪いだけかもしれないし…。
見た目は、おしゃれパーマな長髪、スラリとした長身で、色白な砂糖顔イケメンなので、絶対女生徒のファンが多いはず。
「そして…私、三年の学年主任兼保険体育を教えております、朝比奈恒三と申します!!それと、県大会常連の剣道部顧問をしております!!」
スポーツ刈りの髪なソース顔で、まるでゴリラみたいな隆々とした筋肉の肉体、本当にザ・体育教師というイメージだ。
こんな先生に床などに押さえ付けられたら、逃げられる自信はまずない。
「では、今から職員室へご案内しますねー?」
十五分後───
先程まで、朝比奈先生、望月先生と共に校長室で鈴木宣行校長先生へのご挨拶をしていた。
──ガラッ…!!
「はーいっ!!今居る先生方、こちらご注目くださーい!!今日から、僕のクラスに転入する杉崎夢那さんでーす!!この天使のような御尊顔、よーく覚えて下さいねー?」
その流れで、先生達への顔合わせの意味も込め、職員室に一瞬だけ顔を出そうという望月先生からの提案だった。
案の定、ザワつく職員室。
まぁ、地元では中学・高校と受験の難関校として昼陽学園は有名だ。
そこの生徒が転入してきたとなれば、何らかの問題を抱えていると思われて仕方ない。
「それじゃあ、三年の生徒指導室まで一度行きましょうか…ねっ?」
──ピシャンッ…!!
職員室を出た私は、朝比奈先生に先導され生徒指導室を目指して歩き始める。
やはり市立という事もあり、校舎内の各所に古さを感じる造りとなっている。
「あ!!夢那さん?そう言えば、教科書や体操服、上履き等のご用意って…まだされてないですよね?」
そうだった…。
同じ県内でも、公立中学と私立中学ではカリキュラムが違う為、教科書を新たに買い直さなければならなかったと、転校生から聞いた記憶がある。
我が家にはそんなお金、無いと思う…。
今私の服は、この制服のみなので…家の中で普段着としても使える、体操服やジャージは手に入れたいところだ。
「はい…。転校が急に決まった為、全く用意が出来ていません…。」
「では、生徒指導室で試着しましょう。」
あ…。
なんか嫌な予感がする。
更に、十五分後───
生徒指導室の中には、相談専門の女性の佐藤早織先生が居て、色々と親身になって対応してくれた。
佐藤先生には私の家の状況が伝わっていたようで、教科書や体操服、ジャージ、上履きは即日支給され、お金は余裕が出来た時支払えるように、校長に掛け合って頂いた。
本当に佐藤先生には、感謝の気持ちでいっぱいだ。
それで今は、教室の廊下に居る。
「それでは、今日からみんなと一緒に楽しい学校生活をおくりたいと願っている、新しいクラスの仲間を紹介するよ!!」
──ガラッ…
「おおっ?!」
「え…昼陽の制服じゃん。」
「滅茶苦茶、可愛くね!?」
「あれ、絶対男好きそうっしょ?」
様々な声が飛び交う中、私は教室の中へと入ると、望月先生の居る教卓の側まで歩みを進めた。
「はーい!!お前らうるさいぞ?ちょっと黙ろっか?じゃあ、自己紹介宜しくね?」
「はい…。昼陽学園から転入させて頂きました、杉崎夢那と申します。趣味は…アニメ鑑賞です。みなさんと、仲良くなりたいです。宜しくお願いします!!」
──パチパチパチパチパチパチパチパチ…
杉崎と言う名を聞いてなのか、自己紹介を終えると一斉に拍手が起こった。
きっと皆んなは、私のことを夢薫ちゃんだと思ったのだと思う。
「それじゃあ、席なんだがなぁ…。じゃあ、海野の隣の席空いてるから、そこ座って貰おっか?って事で、当面は海野が杉崎さんの面倒見てあげるように!!」
「モッチー、俺!?マジかよ…。まぁ…良いけどさ?」
海野という男子生徒は、髪がツンツンした系のお洒落短髪で、少しワルっぽい雰囲気な醤油顔イケメンだった。
なんか…顔のタイプは笠森くんとダブるけど、性格等は正反対な感じに見えた。
しかも望月先生の事、モッチーと呼んでいる。
「ああ、マジ。アニメ好きって言ってるし、アニ研の部長のお前とは趣味合いそうだなって…な?」
ああ…アニメ研究部の顧問と部長の間柄なんだ。
って!?
このワルっぽいイケメンくんが、アニメ好き?!
既に笠森くん不足過ぎて、海野くんにギャップ萌えしちゃいそうで怖い…。
──ガタッ…
「こ…これから、宜しくお願いします…。」
「おお…。ん…っ!?そのカバンについてるの【ユメリルナ】モチーフの限定ピンバッジだよな?」
あ、あれ…?
普通の人には分からないと思って付けてたのに…。
去年の誕生日に笠森くんから貰った大切なやつだ。
「どうして…分かったの?」
「後で、階段で話そうか?」
ああ…ツイてない。
初日にして、公立中学生活終了のお知らせのようだ。