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君の”神推し“になりたくて  作者: 茉莉鵶
第一章.三年前
7/18

007.逢えない君へ募る【好き】な想い 〜夢那〜


五月十一日、早朝────


 本当に何もない部屋。

 遮るもののない窓からは、薄らと朝日が差し込み始める。


 昨日は、格安のカーペットだけは、近所のホームセンターに歩いて買いに行き、何とか居室のフローリングの床へ敷いた。

 寝る布団もない状態だったので、カーペットがあるだけでかなり違った。

 母娘で床へ寝転んで、久しぶりに抱き合って眠りについた。


 今日は、地元の公立中学への転校初日だ。

 なので…あまりの緊張で、いつも起きる時間よりも早く目が覚めてしまった。

 何事も初日が肝心だ…。

 もう、スクールカースト上位で双子の姉の夢薫ちゃんも居ない。

 今日からは、自分の身は自分で守らなきゃいけないんだ。

 身の回りの世話をしてくれる、使用人の方もいない。

 生まれてからの約十五年間、凄く恵まれていたんだなって、思い知らされている。


 ──グウゥゥゥッ…


 ああ、お腹空いたな…。

 昨日の夕食は、ママの親友でアパートの大家の幸さんに、引越し祝いとして近所の町中華のお店でご馳走になった。

 そこまでは順調だった。

 その後、電気ガス水道の開通が翌日以降の為、幸さんと銭湯へと向かった。

 ママと幸さんが昔話に花を咲かせた為、遅い時間になってしまい、スーパーの閉店間際を狙った買い出しに行けなかった。

 なので、今日の朝食は無い。


 ──ヴヴッ…


 もう契約など解約されていると思って、通学カバンの中に放り込んだままの私のスマホが震えた。


 ──ジジジジッ…


 寝ているママを起こさないように、通学カバンの外ポケットのファスナーを開けた。


 ──『新着メッセージ:夢薫 からのチャット』

 ──タンッ…

 ──『夢那!!生きてる?!とりあえず、お姉ちゃんが夢那に課金してあげる。』

 ──『コーリーチップス 五万円:夢薫 から届きました。』

 ──『自分を安売りしちゃダメだよ!!困ったらお姉ちゃんに連絡して?』


 姉の夢薫ちゃんから、一方的にチャットと、コーリーチップス(インスカの投げ銭機能)が届いていた。

 コーリーチップスから電子マネーやポイントに満額ではないが交換できる為、本当に助かった。

 それにしても、夢薫ちゃん…五万円なんてどこから?

 でもこれで…暫くは、何とかなりそうな気がする。


 「んっ…ん…。」


 ママが起きそうになったので、急いで通学カバンの外ポケットにスマホを戻した。

 夢薫ちゃんには悪いけれど、返信は後ですることにした。


 ──グルグルグルグルッ…!!


 お腹の大きな音が何もない部屋に響いた。

 いつもなら、夕食後のデザート、寝る前に軽くおやつが定番だった。

 昨夜の夕食で食べた量は、幸さんへの遠慮もあり明らかに少なかったのだ。


 そういえば…地元の公立中学って、確か…給食だった気がする。

 ふと、お昼まで耐えれば良いかもしれないと思った。


 「ん…んっ…。夢那ぁ…?おはよぉ…?」


 結局、私のお腹の音でママは目覚めてしまった。



十分後───


 目覚めてから暫くの間、天井を見ながら放心状態だったママ。

 それはそうもなるだろう。

 急にパパから離婚を突きつけられて、何も持たされる事もなく、娘一人おまけ付きで追い出されたのだから。


 因みに…ママについてだが、背格好は私達双子姉妹と同じくらいで、髪はロングヘアのポニーテールで前髪は流していて、肌はブルベ系で青白く、目鼻立ちもハッキリだ。

 簡単にいえば、私達を大人の女性にしたようなイメージだ。

 だから、ママ一人なら…誰も黙って指を咥えて見ていないと思う。


 ──ピリリリリリリリリッ…!!


