表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の”神推し“になりたくて  作者: 茉莉鵶
第一章.三年前
2/18

002.二次元オタクな君と双子姉妹・前編〜夢那の場合〜


三年前、六月十日────


 ──ガチャッ…


 「ただいまぁ…。夢那(ゆな)まだ、起きてるかなぁ…?」


 玄関のドアが開く音がしたと思ったら、私の名前を呼ぶ声も聞こえてきた。

 生活の為、日中は慣れないメイドさんのお仕事に出ている母親が帰ってきたようだ。

 もう午後九時をまわっている。


 ──バタンッ…!!ガチンッ!ガチンッ!


 すぐにドアを閉める音と、鍵を掛ける音が聞こえたので、カーペット敷きの床で寝転んでいた私は、急いで身を起こした。


 ──カチャッ…


 「ママ…お帰りなさい!!」


 今、二十年はゆうに越える築年数のアパートの1Kの一室を、母親と私の二人で借りて暮らしている。

 契約した当初は、居室の床はフローリングだった為、なけなしのお財布をはたいて、薄めのカーペットを床一面に敷いた。

 なので、寝るまでは床に座ったり、寝転んだり、折り畳み式の座卓の上で勉強したりしている。


 「今日は、帰るのが遅くなっちゃってゴメンね…?」


 「ううん…?確か…お仕事で忙しい事は、ママにとっては良いことなんだよね?」


 社会に出て仕事をしたことがまだ無いので、私にはあまりよく分からないのだけど、お仕事で忙しければ、残業代というものが貰えると、先日母親に教えて貰った。

 親のお給料の事なんて、あの日が来るまでは、気にすることなんて微塵も考えた事すら無かった…。



三年前、五月十日────


 ここからは、私が公私共に幸せに満ちていた頃の話だ。

 だから、この辺りで簡単に私自身についての話をしておこうと思う。

 私の名前は、杉崎(すぎさき)夢那(ゆな)

 背は一般的なサイズで、髪はロングヘアで前髪は長めに流している。

 肌はブルベ系の青白い感じで、目鼻立ちはハッキリしてると言われる。

 あと、実は私には一卵性双生児の姉が居り、名前は夢薫(ゆか)と言う。


 実家は明治以前から代々続く資産家の分家の為、生まれた時から何不自由のない生活を送ることができた。


 この頃の私はまだ、幼稚園から大学まで一貫教育でミッション系の昼陽(ちゅうよう)学園に通う、中等部の三年だった。

 いつも、学校までは実家の使用人の方が運転する車で、姉妹で送迎して頂いていた。


 因みにだが、私自身は…今までに何度もリメイクされTVで放映されている、美少女アニメ[聖皇女(せいこうじょ)アルリス]の登場キャラクター【ユメリルナ】を“神推し”するオタク系女子だ。

 それ故、所属していた部活は、部員数二名だけというアニメ研究部だった。

 その部活で部長を務めているのが、私と同担“神推し”で、見た目だけは醤油顔イケメンで長身のオタク系男子、笠森(かさもり)悠斗(ゆうと)くんだ。


 部長の笠森くんとは、私が幼稚園の頃に【ユメリルナ】が縁で、長きに渡り同担として親交を深めてきていた。


 この日は、お昼休みになった私は、いつものように部室へ向かって廊下を歩いていた。


 現在のアニメ研究部は二人だけだが、狭いながらも部室は存在する。

 あー、今は笠森くん一人になっちゃったけど…。

 本来、部員が少ない部活は、空き教室をシェアしての活動が多い。

 三年になり笠森くんが部長に就任すると、理由は詳しくは知らないが、教材等の準備室だった部屋を与えられたのだ。

 それからは、お昼休みになると私と笠森くんは、部室に集まるようになっていた。


 「おぉぉぉいっ!!夢那さぁぁぁぁんっ!!早く早く!!」


 部室から半分くらい身体を出した笠森くんが、部室に向かって廊下を急ぐ私に向かい叫んでいる。

 笠森くんとは同級生だけど、一度も同じクラスにはなった事がなかった。

 因みに、先に部室に着いた方が鍵を開けるルールになっていたが、部室が私のクラスから近いのもあり、ほぼ私が鍵を開けていた。


 この時は、珍しく笠森くんが先に鍵を開けていた。


 「ハァ…ハァ…。今日は、笠森くん…早かったね?」


 「うん。今日は…さ?ゆ、夢那さんに、た…た…頼みたい事があるから…ねっ?」


 急いで廊下を歩き、ようやく部室へ辿り着いた私に対し、笠森くんは不敵な笑みを浮かべそう言ったのだ。

 笠森くんが、私に対して頼みたいこと…。

 大体、想像はついた。


 「また、コスプレ…すれば良いの?」


 ──カチャッ…!!


