001.君の“神推し”になりたくて・前編
七月二十五日、九時────
昨日の夜のことだ。
少し早いけれど、ベッドの上で寝転んだ私は…眠ろうとしていた。
そこへ突然、枕元に置いてあるスマホが鳴った。
友人からかと思い、スマホの方に顔を向けた。
すると画面には、SNSアプリのInstant Calleeから、君からのチャットが来たという、新着通知のポップアップだった。
──『夜遅くにゴメンな…?明日の十時、いつもの公園に来れるか?大事な話があるんだ。』
もう、ベッドの上でウトウトし始めていた私だったが、飛び起きた。
まずは君へのチャットに返事をした。
そして、本日二度目のお風呂場へと向かって、自分の部屋を出た。
我が家の使用人の方に頼んで、お風呂のお湯を沸かしてもらった私は、明日の準備に取り掛かった。
とは言っても、身体の準備をするだけなのだけど。
ここ一週間ほどは、夏休みに入る前…君とは色々あって、逢えていなかった。
なので、私は完全に身体の整備を怠っていたので、どんな展開になっても良いように…整備しなきゃいけなかったのだ。
そんなことしている間に、夜も更けていった。
それから、軽く一眠りして…今。
地元では、景色が良いと評判のデートスポットの公園に、私は早く着いてしまった。
仕方がないので、時間まで日傘をさして公園内を散策していた。
すると、同じように日傘をさしてウロウロしている女性を見かけた。
十時────
今、私は君の目の前に立っている。
でも…君の前に立ったのは、やはり私だけではなかった。
夏休みに入る前、君と色々あったのはこの件でだった。
まさかこんな未来が訪れるなんて、三年前のあの頃の私には思いもしなかった。
君のことが私は…こんなにも【好き】なのに。
あの五月に起きた出来事のおかげで、付き合い始め双方の親公認となった。
その日から、私と君の距離は0.01ミリすら無くなり、ゼロ距離になっていたハズだった。
でも二年前の四月を迎えたある日、君の周囲の状況が一変してしまった。
そして、運命の日が今日…訪れてしまった。
私と並んで立つ他の顔ぶれについては、よく知っている。
夏休み前のあの日も、君のそばにはこの顔ぶれが居たような気がする。
他の皆はどんなこと考えながら、君の前に立っているんだろう。
「今日は暑い中、急な僕の呼びかけに集まってくれて、みんなありがとう。」
そんなことを考えている時だった。
突然、君が口を開いた。
当然、君の前に並んで立つ私達の間に、緊張が走る。
ここからの君の口から出てくる言葉の一言一句、気を抜けないからだ。
「ここに居るみんなと僕が出会った時期は、一人一人違うよな?だから、一緒に過ごした時間の長さも、それぞれ違う筈だ。」
君が何を言わんとしているか、何となく理解できた。
過ごした時間が長かろうが短かろうが、君にとっての判断材料ではないということを。
「これ以上、みんなを期待させても悪いと思った。だから…僕の口からハッキリと言わせてもらおうと思う。」
二年前、この状況に陥ってからずっと…その言葉を私は待っていた。
「ぼ、僕の“神推し”は…っ!!ゆ…ゆ…。」
実を言うと、この場にいるのは皆…名前に“ゆ”がついているので、現段階ではドローだ。
それに、君の不変的な“神推し”の名前にも”ゆ“がついていた事を思い出した。
君が言う次の一言で、ここにいる私達の二年にも及んだ戦いに終止符が打たれるのだ。
思えば、初めて君と出逢ったあの日から、全てが始まった。
三年前の私も…今日と同じように、君との出来事を思い出していた気がする。
現在から、三年前、過去へと話が展開していきます。
いずれ、現在のこの時間軸へと戻り、後編に繋がります。