011.ビジネス彼氏のハズだったのに・前編 〜夢那〜
五月十二日、早朝────
昨日は色々あって、ビジネス彼氏だけど…雅幸と付き合い始めた。
イケメンな外見とは対照的に、アニメ研究部の部長ってところが…笠森くんとは被るけど。
でも一番違う所は、私への【好き】な気持ちを素直に伝えてくれること。
だから、本当に…私になんか勿体無い彼氏なんだ。
五時ごろ目が覚めてしまった私は、天井を見ながらそんなこと考えていた。
ふと目線をずらすと家の中は、相変わらず殺風景。
とりあえず、部屋の中が丸見えだった為か、カーテンだけはママが買って取り付けたみたいだ。
──ヴヴッ…ヴヴッ…
枕元に置いてある私のスマホが、二度震えた。
こんな朝早くに…誰だろう?
そう思いながら、手を伸ばす。
──タンタンッ…
カーテンの閉じた薄ら暗い朝の部屋で、スマホの画面をタップする。
すると、スマホの画面から光が溢れ、朝の部屋を照らす。
──『新着メッセージ:雅幸 からのチャット』
──タンッ…
ビジネス彼氏の雅幸からだった。
次の瞬間、指が勝手に動いていた。
気付けば私は、スマホの画面の新着通知のポップアップをタップしていた。
──『夢那、おはよう!!』
──『今日の朝、家まで迎えに行くからな?大人しく待ってろよ?』
家の場所も知らないのに、迎えに行くってと一瞬思った。
ああ、そうじゃない。
私がの方が忘れていただけだった。
それは、昨日の下校時の事。
突然、雅幸が家まで送ると言って聞かず、アパートの前まで着いてきたのだ。
転入二日目にして、付き合って二日目の同じクラスで隣の席のイケメン彼氏と一緒に登校するのだ。
考えてみただけで、美少女アニメの神展開過ぎてゾクゾクしてくる。
何か返信しなければと、スマホのインスカのチャット画面と睨めっこしている。
──ヴヴッ…
──『俺は…夢那のこと、大【好き】だから迎えに行くんだからな?』
「えっ…!?」
思わず大きな声が出てしまった。
私のこと、雅幸は…大【好き】なの?!
お年頃の私が、異性から大【好き】だなんて言われて、嬉しくないはずがない。
しかも、私の彼氏になった…雅幸からだ。
「ん…っ…。夢那…?まだ…時間早いでしょ?ふあぁぁぁ…っ。」
一度でいいから…笠森くん、君の口から言われてみたかった。
そう思ったら、目から温かいものが溢れ出てきてしまった。
「うん…。ごめんなさい。ママは…まだ寝てて?」
私の大声で起きてしまったママには、見られたくなかったので、謝りながら背を向けた。
でも…もういいんだ。
雅幸からのチャットで、私の中で踏ん切りがついた。
笠森くんが与えてくれないものを、雅幸は私が言わなくても、そっと与えてくれる。
だから、雅幸の彼女で居る間だけ、君のことは忘れさせて貰うね…?
