017.二次元オタクな双子兄弟と双子姉妹・前編
五月十四日、夜────
〜夢薫目線〜
「うわああああんっ…。うわああああんっ…。」
「ヨーシヨシヨシヨシ…。夢那?お姉ちゃんが居るから、もう泣くなよー?」
コンビニからそんな遠くない公園のベンチまで、悠斗が靴を履いていない夢那をおんぶして、連れてきていた。
ここは、幼少期の夢那にとって思い出の公園なのだと、うちの使用人の方から横を車で通過する度に聞かされていた。
「僕の家から、ここの公園…さ?割と近かっただろ?」
「確かに…!!悠斗の家から…五分くらいの距離だったよね?」
位置的には、悠斗の家、今居る公園、コンビニ、夢那の泣いてた暗がり、みたいな感じだ。
だから、コンビニとは逆方向に、悠斗の家方向へと五分程度戻った感じだ。
「夢薫には…まだ、言ってなかったよな?僕さ…?幼稚園あがる前、この公園で…仲良くなったユメちゃんて…僕が勝手に呼んでた女の子と、初キスしたんだ。」
「えっ…?!いま…笠森くん…な、何て…?」
それまで大泣きしていた夢那が、ウチより先に驚きの声をあげた。
「ユメちゃん…って、言ったんだ。あの時の夢那さんは…自称【ユメリルナ】だったから…な?だから、僕はユメちゃんって呼んでただろ?」
「ううううっ…。もうっ…私の頭の中、色んなこと…嘘なのか本当なのか、わかんないよぉ…。いやああああっ…!!」
半狂乱に陥ってしまい、一卵性双生児の姉のウチでさえ、夢那に手がつけられなかった。
絶対に、悠斗が保護する直前に…夢那の身に、何かあったに決まっている。
「僕が…ユメちゃんに、嘘ついたことあったか?僕ら、あの日…この公園で、ユメちゃんの使用人の方と、僕のお母様をうまく撒いて…トイレの個室で…キスしただろ?もう…ユメちゃん、忘れちゃったかな?」
そんな話、ウチ…知らないんだけど…。
そっか…うちの使用人の方は夢那が悠斗にキスされたなんて微塵も思ってないから、美談的な話し方してるんだ…。
〜夢那目線〜
雅幸と買い物デートの後、雅幸の住むアパートへ戻ってきた私達。
そこで共に暮らす、雅幸のお母様が出掛けた夕食後、雅幸に床へと押し倒された。
ハジメテしてもいいかって雅幸に言われて、確かにいいと言ったのは私なので…不同意ではない。
そこで、私はいきなりは嫌だと言ったのに、雅幸はいきなりが良いんだと言い出した。
そして、雅幸は無理矢理…私のハジメテを奪おうと近づけてきた。
なので、精一杯の力で暴れて雅幸を押し退けて…そのまま部屋から逃げてきたのだ。
いきなりが良いと言った雅幸の顔は、この数日間の中で見たこともない表情をしていた。
だから、私はとても恐怖に感じてしまった。
数時間前まで、二人で…あんなに楽しい時間を過ごしたのに…。
結局は、私の身体が…ハジメテを奪うことが目的だったんだって…思わざるを得なかった。
雅幸の部屋の玄関で見つけた、まさに今居る…この公園で…私と写っている写真についての話も…笠森くんの正体は雅幸だったという話も、嘘で固められていたようだ。
公園のベンチには私と…夢薫ちゃんが並んで座っているが、目の前には笠森くんが真剣そうな表情で立っている。
それに、私のことユメちゃんと呼んでいたのは、後にも先にも…あの頃の笠森くんだけだ。
「忘れてなんか…いないよぉ…。だって…私、笠森くんのこと、ずっと【好き】だったのにぃ…。うわああああんっ…。」
「実は…さ?僕も…なんだ。幼稚園でユメちゃんを見つけた時、滅茶苦茶嬉しかったんだからさ…。でも、あの時の写真どこか無くしてしまって…。見せてあげること出来ないんだ…本当にゴメン。」
やっぱり相思相愛だったんだって思ったら、この現状に対して、余計に悲しくなってきた。
しかも、あの写真は何で雅幸が持っているのかが謎になった。
でも、笠森くん…ありがとう。
私は…さっき見たから、大丈夫だよ?
