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君の”神推し“になりたくて  作者: 茉莉鵶
第一章.三年前
3/18

003.二次元オタクな君と双子姉妹・前編〜夢薫の場合〜


三年前、六月十日────


 あの日の午後八時頃だっただろうか。

 夕食を済ませた私は、すぐにお風呂も済ませて、金曜日が提出期限の進路希望のプリントを、父親の寝室へ出向いて直談判する筈だった。

 しかし、父親の寝室には一ヶ月程前、突然離婚させられ追い出された母親がおり、以前と変わりなく父親と仲睦まじい姿を見せていた。


 それはそうと、私の家の夕食は、午後七時を過ぎると始まる。

 その時間に家の中に居た者から、使用人の方が調理した料理が提供されるのだ。

 この日は、珍しく夕食に父親も同席していた。


 ありがたい事に、普段の個々の食べる量に応じ、料理の量が調整されたものが出されるのだ。

 本当に使用人の方の気配りには、頭が下がる。


 明らかに料理の量が父親とは違う為、いつも私の方が早く夕食が済んでしまう。

 あとは、私の家の決まりで、食事中は黙食と決まっている。

 突然、母親と離婚して追い出した父親の事は、私は未だに許せずにいた。

 なので、食後の家族での団欒をする事をせず、すぐ自分の部屋へと戻っていた。


 だが、今日は先程の通りで、絶対に父親と話さなければいけなかった。

 そんな時に、私は目を疑うような光景を、少しだけ開いていた父親の寝室のドアの隙間から、見てしまったのだ。

 その際、両親がこんな事を言っていた。


 ──「夢那(ゆな)は、私の後継者となって貰わなければならない。それには世間の荒波を一度経験しなければダメなんだ。だから、夢美(ゆみ)済まない…。引き続き協力をお願いするよ。」


 ──「あなた?その事は承知の上で、この件は引き受けておりますので。それにしても、転校はやり過ぎではなかったですか?」


 夢那と言うのは、私の妹のこと。

 それで、私と夢那は一卵性双生児で所謂、双子姉妹。

 因みに、私の名前は杉崎(すぎさき)夢薫(ゆか)

 地元のミッション系の昼陽(ちゅうよう)学園に通う、中等部の三年生でスクールカーストは上位だ。

 流行には誰よりも敏感で、意識高い系だと周囲から言われていて、異性については面喰いだ。

 

 髪はセミロングヘアで、前髪はかきあげバング系にして夢那との違いを出している。

 オタク系女子な上に、私の妹のはずなのにスクールカーストが下位の夢那との差別化を図れる所が、髪と衣類くらいしかないのは、本当に悔しい。


 話を戻すと、夢美は私達の母親の名前だ。

 それにしても、姉妹の姉の私ではなく、妹の方を後継者に考えていたなんて。


 でも、良かった。

 突然、父親と母親が離婚したのは、夢那に“獅子の子落とし”させる為の演技だったって、分かったから。


 だけど、この情報を夢那に教えることはなかった。

 だって…この時点で既に夢那は、私にとっての大きな障害でしかなかったから。



三年前、五月十日────


 突然、父親と母親が離婚することになり、私は父親に引き取られることになった。

 使用人さんが居る時点で、何となく察しがついているとは思うけど、実は…私の家は明治の頃から続く資産家の分家筋だ。

 所謂、お金持ちってやつ。

 夢那は母親に引き取られることになったので、経済的理由でその日のうちに、地元の公立中学へと転校することが決まった。

 もう夕方過ぎだったから、双方の学校への連絡はついたけど、夢那はクラスメイトへの挨拶はできず仕舞いで、クラス内の同報メールのみが担任教師より配信されたようだ。



五月十一日────


 次の日、学校へ行くと夢那のクラス前を通ると、凄く騒がしかった。

 まぁ、夢那は美少女アニメ好きなオタク系女子だったけれど、結局は私の双子の妹だ。じゃない方でも男女問わず、密かにクラス内での人気が高かったようだ。

 クラスの中へと足を踏み入れた時だった。


 「えっ…?!夢那ちゃん!?みんな!!挨拶に来てくれたよ!!」


 いやいや…。

 髪型もメイクも違うし…。


 「はぁ…。全く、よく見なさいよ…。私は夢薫よ…。」


 「ひぃ…っ!!ゆ、夢薫さま…でしたか…。とんだご無礼を…申し訳ございませんっ!!」


 夢那と勘違いした女子は、顔を真っ青にして床に額をつけながら土下座を始めた。

 気にしていないが、私はスクールカーストの上位だから、本来であれば粗相をすると命取りなのだろう。


 「良いから…。もう、良いから…!!ねぇ…?頭を上げてくれる?他がどうかは知らないけど…私、そんなことさせるつもり無いから。ただ、夢那の荷物置いたままでしょ?だから、姉として引き取ろうと思っただけ。」