これから、雅幸が私にくれる幸せや喜び、そして【好き】な気持ちを…胸いっぱい受け止めて、青春も恋愛も精一杯頑張ってみたいから。
──タンタンタンタンタンタンタンタン…
心置きなくチャットの内容を…文字を、選ばず打ち込める。
幼稚園の頃からの長きに渡る呪縛から…解き放たれた感じがする。
──『雅幸、おっはよー!』
──『私も…【好き】!!だから、大人しく待ってるねー?』
そう言えば、雅幸の家のこと…まだ聞いてなかった気がする。
呪縛によって、知らぬ間に心の隔たりを作っていたのかもしれない。
それはつい先程までの私の話だ。
これからは違う私になるんだから…。
一時間後────
昨日に続き、幸さんの部屋でママと私は朝食を頂いている。
少しお気付きかも知れないが、部屋にある布団は幸さんから…来客用の布団一式を一つ譲ってもらったものだ。
セミダブルサイズなので、それ程背の大きくない母娘なので、二人で寝れた。
ただ…寝れるというだけで、幅には余裕がない。
二人の仲が悪くなったら、どちらかだけで使うことになるのは目に見えている。
あと…どちらかが不在時、彼氏等を連れ込んでのエッチは…あの布団の上では出来ないだろう。
自分だけが布団を使うならまだしも、二人で一緒の布団で寝るのだ。
だから、絶対にそれは嫌だ。
私は…そんなことないと思うけど、ママは…大人だし…そういう機会、あるかもしれない。
「ママ…?今日、ね…?あの…か、彼氏が迎えに来るかも…。」
「わぉ!!青春だねー!!良いじゃん良いじゃん!!」
ママより先に、幸さんが声をあげて喜んでくれた。
「例の…夢那が小さい頃結婚したいって言ってた、あのアニメオタクの悠斗くん?」
「ううん…?もう…学校違うし…。絶対、迎えに来てくれる筈ないし。私が【好き】なこと知らないと思うし…。その話はもう…おしまい!!初めての彼氏なんだよねー。しかも、パパと同じで…ママと幸さんの母校、賎宮中の子なんだよ!!」
早速、君の名前がママの口から出たけれど、もう名前…聞きたくなくて、まだ終わってないけど…終わったことにした。
ここでパパの話するのもなと思ったけど、当時のママはパパと愛し合ってたと思うから…良いかなと思って引き合いに出した。
「そっか…。あの男の子とは、終わっちゃったんだ。夢那、辛かったんだね。今夜は、幸のおごりで女子会だな!!それはそうと、彼氏はなんて名前なの…?」
──ポンッ…
──ナデナデ…ナデナデ…
「えー?またぁー!?私負担なのぉー?!って言うか…そうだそうだ!!聞きたい聞きたい!!」
ママが私の頭に手をのせると、優しく何度も撫でてくれた。
実は私、大人女子達との女子会は…初めてかもしれない。
なんだかんだ言って、ここ数日幸さんの金銭的負担は大きいと思うけど…大丈夫なのだろうか?
「あとで…来たら、ママと幸さんの前で自己紹介して貰うから…それでいい?」
雅幸、本当にゴメン。
三十分後───
部屋へと私だけ戻り、制服へと着替えていた。
家では、昨日学校から後日支払うと約束し、受け取ったジャージを着るようにした。
下着の上にジャージなので、着替えるのも楽だ。
──ヴヴッ…
床に置かれた私のスマホが震えたので、画面に目をやった。
──『新着メッセージ:雅幸 からのチャット』
躊躇なく私はスマホを床から拾い上げると、画面に映る、インスカの新着通知に指を伸ばす。
──タンッ…
──『お待たせ。アパートの前来たぞ?』
本当にゴメン!!
──タンタンタンタンタンタンタンタン…
──『じゃあ…部屋まで来て?』
──ヴッ…
騙すつもりじゃないんだけど…。
雅幸は自分のことを、私のビジネス彼氏だと思ってるのだろうか?
そう考えてしまうと、罪悪感でいっぱいになる。
でも、気付けば雅幸を呼び出す内容でインスカのチャットを返信していた。
「もしかして、夢那の彼氏くん…かな?」
「キャー!!滅茶苦茶、イケメンくんだぁ!!って…ゆ、夢美!!こ、この顔…って!!」
部屋の外から、ママと幸さんの声が聞こえてきたのだが、幸さんの驚いた声と共に…急に二人の声が聞こえなくなった。
──ガチャッ…
「ママ!!どうしたの!?」
慌てた私は、鍵の掛かっていない玄関のドアを開けた。
そこには深刻そうな顔をした幸さんと、俯いたままのママがいた。
「ねぇ…?君のお父さん…って、何て名前なの?」
「小さい頃、母さんが離婚しましたので…。俺には、父と呼べるような人は居ませんね。それからずっと、俺は母子家庭ですから。」
はぁ…とため息をついて、雅幸はママと幸さんの方をしっかり向いて、淡々と話してくれた。
「いきなり、ごめんなさい…。幸、そんなこと聞いて失礼だよ…。夢那の彼氏くんに謝って…。」
「いいえ。俺は、平気です!!きっと特別なご事情、おありなんですよね…?ですが…母さん捨てて、家から追い出した奴のことは…。もう、思い出したくもないので。こちらこそ…お役に立てず、すみません。」
凄く紳士な雅幸の姿をみて、私は胸打たれてしまった。
それと、雅幸の顔を見ていたら、急に胸がドキドキし始めてしまった。
これから、中学まで二人で一緒に行かなければいけないのに…。




