005.二次元オタクな君と双子姉妹・後編〜夢薫の場合〜
五月十一日、昼休み────
「す…凄い!!こ、これが…。」
アニメ研究部の部室のソファの上。
私は一糸纏わぬ姿で、両脚を拡げた状態で腰掛けている。
このポーズについては、笠森くんから指示されたものだ。
「す、少しでいいんだ…。りょ…両手で、拡げられるかい?」
液晶ペンタブレットで、私の身体を隈なく描き取ろうとしているようだ。
写生を開始してからずっと、彼は顔を私の身体へと近づけ、じっくり観察してはタブレットへ描き込むを繰り返している。
「こ…こうかしら?夢那はこんなこと…よく依頼したわね…。」
まさに今、笠森くんは女の子の大事なところを、描き込み始めたところだった。
すると、彼が履いている制服の股の辺りが、明らかに大きく膨らんだのが見て取れた。
夢那には悪いけど、彼との関係を深めるチャンスだと思った。
更によく見えるように、ゆっくりと腰を少し上げた。
そして、左右に拡げている両手に少し力を入れた。
「ハァ…ッハァ…ッハァ…ッハァ…ッ」
みるみるうちに、黙って描き込んでいた彼の息遣いが荒くなっていくのが分かった。
先ほどより、彼の股の辺りの膨らみが顕著になってきた。
「約束通り、今からスッキリしてくるから、少し待っ…。」
「ねえ…っ!!ここで…す、スッキリしちゃえば?時間、勿体無いでしょ?」
約束って何?
スッキリしてくるって…夢那、アンタ一体どんな話したの?!
悪いことをしているという、私との共犯感を明確に彼へと植え付けたかった。
「そう言うのなら、そうするかな…。もし、汚したらスマン…。」
あくまで、私は傍観者に徹する。
もし、ここで彼に手を貸してしまえば、色んなバランスが崩れ去りそうに思えた。
──ドンドンドンドンッ!!
バッドタイミング…。
もうっ!!
全く…誰なの?!
空気読めなさすぎるでしょ?
本当にドアを叩くのがあと少し遅ければ良かったのに…。
そうすれば、制服から笠森くんの分身が姿を現すところを間近で拝めたのに…。
「ねえっ!!夢薫っ!!ここに居るんでしょ!!大丈夫?乱暴されてない?」
ああ…。
親友の清花の声だ。
スマホの位置共有アプリで、二人の居場所を共有してたのをすっかり忘れていた。
共有を切っておくべきだった。
「ごめん!!夢那の荷物、受け取りに来てるの!!すぐ行くから戻ってて!!」
居ないフリして、これ以上私の計画を邪魔されたくなかった。
それに…笠森くんとは、今日出逢ったばかりなのに、心証を悪くしてしまったかもしれない。
だから、ドアの外にいる清香に向かって、嘘をついた。
その間に、私は笠森くんに深々と頭を下げると、下着を着け始めた。
「(騒がしくて、ゴメンね…?続き…放課後でも…良い?)」
笠森くんの耳元に顔を近づけて、そう囁いた。
「(と、友達居るだろ?だ、大丈夫なのか?)」
「(そうだ!!スマホ、持ってる?これ、私のインスカの友コード。)」
制服のブラウスをとりあえず羽織った私は、笠森くんにインスカの友コードが表示されたスマホ画面をスッと差し出す。
因みにインスカとは、画像や動画の投稿に特化したSNSのInstant Calleeの略称だ。
それと、友コードはインスカから読み込むことで、友人として相互登録される。
そうすることで、チャット機能しかないフォロー関係より交流する機能が多く解放され、通話なども可能になるのだ。
──ピロンッ!!
「(ゆ、友人登録しても…良いのか?僕、夢那さんとはまだ出来てないんだが…。)」
──パチン…パチン…
「(良いの良いのー!!だって…私の身体、じっくり見たんだしぃ?)」
そんなことを言いつつ、ようやくスカートのボタンを留めるところまできた。
──ピロッ!!
──『新着メッセージ:悠斗 と友人になりました!!』
スマホの通知音が鳴り、新着メッセージが表示された。
やった!!
夢那を追い越した…!!