 部室のドアの鍵を笠森くんがそっと掛けた。

 通常、使用中の部室のドアの鍵は、中に人が居なくなる場合を除き、掛けない決まりになっている。

 以前、部室に鍵を掛け逢瀬を愉しむ事象が横行していたという背景がある為だ。


 「うん。夢那さんに…このコスを試してもらいたくて!!」


 「ええっ…?!無印版で最終回前に一度だけ登場した【ユメリルナ】の“完闇堕ち”フォーム!?」


 布切れ、いや…ボロ雑巾のようなものが笠森くんの持つトレイの上に乗せられており、流石の【ユメリルナ】“神推し”な私ですら、辛うじてウイッグに着くアクセサリーで判断が出来ただけだ。


 「ふっふっふっふっ!!その通りだよ!!際どすぎるコスチューム故に無印版放映以降、リメイクでは全カットされてしまっている“完闇堕ち“フォームさ!!無印版がビデオ化される際も、カットされているからねぇ?」


 まさに笠森くんの言う通りで、その放映回を私がリアタイで見たのは幼稚園の頃。

 放送内容的にはかなり朧げな記憶ではあるが、【ユメリルナ】の“完悪堕ち”フォームについては、殆ど裸に近い格好だったのは、今でも目に焼きついている。


 「あ、あの…ぉ。笠森…くん?わ、私…今から“完闇堕ちフォーム”姿になるのぉ?!」


 「うんうん!!僕が、規律違反とは知りながらも…鍵を掛けたのは、夢那さんが生着替えするからに決まってるだろう?」


 そう…これは、最近のいつもの流れだ…。

 中等部の三年になり、アニメ研究部の部室を与えられ暫く経ったある日だった。

 放課後の部室で笠森くんは、私の目の前で突然土下座を始めた。

 そして、私に【ユメリルナ】の通常フォームのコスチュームを見せ、「夢那さんなら、近い背格好だから絶対に似合う!!頼むからコスプレして欲しい!!」と懇願してきたのだ。


 実は…私。

 幼稚園で笠森くんと出逢った瞬間、一目惚れだった。

 それから、笠森くんへの【好き】が誰にもバレないようにしながら、一方的に片想いを続けてきている。

 だから、側にいてくれるだけで、私にとっては至福の時が訪れる。


 「イエス、ユアハイネス!!今、着替えてみせるから、そのコスチューム貸して?」


 故に…私は、笠森くんの言うことのついては…絶対遵守するのだ。


 「僕は…ルル○シュか?!まぁ、はい…これ。無理なら無理って言ってくれよ?」


 コスチュームの乗ったトレイを受け取った私は、制服のブラウスの裾に手を掛け、勢いよく脱ぎはじめた。


 ──パサッ…


 部室にあるソファの背へ向かい、私は脱いだブラウスをそっと投げた。


 「早くしてくれよ?昼休みの時間は、短いのだからな?」


 ただの三次元の女子のブラ姿には、笠森くんは興味がないご様子でピクリともしない。


 次に私は、制服のスカートのホックに手を掛けて外しにかかった。


 ──パチン…!!ジジジジィィィィッ…!!


 内心では、死んでしまいたいくらい恥ずかしいのだが、“神推し”が私に直々にご所望なのだ。


 ──バサッ…


 ホックとファスナーの外れたスカートは、私の身体から離れ部室の床の上へと落ちた。

 もう私の姿は、ブラとショーツと靴下だけとなっていた。

 ふと、トレイの上のコスチュームを手に取って見ると、布面積がほぼ皆無な下着の上下セットだった。


 「あ…あのっ!!い、今から、私…下着脱ぐから…。」


 「うむ!!お構いなく!!」


 これまでコスチュームは幾度となく着させられたが、下着だけのコスチュームは一度もない。

 しかも、笠森くんの目の前で下着を脱ぐのは、当然ながら初めてなのだ。

 それを、簡単にお構いなくと言われてしまった。


 「そうだ…。脱ぐついでなんだが…な?女性の身体ってやつ、僕に確認させて貰えないか?」


 この時、私は…違和感を感じた。

 ポーカーフェイスを装っているが、笠森くんは三次元女子にも少しは興味が…脈がありそうだと。


 ──パサッ…


 「いや…やっぱいい…。は、早くっ…!!コスチュームに着替えてくれよぉ…!!」


 下着を脱いだ私を見た笠森くんは、顔を耳まで真っ赤にして反対側を向いてしまったのだ。

 それは、私の違和感が、確信に変わった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