「ちょっとちょっと!!感動の再会は良いんだけど…さぁ?今、ウチと悠斗、親公認の許嫁になってるんだけど!!」
「はぁ…っ!?」
思わず声が出てしまったが、ショック過ぎる。
お姉ちゃんが笠森くんの許嫁?!
しかもパパ公認って…どう言うこと!?
「そもそも夢那が悪いんだからねー?アニメ研究部の部室でー?悠斗に裸の写生させる約束しちゃったから!!」
その話が出た瞬間、一瞬で私は凍り付いた。
「ああああっ!!え…っ!?な、何故、お姉ちゃんが…そ、その話を?!」
「ウチが夢那の身代わりになってあげたんだから、感謝してもらいたいものね?ユ・メ・ちゃん?ふふふふっ…。」
不敵な笑みを浮かべたお姉ちゃんを見た瞬間、私は全てを察してしまった。
こういう時は、お姉ちゃんが悪巧みをした時だ。
それに、笠森くんは俯いたまま、何も言わずに立ちすくんでいる。
「やっぱり歳頃の男子は、ああいう視覚的な刺激に弱いのね?興奮しちゃって…違う意味の写生をね…ウチの身体にされちゃって…。ウチの大事なところに…それが伝って入ったみたくて。当然、両家の親同士の問題に発展して…ウチらは許嫁になったの。」
「ええええっ?!笠森くん…【ユメリルナ】以外でも興奮したんだぁ!?」
それを、私は身をもって実験する筈だった。
結果的には、その時の相手がお姉ちゃんではなく、私だったなら…写生の次のステップとして計画していた、合体実験もしてたと思うし…。
笠森くん的に言うと、とても惜しいことをした感じだろうか。
「そりゃ…目の前に、ユメちゃんそっくりな子が…裸で居るんだぜ?しかも大事なところ見せつけてきてさ…?そんなの、僕が…興奮しない訳ないだろ?マジで、あれは反則だって…。」
「惜しかったなぁ…笠森くんっ!!ふっふっふっふっ…。あの写生の話には実は…続きがあったのだよっ!!」
「夢那、まだ何かしようと思ってたの?!」
絶対、今は続きは言わないけど。
笠森くんと…付き合えるチャンスが今後あれば、結婚後とかに…笑い話として話す事もあるかもしれないけど。
「でも、やめとくね?笠森くん、私の彼氏じゃないし…。」
「おーい!!夢那ああああっ!!さっきはゴメンなああああっ!!どこにいるんだああああっ!!」
そんな時だった。
夜の静かな住宅街に、大きな声で私を探す声が響き渡ってきた。
〜夢薫目線〜
「ねぇ…?この声…悠斗の声にそっくりじゃない?」
「ゆ、夢那…?なあ…?ま、まさかとは思うけど、さっき泣きながら歩いてきた理由って…この声の奴が原因か?」
自分と同じ声が聞こえてきているのに、悠斗は凄く冷静な表情のまま、夢那を問いただしている。
あたかも、その声の主が誰か知っているような素振りで。
「う、うん…っ。」
「そいつ、歳は僕と同い年で、同じ顔、同じ背丈、同じ声してるだろ?」
淡々と悠斗は、相手の特徴を語ったのだが、それはどう聞いても…ウチら姉妹とも共通の特徴、一卵性双生児という事を示していた。
まぁ…悠斗が惚れるような相手を、双子の兄弟が惚れない筈もない。
ウチがそのパターンなのだから、声の主もそのパターンなんだろうと察した。
「うん…。」
「はぁ…。僕の双子の兄貴、雅幸か…。」
そう言うと、悠斗の姿はウチらの前から消えており、公園の入り口の方へ向かって走っていっていた。
「まああああっ!!」
すると急に悠斗が暗闇に向かって大声をあげた。
「おっ!?ゆううううっ?!なのか…?」
それに呼応するかのように、同じ声を響かせながら公園の方へと近づいてきた。
──ガシッ!!
丁度、公園の入り口辺りで、同じ背丈の人影が抱きしめ合ったのが、何とかこちらから確認出来た。