まぁ…私の身体見せてる時点で、完全勝利な気もするけど…。
でも、まだ気は抜けない。
──ピロンッ!!
──『新着メッセージ:悠斗 からのチャット』
──タンッ…
──『ありがとう。写生の続き、今度でも良いかな?』
「うんっ!!」
早速、インスカのチャットを使い、笠森くんは先程の返事をくれた。
思わず私は嬉しくて、声で返してしまったが。
──ドンドンドンドン!!
「夢薫ぁ!!本当に大丈夫?!脅されてるとかじゃないよね!?」
──ピロンッ!!
「平気平気ー!!今行くー!!」
──ガチンッ…!!ガチャッ…!!
笠森くんにインスカでお礼のチャットを送ると、清花へ声をかけながら、アニメ研究部の部室のドアの鍵を外すと、ドアノブを回した。
「良かったよぉ…!!夢薫、無事だったんだねぇ…!!もうっ、探したんだからねぇ?お手洗いとかぁ…空き教室とかぁ…色々。」
「ほんっとゴメンて!!まさか、夢那がアニメ研究部だったなんて、姉の私でも知らなかったんだけど!!」
あえて後は振り返らず、私は清花と話しながら部室の外へ出た。
実はその時、私は後ろ手で笠森くんに向かって手を振っていたのだ。
──バタンッ…
ちょっとでも、爪痕残せたのかな…私。
絶対、夢那には負けたくない!!
笠森くん…いや、悠斗くんを…このスクールカースト上位の私に振り向かせるんだから!!
五分後───
相変わらず今日も私の机の周囲は賑やかだ。
先程、私を探しに来た清花を筆頭に、取り巻きの女子達が騒がしくファッション雑誌を見ていた。
「これ、可愛くないですか?」
「清花さんはどう思います?」
──モグモグモグモグ…
昼食がまだだった私は、いつも使用人の方の用意してくれる、サンドイッチを頬張っていた。
昔、お昼はサンドイッチで良いと私が言ったので、飽きないように中身の具を日替わりで考えて作ってくれているのだ。
今日は、私の大好きなツナマヨサンドだったので、更にテンション上がってきた。
──タン…タン…タン…タン…
ふと、良いことを思いついた私は、サンドイッチを左手に持つと、右手でスマホを持ち文字を入力し始めた。
「ねぇ?夢薫はどの柄が好み?」
「んー、この柄かなぁ…?」
──タンタンタンタンタンタンタンタン…
清花から質問されても、話半分で一心不乱に文字を打ち込む。
何せ、今後の二人の関係を左右するかもしれない内容だったからだ。
──『悠斗くんって、呼んでもいい?それとね…?サンドイッチなら中身の具は何が好き?』
──ピロッ…
ふぅ、やっと悠斗くんに送れた。
その名は、サンドイッチ手作り作戦!!
返事が来たら、家で使用人の紀江さんに、サンドイッチの作り方教わるんだ。
住み込みの使用人で二十代の女性なんだけど、凛として品のある黒髪の美人さんで、パパの夜の生活担当との噂が以前より消えず残っている。
もしかして…昨日の離婚騒動は、パパが紀江さんと再婚するためだった…とか、この時は思っていた。
──モグモグモグモグ…
スマホを机の上に伏せて置くと、またひと口サンドイッチを頬張った。
そうだ…。
夢那もこのサンドイッチ、好きだったな。
着の身着のまま追い出されたけど、大丈夫だろうか。
ふと、最低な光景が私の脳裏をよぎった。
住む場所も、お金もない状態で、ママと夢那は二人きりで街を彷徨った挙げ句…。
お金を持っていそうな、おじさんに声をかけられ…まさか。
双子の妹が、お金の為に…酷い目に遭ってるかもしれないって、想像したくもない…。
だから、とりあえず夢那にはチャットとかを送っておいたんだけど…。
──ピロンッ!!
夢那からかもと思い、机の上のスマホを慌てて手に取った。
──『新着メッセージ:悠斗 からのチャット』
──タンッ…
──『別に良いけど。サンドイッチはタマゴが好きかな。』
そんな想像も、悠斗くんからのチャットで吹き飛んでしまった。
夢那、ゴメンね?
おじさんの相手でもしてて?
その間に、悠斗くんのこと私が貰うから…。