014.初キス相手の二人はハジメテしたい・前編 〜夢那〜
五月十四日、昼休み────
「全くもーっ!!アンタ達さぁ…?アタシらの前で、くっつき過ぎじゃない!?」
昼食後、いつもの溜まり場で、雅幸を中心とした私達四人組は談笑しているところだった。
私と雅幸は同じクラスの隣同士だが、美伶奈さんと健太朗くんは二人とも、隣のクラスなのだ。
だから、普段の休み時間は私と雅幸は、自席で大人しく会話しているのを知らないらしい。
「じゃあ…美伶奈さんと健太朗くん、付き合っちゃえば良いじゃないですか!!」
溜まり場で時折、美伶奈さんが健太朗くんの方をチラッチラッと見る目は、どうみても好意があるようにしか見えなかった。
「あの…っ。」
「オイオイオイオイッ!!夢那ちゃん?!今の冗談、マジキツイぜ…。」
やっぱり…。
私の言葉に続いて、美伶奈さんが何か言いかけたが、健太朗くんが喋り出してしまい、黙ってしまった。
「俺は、夢那の意見に賛成だ!!お前達、お似合いのカップルになれると思うけどなぁ?」
健太朗くんの配慮のない言葉で、最悪な流れになりかけていたが、雅幸の機転で少し流れが良くなった気がした。
「あー雅幸、バカ言うなよ?俺が、こんな日焼けギャル、興味あると思うかー?まぁ、色白ギャルなら…ちょっとは考えてやってもいいぜ?」
日焼けしたギャルではなく、日焼けしてないギャルには興味あるってことは…。
まさか、健太朗くんが…美伶奈さんには興味あるって事を意味しているのでは…等と、私が考えを巡らせていた。
「もういいよっ!!私の…負けだよ!!バカ健太朗!!色白にでも何でもなってやるよ!!だから…女作らずに、首洗って待ってろよなっ!!」
だがそれも私の杞憂だったようで、ホッとした。
結局、二人は好きなもの同士だったみたいだ。
「ほれ見い!!健太朗のバカ!!言わんこっちゃないだろ?にしても、夢那?よく二人が付き合いそうって、分かったな?」
「最近の健太朗くん…。美伶奈さんの胸とか太ももの辺り、ガン見してたんで…。」
本当に、かなりの頻度でガン見だった。
あれを気付かない人なんて居るんだろうか。
「修学旅行もあるしさ?とりあえず、お前ら仮でもいいから、この前の俺らみたくさ?付き合っとけよ?修学旅行前後で美伶奈に告るヤツ出てくるかもしんねぇからよ?」
昼休みが終わり、午後の最初の授業が終わった頃には、私達のクラスにも、“隣のクラスのオタクの山田と、ギャルの大石が付き合い始めたらしい。”と噂が流れてきた。
修学旅行を来月に控えているので、雅幸の言葉が二人の心に響いたのかもしれない。
放課後───
アニメ研究部が借りている教室で、私は【ユメリルナ】のコスプレを披露していた。
それは、あの日…悠斗くんに言われるがまま、着させられてしまった“闇完堕ち”フォームの衣装とウイッグを家で洗おうと、私は通学バッグに入れていた為、奇跡的にだ。
因みに言うと、アニメ研究部は部長の雅幸と、最近入部した私だけなのだ。
「なぁ…夢那?今夜、俺の家で飯食ってかないか?」
2.5次元の【ユメリルナ】を目の当たりにしても、雅幸にとっては【ユメリルナ】は【ユメリルナ】、私は私のようなので嬉しい。
「え…?!雅幸のお家に…私、お呼ばれされてもいいの!?」
「ああ。誰に何て言われようが、夢那は俺の彼女だからな?あと、それに明日は土曜で休みだしさ?良いだろ?」
「うんっ!!ありがとう。」
ここまで言ってもらっておいて、行かないわけにはいかない。
でも…明日は土曜で休み、という雅幸の言葉が気になってしまった。
「あの…ね?今日、お着替えとか…持ってきてないんだけど…。」
「ん?大丈夫だって。飯食うだけだからさ?ああ、変に気を遣わせちまったな。ごめんな?って…言うかさ、もう帰ろうぜ?」
つい…浮かれた私は、その先を想像してしまっていた。
