013.初めて同士の二人はハジメテしたい・前編 〜夢薫〜
五月十四日、朝────
「今日のお昼休みは何するの?」
朝食後、ウチは悠斗くんとインスカでビデオ通話するのがここ数日続いている。
決して、ウチの方から求めた訳ではない。
──「えっと、部室で[聖皇女アルリス]でも観ないか?」
「[聖皇女アルリス]って…ウチらが小さい頃やってたアニメだよね?」
──「うん。でも、【ユメリルナ】のコスを夢薫さんがする以上、[聖皇女アルリス]観て勉強して貰わないとな?」
朝から、悠斗くんとビデオ通話するのは凄く嬉しい。
でも会話の内容は、付き合いたての恋人同士がする…ドキドキするものではなく、オタク趣味全開な悠斗くんの話に付き合う感じだ。
「そう言えば、明日は土曜日だよね?もう予定とか…入ってるよね?」
──「急に話、変えたよな?てことは…今日は金曜なのか?!早いな…。明日は特に…用事ないけど。」
「じゃあ、明日…ね?うちの家か…悠斗くんの家で、ちょっとだけ…エッチな事してみない?父親同士公認の許嫁なんだし…。」
この頃のウチは、とにかく…悠斗くんの事に関しては、凄く敏感になっており焦ってもいた。
早く彼の頭の中から…二次元オタクな夢那の存在を、うちで上書きして消し去りたかった。
──「え、エッチなことって、な…何だよ?」
正直言って、一蹴されるかと思っていたので、急にドキドキしてきてしまった。
よく考えてみたら、ウチら二人は初対面でかなりエッチなこと経験済みだった。
「お互いを…触ったり、とか…エッチじゃない?」
──「ま、マジで言ってるのか?!」
打倒夢那を掲げているウチには、迷いなんかない。
勿論、触れ合っているうちに、歯止めの効かなくなった悠斗くんが…を狙っている。
そこで既成事実を作ってしまえれば、こっちのものだ。
「だって…悠斗くん…。もう、ウチの大事なところ…見てるから、詳しいでしょ?」
──「ま、まぁ…な。拝ませては貰ったな…。」
「だから…。次のステップ…進んでもいいかな…って。ダメ…かな?」
そう…次のステップでは、ウチは悠斗くんに初めてを捧げたいって思ってる。
さっきの既成事実を作るとなれば、必然とそうなる。
もし上手くことが運ばず、初めては捧げられなかったとしても、今以上の関係にはなりたい。
悠斗くんが夢那と連絡の取れない、今の状況しかチャンスはない。
──「そうだなぁ…。夢薫さんからの提案だし…な?ぼ、僕は、尊重したいとは思うんだが…。あのさ…確認させてくれっ!!ほ、本当に…僕が夢薫さんの許嫁で良いのか?」
なんて返せば…この場合、良いんだろうか。
素直にウチの気持ち…吐き出してしまいたい。
でも、拒否されたらと思うと、怖くてたまらなくなった。
ふと、夢那が悠斗くんとエッチしてる光景が頭を過ぎった。
「うん…っ!!逆に…悠斗くんじゃないと、ウチはもう…ダメなのっ…!!」
──「んっ…。ま、マジか…。」
ウチの言葉を聞いて一瞬、ゴクリと唾を飲み込んだ悠斗くんの姿が、スマホからでもよく分かる。
「い、一日中…悠斗くんの側に居たいの!!」
──「わ、分かったよ…。じゃあ…さ?今日の帰り…ぼ、僕のうちに、夢薫泊まり来れる…か?」
明日、どちらかの家でエッチな事してみたい、という話だった筈が…急に、今日悠斗くんの家でお泊まりという話へ飛躍した。
しかも…ウチのこと夢薫って呼び捨てしてきた。
【ユメリルナ】にしか興味を示さない筈なのに。
ま、まさか…?!