 こんな早朝に、私達の住む部屋の玄関の呼び鈴が鳴った。


 「おーいっ!!夢美ぃーっ!!朝メシ出来たぞぉー!!早く、部屋来いよぉー?」


 この声は…。


 「今…ママね?昨日の夜…朝食の食材、何も買って来なかったなーって、絶望感に浸ってたところだったの。夢那ちゃんは、もう出れる?」


 ママは笑いながらそう言った。

 でも、私が見ていた感じでは、朝食の事だけじゃ絶対なさそうな、虚な表情だった。


 「うん、この制服しかないし…。ママ、一緒に行こう?」


 「ゴメンね?夢那。ママ後で行くから、先に行っててくれるかな?」


 「うん、分かった。」


 お腹がペコペコな私は、床から立ち上がった。

 そのまま玄関兼キッチンの部屋へ向かう。


 ──ガラッ…


 二つの部屋を仕切る引き戸を開け、玄関のドアを開けようと、鍵の辺りを見た。

 すると不用心にも、ドアガードがされておらず、がされておらず、鍵も一つしか掛かっていなかった。

 ママに任せたのがダメだったのかもしれない。


 ──ガチンッ…

 ──ガチャッ…


 「おっはようっ!!夢那ちゃん!!寝れたかい?」


 もう部屋に戻ったのかと思っていた、幸さんがまだ玄関の外に居た。

 どう見ても、若い中性的な男性にしか見えない。


 「お…おはようございます。お布団ないので、すぐ目が覚めてしまって…。」


 ──ギュッ!!


 挨拶すると、私の左手を握ってきた。

 やっぱりそこは女性なのか、握った感触は柔らかかった。

 この時の私は、そのことで少し油断してしまっていた。


 「そっかぁ…寝れてないのかぁ…。まぁ、とりあえず、私の部屋に行こっか!!」


 お腹が空きすぎて、私は朝食のお誘いという事しか頭になかった。

 幸さんに手を引かれ、私は大家の部屋までやってきていた。


 「私達の愛の巣に到着っ!!じゃあ、入ろっか?」


 ふざけて幸さんは言っていると、私は思い込んでしまった。


 ──ガチャッ…


 「ほらぁ、夢那ちゃん入って入って?」


 「おじゃまします…。」


 先に私が玄関をあがると、後から幸さんも玄関に入ってきた。


 ──バタンッ!!


 完全に部屋へとあがっていた私の背後で、玄関のドアが勢いよく閉まった音がした。


 ──ガチンッ…ガチンッ…ガチッ…


 その直後、玄関のドアの鍵とドアガードが掛かる音も聞こえたのだ。


 「朝からさぁ…?制服姿で来るなんてぇ…?私のこと誘ってるんだよねぇ…?」


 誘ってなんかいません!!

 これしか着る服が無いんです!!

 そう反論しようとした。


 ──ドンッ!!


 「キャアッ…!!」


 背中を力強く押された私は、玄関の先にあるリビングの床へ倒れ込んでしまった。

 その瞬間、昨日のママが幸さんに対して”若くて可愛い女の子好きなのよ…ね“という言葉が頭をよぎった。


 今、私は…襲われているんだ…。


 ──ガッ…!!


 そう気づいた時には、もう遅かった。

 幸さんが私の身体に覆い被さっていた。

 そして幸さんの手が…ショーツ越しに私の大事なところを掴んでいた。


 「嫌っ!!私、まだ…処女なのに…!!」


 「え…っ!?う、嘘でしょ…?はぁ…。最近の男ども…目でも悪いのかよ!?こんな美少女に手を出さないなんて理由、無いだろ…普通!!夢美なんて、これくらいの歳には…男二人を渡り歩いてだぞ?」


 処女という言葉に、幸さんは慌てて手を退けると、ヤレヤレといった表情で天井を見上げた。

 それにしても、幸さんの指が結構エグくて危なかった…。

 笠森くんに初めてを捧げたいと、小等部で保健の授業をした頃から想い続けているから。


 はぁ…。

 今日からもう、部員という名目では…笠森くんの側には居られないんだよな。

 私の裸、写生させてあげるって約束してたのに。


 他校の生徒が校舎内へ入ることについては、昼陽学園は凄く厳しい。

 許されるのは、年に一度の学園祭の時だけだ。

 その為、試合等で使用される体育館や運動場は、校舎がある場所から離れた場所に建てられている。


 どうやって、大【好き】な笠森くんに逢いに行こうかな…。

 インスカの友人登録しておくべきだったな…。

 部員間の業務連絡の為と称して。

 まさか、あんな形で私の学園生活が終わりを迎えるなんて、思ってもみなかったし…。


 って…幸さんのさっきの言葉が引っかかった。

 私のママ…確か、杉崎家の養女だったんだよね?

 何故、男子二人の間を渡り歩いてたの?!

 一人はパパとして、もう一人は…誰?!


 「あの、幸さん…?今…襲われたこと、ママに言っても良いですか?どうします…?」


 「ゆ、夢那ちゃんの言うこと聞くから…さ?夢美に言うのだけは、勘弁して下さい…。ごめんなさいっ!!本当に…この通り!!」


 これは、やったと思った。

 大家さんの弱みを握れたことはかなり大きい。


 「なら…私が許すって言うまで、幸さんは言うことを聞き続けるって事で、宜しくお願いしますね。」


 「はぁ…。あの頃の夢美と同じだと、見誤った私が悪いから…ね。言うこと聞くよ。」


 はぁ…って言いたいのは私だよ。

 笠森くんに…逢いたいな…。


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