でも、まさか…あんな事態になるとは、この時の雅幸は予想もしなかったと思う。
「あはは…。そ、そうだよね…!!帰ろう帰ろう!!」
三十分後───
【ユメリルナ】の衣装から着替えた私は、雅幸と一緒に二十分程前に学校を後にしている。
そして、暫く通学路を歩き続け、ようやく雅幸達母子が住むアパートの前まで辿り着いた。
「ここが、俺と母さんが住んでるアパートなんだけどさ…。」
「なんかさ、私とママが住んでるアパートみたいな感じだね?」
食べるだけって言った理由が、分かった気がした。
恐らく、同じ感じの間取りなんだろうなと。
「ああ…。確かに…言われてみれば、夢那の部屋行った時、凄く既視感あったわ…。」
「でもね?私、すっごく嬉しいよ?だって…初めて彼氏の家に招待されたんだもん!!」
「スマン…。俺は初めてじゃなくて…だな。まぁ…ここで話すのも、な?部屋行こうぜ?」
これだけイケメンなら…彼女が居なかった方がおかしいくらいだ。
でも…凄く、今までの彼女に嫉妬してしまった。
初めてが私なら良かったのに…って。
「うん…。」
本当なら嬉しいはずなのに、モヤモヤしながら雅幸の後をついていく。
外階段を上がり、二階上がって直ぐの部屋の前で、雅幸が立ち止まった。
──ガチンッ…!!ガチンッ…!!
──ガチャッ…
「ほら、この部屋だ。まぁ…狭いけど入れよ?」
──ギィィッ…
そう言うと雅幸は、玄関のドアを手前へ引いた。
「お邪魔しまーす…。」
やっぱり、似た間取りの部屋だった。
玄関を入ると、キッチンと水回りの部屋だった。
部屋の突き当たりに引き戸が見えた。
靴を脱いで、土間部分から部屋に上がろうとした時だった。
「えっ…!?」
思わず、玄関入ってすぐ横にある、下駄箱の上に置かれた写真立てに釘付けになった。
──バタンッ!!
「ん?どうした?」
「この子、笠森くん…だよね?」
「お?!何故…夢那、その名前知ってんだ?」
「だって…。笠森くんと手を繋いでる隣の女の子、私だもん…。」
そう、玄関の上に置かれた写真立てには、よく使用人の方に連れて行って貰った公園をバックに、幼稚園に上がる前の私と笠森くん、あと…笠森くんのお母さんが映っていた。
確か…あの時、笠森くんのお母さんがカメラを持ってて…記念にって言って、撮ったような。
「マジかよ!?夢那だったんだ…。逢う度、自分のこと【ユメリルナ】って言ってたよな?しまいには…大人の目を盗んで、キスしたりしてさ。」
「え…っ?笠森くん…だよね?この男の子。」
確かに…笠森くんと、あの公園で初キスしたのは覚えている。
使用人の方と笠森くんにお母さんを二人で振り切って…隠れて。
でも、何故?
あたかも雅幸が、自分の事のように語っているのが、怖かった。
「今は、母さんの旧姓で、海野雅幸だけどさ…?俺、この頃までは…あまり言いたくないんだが、笠森雅幸だったんだ…。これで、良いか?」
「ええええっ!?じゃ…じゃあ。昼陽学園の幼稚園から私とずっと一緒だった…【ユメリルナ】“神推し”の笠森くんは、あの時キスした笠森くんとは別人だったってこと?!」
何故か、はぁ…と雅幸が呆れた様子で、ため息をついた。
「ああ…あのバカ野郎…。完全に理解したぜ?そいつの名前、悠斗じゃないか?」
「そう…だよ?何で分かるの!?」
「悠斗は…俺の一卵性双生児の弟だからだ。俺の真似して…夢那に近づいたのかっ!!全く…あのバカ野郎、何考えてやがるんだ…。」
ここでハッキリしたことは、目の前にいる雅幸が私の初恋の相手で、初キスの相手だってことだ。
でも…どうして弟の悠斗くんは、何故私が【ユメリルナ】が好きなこと、幼稚園で出会った時、開口一番で言えたのだろうか…。
それにしても、雅幸が悠斗くんに何となく似てると思って…代わりでもいいって思ってたなんて、もう…絶対に言えない。