ウチに【ユメリルナ】のコスプレをさせた上で、2.5次元の【ユメリルナ】に対して、エッチなことしようとか考えてたりして。
「今、ウチのこと夢薫って呼んでくれたんだぁ!?ウチ、すっごく嬉しいよ?悠斗っ!!」
──「おう…。それで、泊まり来れるのか?夢薫はさ。」
嬉しいって言ったのに、悠斗の反応は薄かった。
しかも、呼び捨てで名前を呼び返してあげたのに。
「絶対行く!!じゃあ、今日はウチ…悠斗と一緒に帰れるんだよね!?」
──「当たり前…だろっ?こ、今夜はな…っ!!ゆ…夢薫のこと、寝かさないからな!!」
ヤバい…。
今の悠斗の言葉で、胸が…ドキドキしてきた。
下腹部辺りが…キュンとなった。
「うんっ!!楽しみにしとくね…?それじゃあ、今夜の支度しないとだから…また学校でね?」
──「おお…。そうだよな、夢薫は着替えとか…支度しないとだったな。じゃあ、また学校でな?」
──ピロッ…
テレビ通話を切った途端、徐々に現実味が増してきた。
何も考えてなかったけれど、今日か明日がウチらの記念日になるかも知れないんだ。
まだ、二人は出逢って三日しか経ってないのに。
好きになるのに期間は関係ないって言うけど…実際、自分がそうなるなんて思いもしなかった。
──コンコンコン
「はーい?」
「夢薫様。今晩、お持ちになられるお召し物、お選びしますか?」
声の主は、我が家の使用人の紀江さんだった。
ママが家を出てからのここ数日、色々と恋愛とか服装とか…紀江さんに相談に乗って貰っていた。
ウチとは仲良しの綺麗なお姉さんだ。
──ガチャッ…
「お部屋、入ってー?って…。」
こんな感じで、私が言う前には部屋に入り始めているのが普通になってきた。
「はーいっ!!紀江に逢えなくて、寂しかったですかぁ?それともぉ…?悠斗様とぉ…ラブラブでしたぁ…?」
絶対、紀江さんは…部屋の外から聞いてるのはわかってる。
じゃなきゃ、開口一番で…今晩お持ちになられるって、言うはずがない。
それをパパに情報共有するのが役目なのかなぁ…。
でも、ママも…妹の夢那も…不在の今、年齢の近めな同性で頼れるのは紀江さんだけだ。
「あのぉ…?最終確認ですが、悠斗さまは…童貞なのでしたよね?」
「うん…。幼稚園時代から、夢那狙ってたみたいだけど…。」
「そんな事、夢薫様は気に病むことは無いですよ?恋愛なんて、期間の濃さではなく内容の濃さです。極論言いますと、相手を好きにさせた者勝ちですからね?ですが、極力…恋敵に恨まれないようにしなければなりません。最悪、後ろからブスッとされる事だってありますので。」
これから私がやろうとする事を、いつも紀江さんは否定しない。
その代わり、やろうとする事へのリスクについての忠告もしてくれるのだ。
「私の恋敵は…妹…夢那。一卵性双生児だから、好みのタイプは…怖いくらい似てるのね…。まさか、あんな二次元オタク…好きになるなんて…。」
「仕方のないことですよ。それだけ悠斗様には、夢薫様達を惹き付ける、不思議な魅力がおありなのでしょうね?はい、それでは本題です。お二人はハジメテしたいのですよね?悠斗様は、どれくらいなのですか?これ…くらい?」
何だろうこの落ち着いて聞ける感じ。
悠斗のことまで持ち上げてくれている。
でも、急にリアルな話をぶっ込んできた。
流石は出来る使用人の紀江さんだ。
「これくらい…の…これ…っくらい?かな。」
「ええええっ?!だ、大丈夫でしょうか…?そんな大きさ…っ。あっ!?失礼しました…取り乱してしまいました。私が、夢薫様と同じ状況では、いきなりでは…躊躇いますね。これから、学校に着くまでの間で、作戦会議しましょう。」
やっぱり…。
初めてその姿を見た時は、悠斗もお年頃だし…普通なのかなと思っていた。
でも、色々…ハジメテを経験済みな取り巻きの話を聞いていると、あの姿は普通ではなさそうな気はしていた。
三十分後───
あれから今までの短い時間の中で、ウチは紀江さんから、今晩使える様々なテクニックを教え込まれた。
絶対に、ハジメテするなら、使わなければいけないテクニックから優先的にだった。
「では、夢薫様?そろそろ学校へ行く時間のようですね…。時間が勿体無いです、早く車へ向かいましょう!!」
滅多に送迎時には同行しない紀江さんが、車内まで同行してきたのだ。
本当に今晩…ヤバいのかもしれないと、不安になってきた。