 「夢薫さまの寛大なご配慮…心より感謝いたします…。こちらで荷物をお纏めさせて頂きますで、お帰りの際お立ち寄り頂ければと存じます…。」


 顔を上げた女子の表情は硬く青ざめたままで、身体は小刻みに震えながらも、頑張って応対してくれた。

 別に、私は普段通りに喋っているだけなのだが。


 そういえば、昼陽学園では血縁者は小等部から高等部までは、同じクラスになれない決まりがある。

 それに、小等部一年への進級時にクラスが決まると、ずっとそのままで進級していくのだ。

 教師がクラス替えの為に、変に頭を悩ますことが無いようにと言うことだ。

 イジメ等のトラブルがあった際は、当事者達を離すために一部の人間は入れ替えが行われる。

 入れ替え対象として打診されるのは、スクールカースト上位の生徒だ。

 クラスが変わっても、スクールカースト上位という威光やプライドで対処しろという、理事の意向が汲まれている。


 あと、クラス内で転校や退学になった場合は、空席となり転入希望者は優先してそのクラスへ編入させられる。

 だから、クラスメイトは最長十二年間共にする事になる為、きょうだいのような感覚の存在となるのだ。


 まぁ、学校のクラス分けのルールはそんな感じで、私は夢那のクラスをひとまず後にした。

 あんなに愛されていたんだなと、つくづく思った。

 私は、私のクラスはどうなんだろうな…。


 ──キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…


 そんなこと思いながら授業を受けていたら、お昼休みの鐘の音が聞こえた。

 朝の一件で時間が掛かってしまい、中等部三年の階のホールにある販売機で、飲み物を買いそびれたままだったことに気付いた。


 ──ガタッ…


 「夢薫、急に立ち上がって…どうした?」


 「ごめん、ジュース買ってくる。」


 私と仲の良い女子達が、クラスの垣根を越えてやってきて、皆んなで昼食を囲むのが定番になっていた。


 「先、始めてるからねー?」


 「オッケー!!」


 クラスを出て、自販機に向かって廊下を急いでいた時だった。


 「おーい!!夢那さーん!!昨日から始まった春アニメ見たよなー??」


 はぁ?

 春アニメ…?

 声からして、夢那の知り合いのオタク系男子だろうか?

 しかもだ…杉崎さんとは呼ばずに、馴れ馴れしく下の名前で呼んできている。


 この際、良い機会だから、人違いだとガツンと言ってやろうと、勢いよく声のした背後の方へと振り向いた。


 「え…。あ…。」


 いや…オタク系男子は大体察しがつくので、今まで眼中にもなかった。

 だが、振り向いた目線の先には…誰がどう見ても醤油顔イケメンと答える長身男子しか居なかった。

 初めは、私を揶揄うためのドッキリかと思った。


 「早く、部室行こうぜ!!今日は…夢那さんの裸、写生させてくれるって、約束だっただろ?」


 全く、私の知らぬところで、夢那はこんなイケメンと知り合ってたなんて…。

 しかも、二人きりの部屋で男子に裸を写生させるなんて、夢那は何考えてるのか…。

 それに、夢那が転校した情報、何で伝わってないんだろう?

 写生のことより、その事が私の中で先行してしまった。


 「えっと…。私は夢薫。夢那の双子の姉なんだけど…。君は…夢那の彼氏さん…とかかな?」


 「ええええっ?!夢那さん、双子だったのか!?それと、僕…彼氏じゃない。僕はアニメ研究部の部長の笠森悠斗。夢那さんはその部員で、幼稚園の頃からの同担だ。」


 裸見せるのに、彼氏じゃないんだ…。

 どうしてだろうか、少しホッとした私がいる。

 面喰いな私は、アニメは全く興味ないが、笠森くんに興味を持ってしまったのだ。


 それに、本当なら今頃部室で…夢那は裸になり写生させている筈だったのだ。

 あ…そうだ。

 夢那は私の分身であり、私は夢那の分身である。


 「そういえば…笠森くん?クラスの誰からも聞いてない?昨日付で、夢那が転校したって話。」


 じゃない方の夢那であっても、スクールカースト上位の私の妹だ。

 私の関連情報として、知っておく必要があるようで、二時間目の休み時間迄には、学園中に拡散されていた。


 「夢那さんが…転校!?僕、聞いてない。多分、僕…学園内で夢那さんしか話し相手居なくてさ…。」


 ふぅん…。

 クラス内で隔絶されてる、ボッチ系か…。

 でも、私には好都合だ。


 「そうなんだ…。なら、夢那の双子の姉である私で良かったらなんだけど…ね?夢那の代わりに、笠森くんの話し相手なってあげる!!それに、今日…裸を写生するって…約束してたんでしょ?だから、姉として責任をとるから!!今から…私の裸、写生しよ?」


 この時の私は、勢いで笠森くんと仲良くなることしか頭になかった。

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